5 保健室
「ほら、早く脱ぎなさい。」
あれから保健室に行って先生が魔法で汗を流してくれることになった。
特に恥ずかしがることなく裸になる。
そしてシャワールームの中に入る。
「いい?」
「はい。」
俺が返事すると俺の頭上に魔法陣が浮かび上がる。
それから水が流れる。
しばらく流してもらい汗をしっかり流す。
「もう大丈夫です。」
汗をしっかり流せたのでストップを言う。
水が止まると、シャワールームのドアを上げる。
「はい、これタオル。」
「ありがとうございます。」
先生は少し離れた椅子の方に向かって座った。
「ここのシャワールームの必要性が就任した時にはわからなかったけど、この3年間ほぼ毎日使うとわね。意外と必要だったなんて。」
「もう俺の専用みたいなもんですけどね。」
少し笑いながら返事をする。
対戦の後はここに治療されに来ていたのだが体が汚かったので、治療の前にアン先生が水で流してくれるのが当たり前になっていた。
初めは俺の裸に赤面していた先生も3年近く見続けたら耐性がついてしまったらしい。
一通り体をふき終わった後、あらかじめ持ってきていたバイトの服に着替える。
俺のバイト先は亡くなった母の妹ミサが店を出している飲食店だ。
貴族のようなお偉いさんが来るような場所でもなく、不良が集まったりするような怪しい店でもない。
普通の定食屋だ。
俺はウエイトレスとして働いている。
「そのバイト服、最初は全く似合わなかったのにいつの間にか様になるようになって。」
「余計なお世話ですよ。」
アン先生が茶化してくるが適当に流す。
「バイトは何時からなの?」
「3時ですね。」
バイト初めの頃はお昼時から働いて、最後までいたのだがきつすぎる。
ピークの昼には何かしらの理由をつけて行かなくなってしまった。
「その時間から何するのよ?」
先生も3時からということに疑問を持ったらしい。
アン先生は一応貴族なのでバイトをしたことがないのだろう。バイトをしている貴族は貴族ではないと心の中では思っている。
「掃除とか、夜に向けての準備ですよ。」
「それなら夜から働いたらいいのに。給料泥棒じゃないの?」
これだから貴族は。
「別に客が来ないわけではないですよ。それに需要はきちんとあります。」
「そうなの?」
貴族は平民の暮らしをあまり知らない。
中には自分の領土について知りたいと思ったのか知らないが、貴族がいることもあるがそうない。
「そうなんですよ。」
俺が適当に返事をする。
「話は変わるけど、あなたどうして魔力流せないの?身体強化が使えなくなったのは知っていたけど魔力を流すことぐらいできるでしょ。」
「・・・もうバイトに行きます。」
人は魔力を持っている。その魔力を使うことを魔法という。
魔力を持っていない人はいない。魔石に触れれば勝手に魔力は流れる。
しかし、俺は魔力を流すことが出来ない。
理由がないわけではない。でも、どうしようもない。
答えたくなかった俺は、バイトに行くと言って保健室を出るのだった。




