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EP.9



拝啓、じっちゃん。

オラ今、めちゃんこワクワクしています。



「さて、それではまずはそれぞれ、魔法とは何か、教えてくれるかい?」



場所を外に移して、いよいよ赤髪の魔女改め、師匠の魔法特訓が始まった。


家を一歩出ると、何とそこは森の中の開けただだっ広い平地だった。


慌てて後ろを振り返るが、さっきまであった筈の師匠の家が消えている。


あ〜〜っ!魔法最高っ!

絶対に極めるっ!



先程の師匠の問いに、私は鼻息荒く答える。


「はいっ!魔法は便利で楽しくて面白い、あと強いっ!」


私の答えに、師匠は声を上げて笑った。


「いいね、実にシシリア嬢ちゃんらしい。

それではクラウス坊や、魔法とは?」


師匠に聞かれて、クラウスは自分の顎を掴み、無表情だが、考え込んでいる様だ。


「……魔法は、便利だか、ただそれだけだな」


クラウスの答えに、師匠は頷いた。


「なるほど、実に王国人らしい答えだ。

次、ジャン坊。魔法とは?」


「うぇっ?魔法?……魔法は……。

ん〜あんまり使えないから、分かんねー」


ジャンの答えに、師匠はまたアハハと笑った。


「そうかそうか、いいね。

では、ミゲル坊や、魔法とは?」


ミゲルは困った様に眉を下げ、もじもじとしている。


「あの、私は神の使徒ですので……。

出来るのは神に祈りを捧げる事くらいです。

光属性の魔法で戦うなど、とても……」


ミゲルの答えに師匠は少し残念そうな顔をした。


「ふ〜む?なるほどなぁ。

まぁ、いいじゃろう。

では、レオネル坊や、魔法とは?」


師匠に問われたレオネルは、眉根を押さえて難しい顔をした。


「魔法とは、無為な差別を生むものです」


師匠も難しい顔で頷く。


「王国ではなかなかその認識が改まらないね。まぁ、国の成り立ちが起因になっているのだから、難しい話だ」


師匠の言葉に、今度はレオネルが神妙な顔で頷いていた。


「では、ノワール坊や、魔法とは?」


「魔法とは、力を与えられた者が持たざる者を守る一つの手段です」


ノワールの答えに、師匠は意外そうな顔をした後、笑った。


「うんうん、なるほど。

随分としっかりした見解だ。

ローズ将軍は武だけで無く魔法も得意だったな。

帝国の魔法騎士にも匹敵する腕前だとか」


師匠の言葉に、ノワールは照れた様に微笑んだ。


「はい。父には常に、自分が倒れたら後がないと思って戦え、と教えられています。

だから、絶対に倒れる事は許されません。

大事な者を守れなくなるからです。

その為に、使える物は全て使うのがローズ流です」


師匠が関心した様に何度も頷く。


「ローズ家の流儀は素晴らしいな。

では、ノワール坊やは大事な者を背負ったまま、倒れない程には魔法を修得した、とそういう事かな?」


師匠に意地悪く笑われて、ノワールはたじろぎながらも答える。


「は、はい、恐らく……」


ノワールの答えに、師匠はふむとうなずき、急に遠くを指差した。


「ところで、あの山の頂上に、アイスドラゴンが巣食っていてな、近隣の村の家畜を襲って困っている、と討伐依頼がきている。

討伐ランクはAランクじゃな。

私がでしゃばらなくても、帝国の優秀な騎士団やギルドパーティが何とかするだろうが……」


師匠は遠くにそびえる山の頂上に向かって、掌を広げた。


「皆忙しいらしく、後回しになってるのでな。

丁度良いので………ファイヤーボーミングッ!」


ドゴォォォォッ!!


師匠が叫ぶと掌から炎が一直線に山の頂上に放たれ、凄まじい轟音と爆炎を上げてそこを爆撃した。


「ふむ、ちとお節介だったかな?」


そう言って師匠が私達を振り返った。

私とジャン、ミゲル、レオネルは顎が外れる程口を開いて、燃えくすぶる山の頂上を見ていた。


ノワールは額に汗を浮かべ、クラウスは口角を上げ、珍しく笑っている。



師匠はニヤリと笑って口を開いた。


「さて、私はここから一歩も動かずして、Aランクの討伐依頼をこなしてしまった。

なるほど、シシリア嬢ちゃんの言う通り、魔法は便利じゃな。

そして楽しくて、面白く……強い。

ちなみにさっきのは火属性の魔法なのだが、おや?ジャン坊と同じ属性じゃな?」


師匠はジャンをチラッと見た。

ジャンは目を見開いて、ギラギラとその瞳に炎を燃やしている。


満足そうに頷くと、師匠は今度はミゲルに振り向く。


「おや、しまったねぇ……。

あんた達に見せる為、つい派手に攻撃してしまった。

人が巻き込まれて、怪我でもして無ければよいが……」


師匠の言葉に、ミゲルがカッと顔を赤くして、大声を上げる。


「そんなっ!早く救助に向わねばっ!」


そのミゲルに対して、師匠はカラカラと笑い声を上げた。


「いやいや、すまんすまん。冗談じゃよ。

あの山はアイスドラゴンが生き物を駆り尽くし、放つ氷の瘴気で腐りかけておる。

近付く人間もいないし、先に私も確認してから砲撃を放ったからね」


ミゲルはホッとした様に胸を撫で下ろした。


「じゃが、帝国にはこの距離からでもエリアヒールで傷付いた者を癒せる魔法治癒師がおる。

ミゲル坊や、あんたと同じ、光属性の持ち主なんだよ」


ギラリとその目で射抜かれて、ミゲルは息を飲んだ。


「戦いには負傷兵が付き物だ。

ミゲル坊やはその者達の前でただ祈るだけかい?

あんたは光属性では戦えないと言ったが、戦い方にも色々あるのさ」


優しく諭す様にそう言われ、ミゲルは神妙に頷く。


「さて、ノワール坊や。

私のやり方だと、大事な者をその背に庇わずとも、脅威を退けられるね。

とても、効率的だと思わないかい?」


ノワールはスッと師匠の前に膝を突き、頭を下げた。


「自分の自惚れを思い知りました。

どうか僕の魔法の師となり、ご指導下さい、魔女様……いえ、師匠」


そのノワールの隣に、ジャン、ミゲル、レオネルも並び、膝を付いた。


そしてクラウスが4人の前に出て、片手を胸に当て、ゆっくりと片膝を付き、師匠に向かって頭を下げる。


「俺は誰よりも強くなりたい。

師匠、俺に魔法を教えてくれ」


師匠は跪く5人に、優しく微笑みかける。


「よいよい、立ちなさい。

私から見れば皆可愛い孫みたいなものだからね、魔法ならいくらでも教えてあげるよ」


師匠の言葉に、皆ゆっくりと立ち上がる。


私の隣でエリオットがニコニコ笑って口を開いた。


「師匠〜ひ孫の間違いでは〜?」


揶揄う様な口調に、師匠は片眉を上げ、エリオットを見た。


「孫以下は皆同じじゃ」


17歳くらいにしか見えない美少女に、孫とか言われても……。

まったくしっくりこない……。



「さて、まだレオネル坊やの答えが出てなかったね。

レオネル坊や、何故王国では魔法によって差別が生まれる?」


師匠の問いに、レオネルは難しい顔で口を開く。


「王国では、王侯貴族並びに格式高い、古くからある貴族家の者にしか魔法が使えません。

新興貴族や平民には魔力や属性が無いのです。

そのせいで、貴族の中に魔法は一種のステータスとして根付いています。

結果、魔力のある者と無い者で、明らかな差別が生まれてしまった。

そのくせ、生まれ持って選ばれた人間にそれ以上の努力や鍛錬は不要、むしろ下賤な行為だと、魔法の能力を上げることさえ忌避する。

更には魔力量が高ければ高いほど高貴な証拠と、正統なる血順にまで口を挟む輩が現れる始末……」


レオネルはこめかみを押さえて苦々しい顔をしていた。



えっ?

正統なる血順?


「何?あんた、何かいちゃもん付けられているの?」


私が隣に居るエリオットに首を傾げて聞くと、エリオットは困った様にふふっと笑った。


「僕は魔力量が低いからね、人並み外れた魔力量を持つクラウスに王太子位を譲るべきだと言っている人達がいるんだよ」


エリオットの言葉に私は呆れて口をポカンと開ける。


はっ?

何言ってんの?そいつら。


「その者共が数年前に興した新興勢力が

魔法優勢位派です。

彼らはクラウスを王太子に就ける事を目的に活動している」


レオネルの話の続きに、顎が外れるかというくらいに驚愕した。



いやいやいや。

待て待て待て。

そんな事になったら、王家が潰れるぞ?


青ざめてレオネルを見ると、頭が痛い、とばかりに深い溜息を吐いた。


「彼らの言う様に、生まれつきの魔力量などで王位を決めてしまえば、国が荒れます。

王族同士で争え、と言っている様なものだ。

何故、そんな危険思考になるのか……。

まったく理解出来ない」


レオネルは理性的では無い人間がとにかく苦手、加えて話が通じない人間だともう壊滅的。

その辺、まだまだ子供といった感じだ。



「なるほどのぅ。王国は変わらんの。

では、魔力とは?

なぜ王国では魔法が平民にまで普及しない?」


師匠に聞かれてレオネルは首を傾げる。


「……何故か王国では、王侯貴族と歴史の古い貴族の間にしか魔力を持った子どもが産まれません。

そのせいで、魔力を持っている者同士で婚姻を繰り返しています。

もちろん中には魔力の無い相手を伴侶に選ぶ人間もいますが、そうすると必ず産まれた子供には魔力が無いのです」


レオネルの答えに、師匠は深く頷いた。


「そう、それは帝国でも同じ事、魔力のある者が無い者と子を成せば、産まれた子には魔力は備わらん。

つまりな、魔力とは血の繋がりなんだよ」


私達は師匠の言葉に、目を見開いた。


「……血の繋がり…?」


誰とも無く呟いた言葉に、また師匠が頷く。


「正しく帝国の血を繋ぐ事、それが魔力を受け継ぐ条件じゃ。

逆に言えば、それさえ揃っていれば、貴族でも平民でも関係無い。

つまり、魔力は貴族である事のステータスとはなり得んという事じゃな。

魔力量についても、ただの個人差じゃから、帝国では貴族より魔力量の高い平民などいくらでもおる。

そこで位などを測っていれば、国は大混乱じゃな」


のっほっほと笑う師匠に、私達は自分達の国の無知ぶりに顔を赤くした。


考えてみれば当然の事だ。

王国の起源は、帝国の皇子なのだから。

帝国の皇子とその側近達が、王侯貴族と貴族として帝国の血を繋いできただけの事。

それが長い歴史の中で、魔力こそが正統なる貴族の証、ステータスだと改悪してしまったのだ。


「では何故、国を興す時に帝国の平民を連れてこなかったのですか?

そうしていれば、王国も帝国同様、貴族だけでは無く平民にも平等に魔法が行き渡った筈です」


ノワールが急に口を開いて師匠に問うと、師匠はふむと一度頷き、少し悲しそうな表情になった。



「それはな、許されなかったからじゃ。

王国を興した元帝国の皇子。

初代国王には、秘匿されし秘密があった」


そう言って、師匠が自分の足元に手をかざすと、そこから黒いモヤの様なものが、じわりと湧き出てきた。


それを見て、皆息を飲み、思わず後ずさる。



あ、あれは……。

もしかして……。


皆、同じ事を考えた様で、額に汗を浮かべ師匠の足元を見つめる。



「そう、これは闇属性の闇魔法の力……。

王国の初代国王の力と同じ物じゃ」


師匠の言葉に皆が固まり、動けずにいる中、クラウスだけが前に出て、師匠の足元に広がる黒いモヤなど気にもしない様子で、師匠に詰め寄った。


「何故あんたがその力をっ⁈」


珍しく大きな声を出すクラウスに、師匠は優しく微笑む。


「クラウス坊や、これを怖がる必要など無い。

こんなものは個人の個性に過ぎん。

クラウス坊やなら大丈夫。

大丈夫なんだよ」


そう言って師匠が手を上に上げると、その黒いモヤがみるみる増えて、空を覆い、辺りを闇が包んだ。


暗く覆われた空に、師匠がチョンチョンと指を振っていくと、小さく輝く光がポツポツと闇に浮かび、どんどん増えていくと、まるで夜空に輝く満天の星空の様に綺麗に瞬いた。


皆、空を見上げその美しさに感嘆の声を上げる。



「ほれ、綺麗なもんじゃろ?」


お茶目に片目を瞑る師匠に、私は目を輝かせて何度も頷いた。



これが忌避され秘匿にされる、闇属性の力……。


そうとは思えない美しさに、私は空を見上げ、溜息を吐いた。




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