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EP99



教会の礼拝堂を、クラウスにエスコートされながら、キティは2人並んでゆっくりと歩く。


参列席には沢山の王侯貴族達。


私達はそんな2人を暖かく見守っていた。


最前列の通路を挟んで右側に王家。

左側にローズ家が座っている。


ローズ将軍が嗚咽を上げながら、号泣していた。

夫人はそんな将軍の背中を優しく撫でている。

ノワールは花が綻ぶような美しい微笑みを浮かべ、キティを見つめている。



んで、私は何故か王家に混じって座らされている。

更に何故かエリオットの隣。

まぁ、めでたい席だし何も言わんが、後ろが心なしかざわついてんじゃねーか!





クラウスの隣で微笑むキティを見つめていると、堪えきれずに目尻に涙が浮かんできた。


キティの幸せそうな顔。

これが見たくて頑張ってきたんだなぁ、としみじみ思う。



ボサ子を突然失って、ポッカリ空いた胸の穴を抱えながら、何とか前を見て生きていたけど、クリシロのペットにプチッと踏まれて死んだ時には、正直、ほんの少しだけ、あの哀しみから逃れられるかもしれない、と心の隅で思っていた。


大好きな異世界に転生して、俺tueeeな新たな人生を得れば、もしかしたら立ち直れるかもしれないと思ってたんだ。



だけど転生したのはよりにもよってこの〈キラおと〉によく似た世界。

乙女ゲー全開な世界観に、クリシロを必ずぶん殴ると心に誓ったもんだ。


でも前世最推しのキティたんが生きる希望になった。

しかもそのキティがボサ子の生まれ変わりとか、もう笑うしかない。


クリシロがどこまで知ってて私をこの世界に生まれ変わらせたのかは分からんが、いや、どうせ全部知っててだろう。



自分もそうだが、ボサ子も乙女ゲームの悪役令嬢に転生してるし。

しかもよりにもよって、何をしても死の結末に向かう、キティ・ドゥ・ローズに生まれ変わってた。


今世でもボサ子に纏わりつく死を、必ず私が払い退けると誓った。



ヒロインがニアニアだと知った時は、復讐出来るチャンスだとさえ思ったけど、結局キティがボサ子だったお陰で留まる事が出来たから、キティに助けられたのは私の方かもしれない。



ここは結局、どんな世界なんだろうと思う。

前世の縁の糸が複雑に絡まったまま、私達はこの世界に生まれ変わった。


ボサ子と私、ニアニアとシャカシャカ、それにシャックルフォード。

何の為に私達はここに生まれ変わったんだろう。


クリシロは私の好きな所に生まれ変わらせてやると言ったのに、結局私もここに引き寄せられた。



ここが〈キラおと〉の世界そのままだと信じていたキティにフィーネにシャックルフォード。

だけどそれぞれの生き方は全く違う。


周りの人間を大事に想い、自分の宿命に抗ったキティ。

この世界をゲーム感覚で思うままにしようとしたフィーネとシャックルフォード。


例え何度生まれ変わろうと、フィーネとシャックルフォードが満足出来る世界などないだろう。


人を傷つけ、所詮ゲームのキャラだから、何をしてもいいと言う人間に、何故世界が優しくしてやらねばいけないのか。



だけどキティは違う。

誰の事も、ただのゲームのキャラだなどとは思いもしなかった。

この世界の家族も友人も、心から大事にしてきた。


キティはそんな皆を悲しませたくなくて、運命と戦うと決めたんだ。



それに、クラウス。


いくら前世最推しだからといって、三次元のクラウスは、色々とゲームとは違っていた筈だ。


それでもキティはクラウスを選んだし、そのクラウスを受け入れた。


普通に考えれば、自分にあんな異常な執着心を向けてくる相手など、恐怖以外の何者でもない。


だけどキティはボサ子の頃から人並みはずれて懐が深い。

そんなキティだからこそ、あのクラウスを受け入れられたのだろう。



ゲームのキャラなんかじゃない、クラウスそのものを。



私達はこの世界に産まれて、生きて、様々な出会いがあって、経験して……。


この第二の人生も、なかなかに上々だ。

再びこの世界で出会えた私達は、きっと次こそ図太く生きて、しわくちゃになっても親友でいられる。


きっと楽しく生きるんだ!




幸せそうに寄り添うキティとクラウスを見つめながら、私は目尻に涙を浮かべ、その幸せが溢れる空間に微笑んだ。





厳かに祭壇の上に上がり、大司教の前に立つ2人。


流石に父子だけあって、大司教はミゲルに良く似ていた。



「これより、クラウス・フォン・アインデルとキティ・ドゥ・ローズの婚約宣誓式を行う」



「クラウス・フォン・アインデル。

キティ・ドゥ・ローズと婚約を交わし、時が満ちた後、伴侶として迎えると誓うなら、この宣誓書にサインを」


クラウスは、サラサラと宣誓書にサインをした。


「キティ・ドゥ・ローズ。

クラウス・フォン・アインデルと婚約を交わし、時が満ちた後、伴侶として嫁ぐと誓うなら、この宣誓書にサインを」


キティも、クラウスの署名の下にサインする。



そして2人で参列者である私達の方へ向き直った。



「博愛の神クリケィティアの御元にて、ここにこの2人の婚約が成立しました」


大司教が両手を広げ、そう宣言すると、大聖堂は拍手に包まれた。


キティは、しっかりと顔を上げ、優雅な微笑みで皆の祝福に応えていた。





おめでとう、キティ。

おめでとう、ボサ子。

今度こそ幸せになって。

アンタの大好きなクラウスと。





込み上げる涙を堪えている私の隣で、エリオットが人目も憚らず、うっうっと泣いている。


「アンタちょっとは王太子としての威厳を守りなさいよ」


呆れて込み上げた涙も引っ込む私に、エリオットはポロポロ涙を流しながら涙声を返してきた。


「ぐすっ、大事な弟の晴れ姿に涙もしないなんて、ううっ、無理……。

クラウスぅ、大好きなキティちゃんと一緒になれて良かった……あぅぅ」


いや、まだ婚約式なんだが……。

婚姻式の時はコイツどうなんの?

泣きすぎて溶けるんじゃない?

ナメクジみたいに溶けるんじゃないっ?


ほぉっ!

コイツを滅する方法など無いかと思っていたが、意外なところに光明がっ!



ニマニマ笑いながら、そうなったらすかさず塩をかけて確実に始末しよう、と考えている私の手を、エリオットがギュッと掴んだ。


そして涙に濡れる瞳でジッと私を見つめる。


「次は僕達の番だね」


なんでやねん。


頬を染めてはにかむエリオットの顔面にクリームパイ(パイ投げ用)を食らわせたい衝動を必死に堪える。


手元にあれば間違いなく顔面にクリーンヒットさせてたけど。



「私達の番など来ない」


むっつりとした顔で答えると、エリオットはふふっと笑った。


「またまたぁ、リアだって憧れるでしょ?

綺麗なドレスを着て愛する僕の隣を歩き、皆に祝福されながら教会で愛を誓うんだよ?」


ねっ?と小首を傾げるエリオットを、パイといわず拳でシンプルに殴りたい。


そんな目に遭うくらいなら、今すぐこの場でちょっと待ったーっと立ち上がって、キティを連れ去り、愉快な冒険の旅に出る方がマシだ。


追手(怒れる魔王)をかわしつつ、ドキドキワクワクの冒険の旅にランナウェイッ!


ちょっと命懸けだけど、全然そっちに走るね、私は。



刺すような目で睨みつけると、エリオットはアレ?といった感じで首を傾げた。



幸せムードにあてられたようだが、軽率だったな。

貴様の狙いがよく分かった。

そんなもの、端から全てぶっ潰してやるけどなっ!


口だけをニヤリと歪め、全く笑っていない目で見つめてやると、能天気にニコニコしていたエリオットも流石に冷や汗を流し始めた。


「リア、照れてるだけだよね?

綺麗なドレスに3食昼寝付き、ついでに僕も付いてくるんだよ?

ちょっとは憧れるよね?」


唇の端をひくつかせるエリオットに、私は冷酷にバッサリ吐き捨てた。


「全然、まったく」


途端にエリオットがシクシクとまた泣き始める。

まぁこれは、絶望の涙のようだが。



「ううっ、新婚旅行ついでに1年くらい各国を周って視察するのもいいかなって思ってたのに……」


涙声のエリオットの言葉に、私は思わずバッとエリオットを振り向いた。


なにぃっ!

各国っ!

1年っ!

周るっ!


ぐっ、い、いぎだいっ!

色んな国に行ってみたいっ!

まだ見ぬダンジョンも制覇したいし、エルフにもユニコーンにも会いたいっ!

ドラゴンばっかりもう飽きたっ!


思わず食い付いた私に瞬時に気付いたエリオットは、おやおやぁ〜といった感じで、ニヤァリと笑った。



「まぁ、王太子である僕だから実現出来る訳なんだけど……。

残念だなぁ、王太子妃になれば一緒に行けるのに」


意地悪な言い方をしてクスクス笑うエリオットを、今すぐ床にめり込ませたい衝動に耐えながら、私はグギギッと唇を噛んだ。


その私の唇を親指で撫でながら、エリオットが優美に微笑む。


「どう?なりたくなった?王太子妃に」


フワッと嬉しそうに笑うエリオットに、私は意地を貫き通す。


「……ならない」


地を這うような低い声に、エリオットは余裕の笑みを崩さないまま、片眉を上げた。


「……そう、良いの?大陸も渡れるよ?」



マジかよっ!

帝国より向こうに渡るには、王国、帝国両方の許可がいるのにっ!

そんなん中々許可出ないのにっ!


ぐぞーーっ!

あり得ない程の好条件じゃないかっ!


が、しかし、その為にはコイツと……。


無理無理っ!

王太子妃とかゆくゆくは王妃とか、メンドクセーーーーーッ!

お断りだっ!



私はプーンッとそっぽを向いて口を尖らせた。


「だが断るっ!」


若干未練たらしく声が震える私をエリオットが見逃すはずもない。


見なくても、エリオットのニヤニヤ笑いが目に浮かぶようだ。


チクショーーーッ!

絶対に超一級の冒険者になって大陸を渡る許可をもぎ取ってやるんだからなっ!











キティとクラウスの婚約式も無事に終わり、私達は祝賀パーティーの会場に場を移した。


目の前で幸せそうにダンスを踊る今日の主役2人を眺めながら、私は手に持ったワイングラスを傾けた。



「シシリア、少しは淑女らしくしようとは思わないのか?」


隣のレオネルがワインをバカスカ飲んでいる私を横目で睨む。



「あらお兄様、私これくらいじゃ無様に酔っぱらったりしませんよ?」


親切に教えてやると、レオネルの眉間に深い皺が刻まれている。


「そういう事を言っているんじゃない」


深い溜息付きでそう言われ、こりゃ小説教が始まるな、と思っていた時、エリオットが優雅な足取りでこちらに向かってきた。



「シシリア嬢、私に貴女をダンスに誘う栄誉をお与え下さい」


胸に手を当て恭しく頭を下げるエリオットに、周りが騒つく。


女性をダンスに誘う文句としては珍しいものではないが、基本、本命の女性を他と区別する為に使うような言い方だ。


ノワールやアランさんなんかはジョーク程度で使ってくるが。


だが王太子ともなると、そんな台詞口にしよう筈もない。



ちゃらクセェ上にしゃらクセェ奴だ。


これで断った日にゃ明日の新聞の一面トップは私だな。


主役であるキティを差し置いてそんな事出来るはずもないじゃないか。


まぁ幸い、今日もフリードは拗ね拗ねモードで自分の宮から出てきてないし、ファーストダンスはさっきレオネルと済ました。



私は仕方なく、エリオットの差し出した手を取った。


「光栄ですわ、エリオット殿下」


優雅に微笑むと、エリオットは私をダンスホールまでエスコートしていく。


向かい合ってダンスを始める私達を、貴族連中が好奇の目で眺めていた。



「チッ」


小さく舌打ちをすると、エリオットが驚いた顔をする。


「微笑みながら舌打ちとか、リアは器用だね」


全くどうでもいい感想に、余計に苛立ちながら、私は優美にエリオットとダンスを踊った。


「今日もリアは美しいね……。

シャンデリアの輝きも霞むほどだよ。

そんなリアとこうしてダンスを踊れるなんて、夢のようだ」


うっとりと瞳を潤ますエリオットに、ウゲッと舌を出したくなるのを必死に堪える。


アホな事言ってないで、その腰に回した手をサワサワさせるのを今すぐやめろっ!

滅するからな、絶対にいつか滅してやるからなっ!



ダンス中の事故に見せかけて、エリオットの足を思いっきり踏み抜いて粉砕させるか?などと思っていた時、曲が終わりに近付いた。


ヤレヤレ、命拾いしたな、エリオットめ。

そう思いながら体を離そうとする私の腰をグッと引き寄せて、エリオットはニヤリと笑った。


こ、コイツっ!

禁断の二曲目を強行突破する気かっ⁉︎

それは家族か婚約者にしか許されてない行為だって、お前が知らない訳ないよなぁっ⁉︎


何とか体を離そうともがくが、全く微動だにもしない。

そうこうしているうちに曲が終わり、次の曲が始まりそうになった!


すかさず私は目眩を起こしたかのように後ろに頭を少し傾け、困り顔でエリオットを見つめる。


「殿下、申し訳ありません。

何だかのぼせてしまったようなので、テラスで頭を冷やしてきますわ」


弱々しい声を出してやると、エリオットはわざとらしく慌ててみせる。


「それはいけない。シシリア嬢、それでは私もお供しましょう。

さぁ、私にもっと身を預けて」


ますます腰をグイッと掴まれ、テラスへと連れていかれる……。


くそっ!

だから、ついてくるんじゃねーよっ!



広間から離れ、テラスに移った私は念の為、防音魔法を展開してから、まだ私の腰を抱いたままのエリオットの手をバチンッと叩いた。


「いい加減に離しなさいよ」


ギロリと睨みつけるが、エリオットは平気な顔でニコニコ笑っている。


「ごめんごめん、嬉しくてはしゃいじゃった。

それ、着けてくれたんだね」


嬉しそうに自分の首をトントンと指で叩くエリオットに、私は自分の首元に目をやった。


そこには以前エリオットから貰った、ロイヤルブルーサファイヤのネックレスが月の光を反射して輝いている。



「べ、別に、今日のドレスに合うからってだけで……」


しどろもどろに言い訳する私に、エリオットは幸せそうにその目を細め、ふふっと笑った。


「ありがとう、着けてくれて」


そう言ってエリオットは、そのネックレスに顔を近づけ、サファイアに口付けをした。


胸のすぐ上にエリオットの唇が触れていることに、みるみる顔に熱が集まってくる。



「ちょっ、やめろっ、バカっ!」


真っ赤になった私にエリオットはクスクス笑っている。


「リア、いつかこれを着けて僕とファーストダンスを踊ってね、二曲目も」


妖しく微笑み、その瞳を甘く揺らすエリオットに、何故か胸がドキリと跳ねた。



私は真っ赤な顔を俯かせて、ボソリと呟く。


「……本当に、しつこい」


その私の呟きに、エリオットが楽しそうに笑っていた……。





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