其の漆
其の漆
abaudo;アバウド
敵陣のド真ん中に、ラズは数人の敵を引き連れてワープして来た。
――スルト。
向かって来た魔術師らは、呆気なく倒れた。
近接戦でも、遠距離戦でも、このぐらいの敵になら負けない。
ただ、一つ問題が...
神袴を襲おうとしていた兵士が、俺の右腕を爪で切り裂いた。
「グッ!」
こいつの事を強化していた、部下たちは倒したが...
この兵士...強化されなくても、相当の実力があるようだ。
――暴虐!
心の中で叫ぶと、体が火照っていく様な感覚がわかる。
それから一瞬だけ、体内に火がともされたかの様な痛みがわかった。
痛くはないけど、実際にダメージを受けているのが、自分の体力ゲージから見て取れる。
「あいつには悪いが、お前はここで死んでもらう...」
兵士の爪先が俺の首に近づいた。
そして兵士はそのまま爪をたてて切り裂く。
――shadow familiar。
兵士が切り裂いたはずの俺の首は、全く切り裂かれた様子はなく、更には俺の身体は風船の様に破裂して黒煙に変わったのだ。
そして本来の俺は、兵士の背後にいた。
「鎌の重さを実感しろ...」
――浮樂鎌。
鎌の先を、兵士の首根っこに突き落とす。
「ふっ、、ぐ...」
鎌は命中した。
命中して兵士は倒れた。
倒れて死んだ...はずなのだが、何故か経験値がもらえない。
まだ死んでないのか...それとも。
その時、倒れていた兵士が煙になって、消える。
それと同時に...
「ぐぁっ!」
体力の殆どを消滅させる攻撃が入った。
倒れたはずの兵士が、俺の腹を殴り上げてきたのだ。
詳細を言えば、10万あった体力が今の一瞬にして3千まで削られている。
そして煙になっていた兵士が、いつの間にか怪我一つない姿で立っていた。
もしかしてこれは...サバイバーか?
「ふっん!」
息は吐き捨てて、敵の兵士は俺の元へと向かう。
一瞬よろけた俺は、直ぐに態勢をを整え、紅魂ノ斬印とレベネートブレーカーを両手に持った。
今にも倒れそうな俺の前で、兵士は動きを止めた。
俺はさっき落とした浮樂鎌を浮遊させて、連斬鎌で十個まで分裂させた。
連斬鎌は俺の命令を待っているかのように、空中で舞い続けている。
「敵の兵士ながら、なかなかやるな外国人」
「お前も結構しぶといがな...」
俺も敵も、睨み合って前に出ようとはしない。
睨み合っているその時、敵の兵士は上を指で指した。
そこを警戒しながら見てみると、なんと数十万近くの魔物が落ちてきている。
「な、なんだあれは?」
「同期が本気を出したみたいだよ...」
このままあれが落ちてきたら、間違いなくこっちが消滅する。
「ん? ...ちっ、たく...あぁ、わかったよ」
すると急に何かと話し始めた敵が、出現したワープホールに入って行った。
「それじゃ」
そして敵はいなくなってしまった。
...殺りそこねた...
いや、もう今は魔物たちの対処を考えた方がいい...か。
どうする...この数をどうやって対処する?
残り魔力は4万...
いや、この魔力量じゃ途中できれてしまう。
どうすればいい?
ゼイラグトオーバーが発動してくれれば、なんとかなるかも知れないのに...
そんな事を考えている間にも、どんどん魔物たちは迫ってきている。
...あ、そうだ!
思いついた俺は、急いで九条達の元へ戻る。
「...丁度良かったラズ殿...あの魔物たちを...」
「神袴!」
「はい!?」
魔物たちを見ていた神袴は俺の声に身体をびくっとさせた。
「女神の微笑み...今ここで使えるか?」
「め、女神の微笑みですか!?」
「あぁ、あの魔物たちを止める為に必要なんだ...」
神袴は喉をならす。
「......はい、わかりました。 ただ、使ったらすぐに意識を失ってしまうので、その時はお願いしますね!」
「あぁ、わかった。」
そして神袴は俺に手のひらを向けて、神々しい光を放った。
「完了...しました」
そして直ぐ神袴は倒れて意識を失った。
「ありがとう神袴...」
神袴を近くにあった休憩用の椅子に寝かすと、俺は大声で味方全員に聞こえる様に叫ぶ。
「最前線の全員、直ちにこっちに戻れぇ!」




