02.火の粉
「お前生意気なんだよ」
本日の全講義が終了し、寮に帰るところで呼び止められた。
そのまま人気がなく、日の当たらない裏通りに連れていかれる。
「入学初日から随分と調子に乗ってるよな」
「ちょっと顔が良いからっていい気になってんじゃねぇよ」
壁を背に同級生3人に囲まれ、体格のいい上級生1人が少し離れたところでこちらを静かに睨んでいる。
「こんな事をして家に告げ口をされたらどうするのですか?」
「はっ! 言ってみろよ! いじめられましたので助けてくださいってなぁ? 世間体が1番大事な貴族の大人が相手にしてくれるわけねぇがなぁ?」
こいつの言っていることは正しい。
貴族というのは欲と見栄が全ての醜い生き物だ。全てではないだろうが、領民を思う本物の貴族などゴミに埋もれ押し潰されているのが現状だろう。
子供にまで理解されてるのは多少呆れてしまう…
「…そうですね、言っても相手にしないでしょう。それどころか名前に泥を塗る気か、と叱責するかもしれません」
「そうだ、うす汚い妾子でもその程度は理解できるようだなぁ?」
「ええまぁ…少し下調べした程度でそれが露見したのですから、嘆かわしいことですね」
「下調べ? ならよ、こういう時どうすればいいのかも調べてきたのかよぉ!?」
同級生の1人が殴りかかってくる。体術の講義はあるのだが本当に受けているのか疑うほどに大振りで無駄が多い。
このままリンチされ、今後目立たず大人しく過ごすのが理想だろう…上手く立ち回れば、こういったウザったい絡みは限りなく少なくできる。
だがそれはできない。今、周囲からの評判を落とす訳にはいかない。
「うぐっ!!」
飛んできた拳を交わし、腹に一撃重たいのを入れる。
「なっ!? てめぇ…!」
「絡まれた時の対処方法なんてどうとでもなりそうなのはともかく、必要な事は抜かりなく」
「やりやがったな? 大人しくボコられてればいいものを」
待機してた上級生もゆっくりこちらに近づいてくる。
路地裏に生々しい音が何度も何度も鳴り渡った。
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一応、サキュバスという近接向きではないが魔族の血が俺には流れている。
だからこそ人間とは多少、身体能力に差がある。
人間の、更には学園で裕福に過ごしている子供なんかに負けるわけが無い。
「ッ…! うう…」
上級生1人、同級生3人は青アザだらけの顔になり、内2人は地に伏している。
立っているのはこの連中を率いてきたリーダー格の奴だけだ。
「てめぇ… 潰してやる!」
「まだかかってくるおつもりですか?」
「へっ、んな事しなくても生徒4人の顔を青アザだらけにしたんだ! 明日てめぇは退学だよバカが!」
この貴族の子供間の暗黙のルールとして顔を殴りすぎてはいけない…暴力が露見してしまうからだ。
喧嘩やいじめ、どのような理由でも暴力を振るった振るわれた、どちらもマイナスのイメージを持たれてしまう。
彼の言う通り、これが露見したら退学は確実だ。
そして、ここまで顔がアザだらけなら隠すのはもう無理だろう… 他の学生だったなら。
「ひーる」
「なっ!?」
4人全員のアザがまたたく間に消えていく。
「殴った…? なんのことでしょう? 身に覚えがないのですが…」
「くそっ! 舐めやがって…!」
まだ反抗的な目を向けてくる
他の3人は半ば諦めている様子だ。リーダー格だけが引くことなくガンを飛ばしてきている。
「くそっ! くそっ! 妾子の分際でイキリやがって…! 女どもにちやほやされていい気になってんじゃねぇよ!」
「バーン! もう行こうぜ! 勝てねぇよこんなやつ!」
「ふざけんな! ふざけんなよ!! こんなやつに尻尾巻いて逃げるとかありえねぇだろ!」
目の前で言い争いが始まった。
うざい醜いうっとおしい…
ここで無理やり帰ってもいいが、リーダー格がこの様子じゃまた同じことが繰り返し起こるだろう。
冷めた目でしばらく様子見してると、バーンと呼ばれた同級生の様子がおかしくなる。
「あ゛あ゛っ!! くそがっ! ならよぉ! これならどうだ!!」
両手を前に突き出し、掌をこちらに向ける。
すると、掌が光を放ち始めた。
「火傷も治せるってことだよなぁ? じゃあこっちも魔術使ってやるよ!」
「お、おい待て! バーン! 流石に火属性魔術は!」
完全に暴走し始めたリーダー格に上級生がひとりで止めに入る。だが、その声は届いていないようだ。
「焼けたところで問題ねぇだろ!? 治せるならよぉ!」
狭い裏通りで、目と鼻の先に火球が浮かび上がる。
この距離で火球なんて放てば、自分も他の3人も巻き添えを食らう。それどころか建物まで壊れる。
建物が崩壊し、瓦礫が振り注げば下手したら全員仲良く生き埋めだ。
だが魔術を放とうとするリーダー格の生徒の目は完全に正気ではなく、そんなこと気づいているはずもなかった。
「火炎弾!!!」
この距離で対象することは現役魔術師でも困難だろう。
当然、治癒魔術しか使えない俺では対処できるわけもない。
だが、彼の友達なら対処は可能だ。
「水流砲!!!」
火球が放たれる刹那、横から水属性の魔術が放たれた。
勢いよく発射された水が火球を打ち消す。
「んなっ! 何しやがるルーシー!」
「…え? いや…なんでおれ…?」
「おい! 今ので人が集まってくるぞ!」
「ちっ! 行くぞお前ら! 早く立て!」
直径約1mの火球を水が消化され、それにより水が蒸気に変わり、辺りに勢いよく噴射される。
裏通りとはいえ流石に近くにいた人が集まってきている。
俺もここにいては面倒なことになるだろう。
俺はその場を後にし、とある場所へ向かった。
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