死ぬ確率
勝てる確率
abaudo;アバウド
「おいおい...嘘...だろ?」
さっきまで大きかったはずの二つの鎌が、今度は小さな鎌に何十個にも分裂している。
まるで鎌が、意思を持っているかのように宙をうにょうにょと動いている。
思わずその光景に、恐怖を抱いた。
十個程度の鎌が、一気に俺の方へ飛んでくる。
直感的に死ぬと悟った。
しかし動けない俺を見て楽しんでいるのか、寸で止める。
何本かは俺の剣を狙って、剣を破壊して来た。
こいつは面白がっているのか?
腹立たしいが、それ以上に恐怖が募った。
挑戦的な目を、じっと俺に向けている。
まるで意思のないロボットの様だ。
人間や悪魔を理解しているのか、それとも俺の心情を悟っているのか。
こいつはあの鳥の様に、魔物にしては頭がいい。
まさかこいつも...
いや、考えるのはやめておこう。
いずれにしても、敵だ。
俺の息は、考えれば考えるだけ荒くなり、心臓の鼓動は早くなる。
手まで震えてきた。
そうだ...
さっきも思った通り、俺はここで死ぬのかもしれない。
いや、確実に死んだ。
あがいていた自分の全てが、ここに来て終わるのだ。
「ごめん...セラ」
悲しくて、自然と涙がでる。
喉の奥が痛い。
見かねたのか、一振りの大きな鎌を作った狐鎌鼬は、俺の首に向けて位置を調整しながら鎌を横に傾ける。
まあ、俺の人生...ここで終わりなら、いいかもしれないな。
強い敵を倒して、倒される...
何も恥ずかしい死に方はしていない。
この先、何か最悪な事があって...死にたくなるかもしれない。
だったらここで...
諦めようと思ったのに、涙は止まらない。
やっぱり死にたくない。
横から振られた鎌は、もう俺に突き刺さっていた。
刺されても意識はある。
その時俺は、死んだのだなと................後悔した。
せめて、何か一つ...偉業でも成しておいたら良かったな。
そして、鎌が俺から離れていく。
でも何でだろう...
まだ意識はある。
痛みも感じている。
でも、動くことは出来ない。
するとその時、不思議な事に狐鎌鼬が痛そうに倒れたのだ。
俺は何もしていないのに...
これには流石に気が付いた。
「発動していたのか!」
俺は首に手を当てた。
俺の首に鎌の突き刺さった痕は、ない!
つまり...
サバイバー...
俺にチャンスをくれた。
「ファイアアロー!」
何もない空中から、炎をまとった一本の矢が放たれた。
倒れた狐鎌鼬に、更に追撃を加える。
「まだまだ...斬風!」
風の速さで、見えない刃が数本飛んでいく。
尾と鎌と接している部分を、重点的に狙う。
もっとだ...
「斬風! 斬風! 斬風!」
追加で何本も何本も飛ばしていく。
尻尾が血でにじんでいる。
このままやれば、切り刻んでちぎれるかもしれない。
「斬風! 斬風! 斬風!」
俺のステータス画面に映る魔力も、元々少なくなっていた事もあって、もう...ない。
出来る事なら、早く死んでほしい。
まあ、こいつを倒せるかはわからないけど...
そんなこと考えていると、完全に魔力が切れてしまった。
今回は倒れたりしないだけ、ましなのだろう。
しかし、これでもうワープも出来なくなった。
つまりここから逃げることが、出来なくなったのだ。
残っていた最後の斬風が発動する。
「ギアァァン」
狐鎌鼬の叫ぶ鳴き声だ。
尻尾が切れた。
やった!
でも、死んではいない。
出来ることは、全てやったつもりだ。
悔しい...悔しいけど、仕方ないのだろう。
魔力を消費しないスキル。
水魔法なら何とかなるかも知れないが、肝心の水魔法に関して、やくに立つスキルがない。
俺は何かないかと、ステータス画面を...半ば諦めた表情で見つめていた。
その時、俺の視線に輝きを放つスキルが目に入った。
燐光・覇。
一瞬だけ青白い炎を出して、一気に攻め入る技。
集中力と冷静さが必要になる。
つまり少しだけ時間が必要になる技だ。
使えるかわからないけど...絶望的な状況の今は、これに頼るしかない。
俺は目を瞑り、深呼吸をして、これを操る自分の姿を想像する。
目を瞑っているからか、かすかな空気の歪みさえ聞こえて来そうだ。
すると、目の前で、狐鎌鼬が起き上がったことを察する。
見ないでもわかる。
宙に浮かした大きな鎌が、揺れている。
そんな微かな音を、俺の耳は感知していた。
多分、あっちもあっちで、限界が近いのだろう。
俺もそうだ...
限界が近いからこそ...限界だからこそ、最後は運に身を任せている。
そろそろか?
この技で...全てが決まるだろう。
「燐光・覇!」
青白い炎が、俺を包んだ。
俺の集中力次第...俺の想像した事がそのまま起きる技だ。
向かって来た俺の姿は、狐鎌鼬の視界から、青白い炎に包まれ共に消える。
そして俺は、その狐鎌鼬の真後ろへ瞬間的に移動をし、グーで殴りかかった。
その瞬間、かなりの威力に地面の砂が舞い上がった。
間違いなく当たった。
俺は舞い上がった砂の中にいる、狐鎌鼬を見えるまで見つめる。
だがその前に、大きな鎌が舞い上がった砂を割って、グルグルと回転しながら俺に飛んできた。
その瞬間に俺は、思わず息を呑んだ。
だが、大丈夫...これなら避けられる!
絶対にこいつに勝ってやる...いや、勝てる!
そう確信した時、俺のスピードが最高速度に達したバイクのように早くなった。
一瞬でその鎌を避ける。
な、何があった?
俺は迷わずステータスを見る。
すると、俺のステータスが全て爆上がりしているのだ。
これは...ゼイラグトオーバーだ。
新しいスキル。
無性に嬉しくなる。
これで魔力も完全に復活した。
「狐鎌鼬...お前は強かった。」
まだ粉塵の中で、何をしているかわからない狐鎌鼬を思い浮かべる。
そして俺は、その狐鎌鼬に向けて...粉塵に向けて、片手を突き出す。
「ファイアウォールからの...」
死にそうにもなったし、絶望もした。
これで...終わりだ。
空中に十本ほどの、火で覆われた矢が出現する。
ゼイラグトオーバーのおかげで、スキルまで強化されている気がする。
噴き出したファイアウォールが、ショーの最期を彩るかのように激しく燃え上がった。
「お前との闘い、忘れはしないからな」
「...」
狐鎌鼬は何も言わず、少し薄くなった粉塵の中にいた。
「ファイアアロー!」
十本の矢が、同時に放たれる。
ファイアアローが粉塵に触れた時、大きな音がこの部屋に鳴り響く。
爆発音だ。
ファイアウォールを出しておいたのは、粉塵爆発から自分を守るため。
思った通りにファイアウォールは、俺を守ってくれた。
そして、ファイアウォールが消えた時、そこには全身傷ついた狐鎌鼬が、死んでいた。
その死骸を見て、俺は悲しくなる。
「ありがとう...」
そう言って、少しだけ寂しさを抱えて...俺は狐鎌鼬の死骸を持って、美乃のいるところまで、ワープを始めた。
さっきからゼイラグトオーバーで魔力を消費し続けているから、少しよろけた。
「帰ろう」
そう言って、俺はその場所から、瞬時に戻った。
帰った俺は、美乃から変な事を言われた。




