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EP.0



雲一つない青空。

私は仰向けになって、倒れていた。

目の前に広がる一面の青と、草原の草の香り。

瑞々しい草の香りを肺いっぱいに吸い込み、私はやったっ!と口元が緩んだ。


……直後、今まで生きてきた10年間の記憶が脳に怒涛の勢いでなだれ込んできて。

私は目を見開き、怒りで目の前が真っ赤に染まる。



「あっの野郎っ!間違えたわねーーーーっ!!!」


隣で、先程落馬した馬が共に(いなな)いた。





ご機嫌よう。

私は、シシリア・フォン・アロンテン。

このアインデル王国の公爵家の令嬢ですの。

王族の縁戚に連なる我が家は、現国王とお父様が従兄弟の関係にあたります。


とても高貴な身分にも関わらず、私の役割はお約束の悪役令嬢ですの。


そう、この世界は、私が前世でプレイしていた〈革命!レボリューション キラメキ⭐︎花の乙女と誓いのキス2〉

略して〈キラおと2〉の世界の様です。


〈キラおと2〉でのシシリアは、超優等生の歩く貴族辞書。

格式高い貴族そのもののような存在。


対してヒロインは自由奔放で破天荒な男爵令嬢。

その破天荒ぶりで貴族のしがらみや淑女の嗜みなんかをバッタバッタと薙ぎ倒していきます。


その考えに賛同した、この国の第三王子とその側近達が攻略対象。


恋に学園革命にっ!

新しい時代のニューヒロインっ!

古く悪き伝統代表の悪役令嬢を断罪に追い込んでっ!

必ず成し遂げる!

学園革命っ!

レボリューションっ!!!



…………。

重複してるんだよぉぉぉっ!!

革命とレボリューションが重複して渋滞してんじゃねーーーかっ⁈


こんな間抜けな乙女ゲームの世界に生まれ変わるなんて、もう、泣くに泣けない……。



私はこんな目に陥った原因の存在を思い出し、ギリリっと奥歯を噛み締めた。


あの野郎っ!次にあったらタダじゃおかないわよっ!


くそったれーーーーっ!






私の前世は日本の女子高生だった。

家は古くから続く茶道の家だったので、それなりに作法に厳しく育てられてきた。


学校も歴史が古く、少々格式の高い女子高に通っていた。

所謂、お嬢様学校というやつだ。


……夢を壊す様で申し訳ないけど。

お嬢様学校といっても、現代では皆が想像するような代物ではない。


確かに生徒達は、幼い頃からそれなりに厳しく育てられてきた人間が多く。

真面目で上品、清く美しく、お淑やかなお嬢様達ばかり……。

だか、外面だけである。


実情は、皆んなそれぞれ、まぁ、好きにやっている。

合コンに命をかけてる子、彼氏を切らした事のない子、2次元にはまっている子、BでLに腐っている子……。


普通の学校と同じ様に、皆んなそれぞれ女子高校生を楽しんでいた。


私はというと、まぁ女子高の中では背が高い方で、部活が剣道部だったもんで、女子校お約束の所謂〝王子様役〟なんてもんをやっていた。


面倒見が良く(お節介とも言う)元来お調子者なもんで、まぁまぁノリノリで演じていた。


頭の中が小5男子と同程度だった私は当時、色恋に興味が無かったのも原因だったと思う。


王子様役として、学校の女子達(女子しか居ないが)にキャーキャー言われてはいたが、皆に平等だった訳では無い。

好みだってあった。


私の好みは、低身長で幼児体型。

つまり、小さく華奢で体の凹凸の少ない、所謂、ロリッ子というやつだ。

あの、小さい体でピョコピョコこちらの大股についてくる様が、……良い。


好みのロリッ子を見つけると、思わずお早うからオヤスミまで見守りたい衝動に駆られたものだ。


さて、そんな私だか、ある事故で呆気なくこの世を去った。



あれは、高三の夏。

予備校の帰りだった。


見上げるビルよりもずっとデカい、超巨大な猿?ゴリラ?が急に目の前に現れた。


その超巨大猿ゴリラは、ひどく怯えた様子で周りをキョロキョロと見渡し、おずおずと足を一歩前に出した。


……私の居る方へ。


プチッ。


超巨大猿ゴリラに踏まれて、私は呆気なくこの世を去ったのだ。





「この度はっ!本当にっ!申し訳ありませんでしたーーーっ!!!」


次に気が付いた時、私は一面真っ白な場所で、これまた真っ白な人(?)に土下座されているところだった。


「はっ?何ここ?えっ?誰?」


私の問いに、真っ白なその人(?)が顔を上げた。


長い髪も肌も目も睫毛まで真っ白で、見た事も無い様な綺麗な顔をしていた。


「この度は私の不手際により、多大なご迷惑をお掛けし、誠に誠に申し訳ありませんでしたっ!」


言ってまた土下座スタイルに戻る。


いやいや、話が分からん。


「あの、取り敢えず、頭を上げて下さい。

それからもう少し詳しく説明をお願いします」


私の言葉に白い人はおずおずと顔を上げ、言いにくそうにモゴモゴと喋り始めた。


「あの〜実は貴女を踏み殺した巨大猿人は私のペットでして〜」


ふむふむ。


「建造物なんかを建てるのに便利なんで、何匹か飼っているんですけど〜」


ふむふむ。


「その中の一匹とボール遊びしていたんですが、私の手が滑り、その、ボールが思ってたより遠くに飛んじゃって……」


はいはい。


「それを無理にキャッチしようとした猿人が、足を滑らせて、貴女方の地上に落っこちゃいましてね?」


はぁ。


「それでその〜、まぁ手違いで貴女をプチッと……」


ああ゛っ!!!


瞬間、怒りを露わにした私に、白い人はヒィッと悲鳴を上げて、両手で自分の顔と頭を守る体勢になった。


手違い?

ってそれ、どんな手違いだよっ!


あれか?

私はペットと戯れてた所に巻き込まれて死んだのか?


あるっ?そんな事、普通あるっ?


いや、無い無い無い無い。


「あのっ!猿人は直ぐ様回収しましたし、壊れた建物も全て元に戻しました。

……ただ、貴女を助けるのに、ほんの数秒間に合わず……。

本当に申し訳ございませんっ」


はぁ〜っと私は深い溜息を吐いて、ヒラヒラと白い人に向かって手を振った。


「事情は分かりました。

なら私を早く戻してくれません?」


「はっ?何処に?」


「いやだから、元の世界に……」


白い人はハッとした顔をして、ブワッと冷や汗を滴らせる。


うわぁ〜……何か嫌な予感がしてきた。


「あの、大変申し上げにくいのですが……」


……はい。


「壊れた建物を直したり、他の方から記憶を消したりは出来るのですが……」


……はいはい。


「命を元に戻す事は出来ないと言いますか……」


……ああ゛っ!!



再び気色ばむ私に、白い人はまたヒィッと悲鳴を上げた。


「すみませんっ!本当にすみませんっ!」


気が付くと私は白い人の胸ぐらを掴んで拳を振り上げていた。


あっ、いかんいかん。

怒りで我を忘れていた……。



ーーこの時一発殴っておかなかった事を、後々後悔する事になる事を、この時の私はまだ知らない。ーー




「で、じゃあ、どうしてくれんのよ?」


私は腕を組み、仁王立ちで白い人を見下ろした。


白い人はオロオロしながら、上目遣いでおずおずと口を開いた。


「転生って知ってます……?」



ハイキタコレーーーーーーーーッ!!


ちょっと期待してたけど。

いや嘘、大分期待してたけどっ!


マジキタっ!

これよ、これこれっ!


これこそ私が待っていた一言なのよっ!


だって、たぶん、この白い人、神様とかそんな感じしない?

そんな人の手違いで巻き込まれて死んだ可哀想な人間(だいたい日本人)って、転生させてもらえるじゃん?

お約束じゃんっ?


で、異世界だよね?

異世界って言って。

異世界っ!ハイっ!異世界っ!


私はワクワクした顔で、うんうんと高速で頭を上下に振った。


「はぁ、やっぱり。貴方方は話が早くて助かります。

貴女を元暮らしていた世界とは別の、異世界に産まれ変わらせる事ならできるのですが……」


「OK!お願いっ!」


やや被せ気味に答える私に、白い人は目をパチクリさせてた。


「で?どんな世界っ?魔法はっ?魔物はっ?ドラゴンはいるっ?」


ずずいっと前のめりで白い人の顔を覗き込むと、白い人は顔を引き攣らせて、苦笑いを浮かべた。


「ハ、ハハ……本当に話が早い。

産まれ変わる世界は自由です。

貴女のお好みの場所に産まれ変わって下さい。

こちらが全面的に悪いですから。

それと、他に必要なものがあれば付与しますので、遠慮無くどうぞ」


白い人の言葉に、私は口元をだらし無く緩めて笑った。


ハ……ハハハ…マジか……。

チートまで貰えんの……?


夢のチート異世界転生っ!

やった。

やったやったやったやったっ!


私は拳を振り上げ、涙を流した。


やったぜ!かーちゃんっ!明日はホームランだっ!



私の頭の中は小5男子と同等程度なので、もうっ!異世界や冒険や俺TUEEEEに憧れまくっている。


魔法と剣の世界で、仲間のエルフやロリッ子魔道士、獣人剣士なんかと旅がしたいっ!とかずっと思っていた訳で。


もちろん、現代令和を生きるただの女子高生にそんな事、起きる訳がない、訳がないのは分かっていたけど……。


起きたっ!そんな事起きたっ!

くぅぅぅぅっ!踏まれてみるもんだねっ!猿人にっ!


ひゃっほ〜い、ひゃっほ〜いと飛び跳ねグルグル回っていた私は、気が済むと白い人の所にぴょ〜んとひとっ飛び(大股)して戻った。

シュタッと目の前に着地する私に、もはや白い人は恐怖の表情を浮かべている。


「じゃあ、遠慮なく。

スタートダッシュは必須だからさ。

レベルは全部カンストしといて。

あと、魔法は全属性。

それから、チートスキルもお願いっ!」


私のキラキラした(小学生レベル)目に、白い人は申し訳無さそうに頭を下げた。


「申し訳ありません、レベルカンストは造作もないのですが、魔法全属性はちょっと……。

やはり魂にも才能というものがありまして、貴女の場合は、火、水、風、土の4属性ならば与えられるのですが……。

それから、チートスキルについても、やはり魂との相性がありまして。

貴女にはレベル15程度の魅了のスキルなら付与出来ます」


え〜〜〜っ⁈

もっと闇とか光とかの格好良さげな魔法も使いたかったな〜。

それに、チートスキル、魅了って。


なんか悪っぽい。

いや、エロっぽい。


私の考えを読んだかの様に、白い人は慌てて顔の前で手を振った。


「いやいやいや、魅了といってもレベル15程度ですので、相手から好感を得たり、信頼を寄せられたり、初対面でも直ぐに覚えて貰えたりとか、その程度です。

相手を意のままに操る程では無いですよ?

ただ、同じ魅了スキル相手には、スキルレベルが上の相手でも、貴女にはスキルは通用しません。

まぁ、と言うより、お互い通用しないって事ですね」


なんか、グッとビジネススキルっぽくなったな……、正直、微妙。


でも、仕方ないか。

魔法は4属性貰えるらしいし、しかもレベルはカンスト。

チートスキルの方も、まぁ、異世界に行ったってお金は必要なんだし、何か商売するなら必要なビジネススキルだよねっ!


あと、最初から魅了無効なのもいいじゃん。

爆乳サキュパスに良い様に操られなくて済む。


うんうん、と私は1人納得して頷いた。


「分かった!オーケー!じゃあ、それで」


「本当にアッサリしていますね、貴女」


私の返事に、白い人は呆れ顔だった。



……しかし、白い人白い人じゃ、やり難いわね……。


「やい、そこの人殺し白い人っ!」


私がビシッと白い人を指差した。


「ひ、人殺しって……本当の事ですが……辛みがすごい……」


何か泣き崩れてるが、そんな事はどうでもいいから。


「貴方、名前は?人殺し白い人じゃ、呼びにくいじゃない?

いや、私は別に良いんだけど。

やっぱ長いから、殺白?コロシロ?」


「クリケィティアですっ!

私の名前っ!博愛の神、クリケイティアと申しますっ!」


白い人が血相を変えて答える。


「くりて……?ケア?クリケットティー……?

あ〜〜っ!もうっ!長い上に呼びにくいっ!

決めた、貴方はクリシロッ!ハイ決定っ!」


「もう、何でも良いです。

人殺し要素さえ無くなれば……」


クリシロはダバダバと止めどなく涙を流している。


よしっ!気に入ってくれた様だ。


「じゃっ、クリシロっ!とっとと転生させてよ」


私の言葉にクリシロは、ハイハイと立ち上がると、両手を大きく振り仰いだ。


途端、私の足元に円形の見た事も無い文字が描かれた、サークルが浮かび上がる。


そこから放たれた白い光が、私の身体を包み込むと、フワッと身体が浮かび上がった。



フゥーッ!キタキタキタキタッ!

これこれっ!めっちゃソレっぽいっ!



「さぁ、貴女の願う世界を想い浮かべて下さい」


クリシロに言われて、私はぶつぶつと呟いた。



魔法、魔物、ドラゴン、勇者、魔王、王国、ロリッ子魔道士、俺TUEEEEっ!!


フワフワと身体がどんどん浮かび上がる。


白い粒子が私を包み込んで行く。


やったっ!行けるっ!本当に行けるっ!


待ってろよっ!異世界っ!


私は大声でクリシロに叫んだ。


「何か、色々あったけど、ありがとぉーーっ!

クリシローーッ!もう会う事ないけど、達者でねーーっ!」


私の叫びに、クリシロも叫び返してきた。


「またっ、お会いする事になると、思いますよーーっ!

〜〜〜によろしくーーっ!」


クリシロの言葉は、残念ながら全部は聞こえなかった。



白い光に包まれながら、私の意識は遠のいていく……。


懐かしい笑顔が浮かぶ……。


ニコニコと笑いながら、ゲーム画面を私に見せる、あの子の笑顔……。






次に気がついた時、私の目の前には雲一つない青空。

私は仰向けになって、倒れていた。

(冒頭に戻る)






ク〜リ〜シ〜ロ〜ッ!

あ〜の〜や〜ろ〜うっ!


次に会ったらぶん殴って、ペットの猿人の餌にしてやるっ!!!

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