胡玲
胡玲
abaudo;アバウド
いつも思うけど、どうして美乃という奴は空気が読めないんだろうか。
しかもクソが付くほどに痛い。
「いたたたたたぁ...」
機嫌高めの声をあげながら、俺を背にもたれていた。
そこに俺がいる事を今知ったのか、わざとらしく身体を揺らした。
「あぁん...いたいぃ...」
「お...重い...そこ、どいて...」
「はぁっ! 重い!?」
あ...声に出ちゃった。
さっきまで大振りに揺れていた美乃が、今度は小さく小刻みに震える。
「ねぇ、ラズ? あそこにいる藍色の髪に話は全部聞いたわ。 あなたもどういう状況かもうわかってるんだよね?」
美乃が開けた穴の向こうに、チャイナドレスを着た藍色の髪の女性が、ほんの一瞬だけ視界の端に写った気がした。
「え、あ...うん」
「じゃあ、もうその人達のお話は聞かなくても大丈夫だよね?」
「ん? そうとは...」
「少し外でお話しましょう? ね、みんな? それでいいよね」
美乃が全員に圧をかけていく。
すると皆は...
「あ、あぁ、詳細とかは...そうだな...ゔゔん...日欄虞に行く道中に、ハルカにでも聞いてくれ...」
おっさん...声震えてるし、威厳何処に捨ててきた?
「ラズ殿すまない、私はどうすることも出来ない」
俺は九条の手を握って、泣き縋る。
「九条さぁん!」
九条はため息に続けて、酷く軽蔑した目で言う。
「女の子に重いと言ってしまったのだ、それ相応の罰が下るのは至極当然の事だろう」
「...」
九条のごもっともな発言に、俺は言葉を失う。
すると、ハルカが俺に手錠をかけた。
「それじゃあ白虎、その男の拷問の為の器具はこっちにあるから...」
絶望の顔をした俺をハルカと美乃は、更に追い打ちをかける。
なんで拷問器具があるんだよ! で、ハルカは楽しそうにするな!
「さぁて、まずはどの指から逝く? それとも、全裸で街中に晒す?」
「そうね、まず最初は私と同じ辱めを受けてもらいたいわ」
「いや、私は切腹が一番かと...自分の手を染めない、いい策だと思うが」
なんで九条までこの会話に入って来るんだよ...
...まさか、“重い”一つでこうなるとはな...
「そう言えばラズ、治癒魔法持ってたんだよね?」
美乃のその言葉で、顔じゅうの筋肉がピクついた。
そしてその夜、魏樂の街に洪水と悲鳴が鳴り響き、民は、「邪神様がお泣きになられている」のだと、代々語り継がれる伝説になった。
翌朝、兵士たちが船の準備をしている中、俺は船の先端でぼーっとしていた。
「...」
「具合悪そうだな」
九条が今更心配そうに話しかけて来る。
「...」
もう知らない、美乃も九条もハルカも、誰も信じない。
「昨日は少し悪ノリし過ぎたかしら」
美乃は首を傾げて、面白そうにハルカと話している。
当然ハルカは、「まだまだやってやっても良かったのに」とか「どうせなら今夜も」とか...
不謹慎もいいとこだろ。
「はぁ...」
「まぁ、そう怒るなって」
「うるせぇ...って言うかおっさん、あんた仕事いいのか? 確かなんかの団長なんだろ?」
「歩兵士普通科・竜騎兵団長だ、それにこれが仕事になった...あと俺はまだ三十半ばだ!」
「おっさんだろ!」
おっさんは妙に馴れ馴れしく俺に話をかけて来る。
でも三十半ばとは思えない貫禄だな。
無精ひげのせいか?
「そう言えばおっさん、俺を本気で殺しに来てたよな?」
「そうか? はは、一度スイッチが入ったらなかなか止まらねーからな...ガハハ」
「しかも...」
「おっと、点呼の時間だ。 ほら、行くぞ」
「点呼? ...ておい」
そう言っておっさんは俺の手を引っ張って、皆が集まっている船の中心に入っていった。
「よし、皆集まった。 それじゃ、出航! ...の前に、皆に話をしなくてはならないことがある。 魏樂と日欄虞と黒蓮堂...それらについて私が知っている事全てを...」
次回、魏樂と日欄虞と黒蓮堂。




