五千年の刻印
刻印
abaudo;アバウド
遂に、目的の日欄虞に着いた。
なんだかここに来るだけだったのに、もう疲れたな...
ふと辺りを見回すと、海面に反射した太陽の光が眩しく、ずっと奥に見える大きな山に日が半分だけ姿を見せている。
清々しいほど澄んだ朝の空に、倦怠感も吹き飛んで行った。
山の周りは黄色く色づき、静かな波風が俺たちの身体を通っていく。
そんな風景に、心地よく表しにくい感情が芽生える。
「ラズ。 やっと着いたね」
ここまでずっと一緒だった美乃が、俺の横で小さく体育座りをした。
そして心地いい顔で鼻を鳴らした。
「気持ちいーね。 どう? ここに来てなんか思う事でもある?」
「どうって...別に何も思ってないよ」
「うそだぁ。 ふぅ...」
海風が吹くたび、高く甘い声を唸らせている。
「そういえば...ラズと会って、もう暫く経つわね...」
「ああ...確かにそうだな」
初めて会った時が、遠い昔の様だ。
今でも美乃に関してわからない事もあるが、それもどうでもいい。
今は美乃といるだけで、嬉しいし、落ち着ける。
美乃は俺の...
「......なんだろう」
「うん? どうしたの?」
「...いや、なんでもない」
「何よ、そんな嬉しそうな顔して」
美乃は俺の肩をトンと軽く叩いた。
「これからも一緒にいようね...ラズ」
「......」
気恥ずかしくて、なかなか声が出ない。
「...一緒に...いてくれないの?」
美乃は俺に緊張させるような視線を送って来る。
「...るよ。」
「ん?」
「だから...その、一緒にいるよ!」
「...ふふ、そんなに顔を赤くして、恥ずかし...」
「なんたって、美乃は俺のパートナーなんだからな!」
口から出まかせで言ったが、その言葉に反応して、美乃が一気に顔を染める。
「...な、ななななななにをそんなおお大声で言ってるの!?」
「そうだよ、美乃はどんな時でも背中を預けられて、しかも思いやりが強いし可愛いし...」
「ちょ、ちょっと落ち着いて? ラズ?」
嬉しそうな美乃を見て、俺も何だか嬉しくなり、完全に調子に乗る。
その時遠くで見ていたおっさんが、コーヒーカップを片手に言った。
「ったく、青春しやがって」
その近くを通り過ぎたハルカが、目に赤い灯を光らせて、ラズたちの方へ歩みを進める。
「はぁ、この船でああいう風紀を乱す輩がいるなんて、排除してくるわ」
「まぁ、待て...じゃあお前さんは、将軍様とああいう事...してみたくないのか?」
おっさんは妙に楽しそうな顔をする。
「えーっと...何言っているの? それに私に触らないで...」
ハルカの肩を掴んできた手に、グーパンを入れる。
「ああ痛い...そんな事しなくても...」
「それ以上無駄な口を叩いたりしたら、異空間へつながった牢屋へ閉じ込めるから」
「まあまあまあ...そんな事は置いといて、実際どうなんだ?」
しつこいおっさんに対して、ハルカは拳を向けた。
「言ったわよね? それ以上無駄な口をた...」
「じゃあ、将軍様とはああいうスキンシップを取りたくないと?」
「スキンシップ...」
ハルカが視線を逸らし俯いたのを見ると、自分が有利な位置に立ったと悟ったおっさんは、大きく笑う。
「あーはっは! 想像しちゃった? ねぇ、想像しちゃった?」
「そんな// 私なんかが...おこがましいわ...変な妄想をさせてくれたわね! 殺すっ!」
顔を赤く染めたハルカが顔を上げた時、おっさんは直ちに走って逃げて行った。
「逃がさない」
一方ラズ達は初々しさ満載、付き合い立てのカップルのように楽しんでいる。
「美乃...」
「ラズ」
おっさんとハルカは仲良く鬼ごっこ。
「おらぁ、追いついて見ろやーい」
「殲滅対象。 確認」
そしてその時船が港に入り、操縦士の男が声をあげた。
「そろそろ着きまっせ!」
その途端、皆の動きが止まり、美乃とハルカが操縦士に謎の視線を向けた。
さっきまでは港が遠くに会ったはずなのに、今はもう港に到着していて、何百人と並ぶ武士がいた。
その列の一番奥から、ゆっくりと歩んでくる女性がいる。
その女性が目の前を通り過ぎると、横にいる男たちが波のように頭を下げた。
そして女性がどんどん近づいてくる。
黒く長い髪をしていて、目元を布で隠していて顔はよくわからない。
着物が良く似合う清楚な立ち振る舞いで、俺たちの乗った船の前で止まった。
するとハルカは、身を乗り上げて船から降り、頭と体をさげる。
「ただいま戻りました。 将軍様」
将軍様と呼ばれた女性が、誰にも聞こえない小さな声で言った。
「...五千年の刻印?」




