黒髪の英雄
黒髪の英雄
abaudo;アバウド
スンとした太刀筋で、黒髪で首から華のネックレスをぶら下げた和服の女性が、一瞬の間に敵を刀で切り刻んでいた。 もはや刀身の実態は見えない。
血も出る前に肉片が地面に落ち、その後にやっと血が周りに噴き出した。
和服の女性は、俺と同じぐらい背で、俺に気付くと今度は俺に剣尖を向けてきた。
「お主も仲間の者か?」
威勢のいい声が、俺の動きを硬直させる。
そして俺は首を横に振る。
「ち、違う。 俺はあいつらの...仲間じゃない」
しかし、俺がこう言っても彼女は剣尖を下ろさず、なんなら今も威嚇した厳しい目つきで俺を睨んでいる。
彼女は血の付いた刀身を、一度振りきって血を跳ねさせた後、刀身を鞘に納めた。
そして、今度は格闘の構えで、後ろの拳を俺の目の前まで出して、寸で止める。
さっきとは違い、肉眼で見えるほどの速度だが、やっぱり脳の処理を超えた速度で俺の顔面に拳を見せつけてきた。
「お主、まさか嘘を吐いてたりはしないだろうな?」
「まさか...そんなことはしない」
より一層目つきを強張らせて、俺の事を信用してないぞとばかりの威嚇をしてくる。
何か信用させる手は...こいつは敵に回したらダメだ。
「一つ、質問をさせてくれ」
「...」
心臓の激しい鼓動、それに手足がしびれる様な感覚。
「お主は人間を信じているか?」
「それは人間の事を信用しているかって事か?」
「......そうだ。」
「それなら俺は、断固として信用していない」
「何故だ?」
俺は片手を頭に当てて、眉を寄せて俯き答える。
「俺の大切な人は、人間に殺された...」
「えっ...」
彼女は顔を渋らせて、俺の鼻下に向けていた拳を一瞬だけ震わせた。
しかし、すぐ顔を強張らせて、強く拳を握りなおした。
「人間に殺されたというのはどういうことだ?」
「幼馴染と...母親を、多分自分の父親に...」
「自分の...父親?」
涙が出そうだ。 自己防衛でも働いているのだろうか。
「そうだ...あんたも気付いているだろうけど、俺は半人半魔だ」
彼女は唇を震わせて、最後に聞くと小さく呟いた。
「お主は生きたいか...もし生きたいなら絶望をして何を生きる盾とする?」
「俺は生きたい...最初は復讐を盾に生きてたが、今は、希望を盾に...白虎の美乃と...まだ生きていると勝手に信じてる...あの幼馴染の笑顔を盾に...俺は生きていたいと願ってる」
何故こんな時に、しかもこんな量涙が出るんだ。
泣きたいわけじゃない。 でも涙が止まらない。
しかも、俺だけじゃなくて、どうしてあんたまで泣いてるんだよ。
「...お主は、私と同じなんだな...信じよう」
「ドゴォン!」
白虎の白い光線を放つ風魔法が、そばの民家一帯と地面を破壊していく。
見事ハルカに直撃し、ハルカは空中から撃墜された。
「私はお主の味方をする。 私が信じるのだから、お主は私を裏切ったりするなよ?」
涙を方に、圧を掛けて彼女はハルカに向けて剣を振り下ろす。
「蓮斬刀身・風快ノ慰霊」
そして、ハルカのいる所に全身全霊の追撃を放った。
その瞬間、ハルカのいる場所に影が通り、その場には何もいなくなってしまっていた。
「殺ったのか?」
空中から降りてきた彼女は、美乃と俺に頭を下げる。
「...すまん、やりそこねた」
「いいや、あなたが誰かは知らないけど、よくやってくれたわ」
「すまない...」
周りには民間人の姿も気配もない。
多分“ハルカ”とやらは、去ってしまったのだろう。
「まぁ、結果的に皆無事だしよかったじゃん」
「そうとも言えない...だってあいつらは私の敵なのに...お主らに相手をさせ、挙句の果てには逃がしてしまうなど、一家の恥...どうか不甲斐ない私を許してくれ」
「いいよ...いいよ」
俺と美乃は苦笑いを浮かべながら、一生懸命彼女をなだめる。
「おいお前ら!」
そして今になってやっと兵士が来た。
それから暫くして、俺たちは牢に閉じ込められていた。
「出せよう!」
そうして俺達の牢獄生活が始まった。
次回、腐り行く鎖




