其の伍
其の伍
abaudo;アバウド
「「ハルカー!?」」
美乃がそう言った時は、もう取り返しがつかない状況だった。
敵の戦士から投げられた槍は、ハルカに向かって一直線に飛んでいる。
将軍を突き飛ばした反動で動けなくなっているし、美乃は必死に向かってきているが、槍の方が明らかに速い。
――もう、だめだ。
諦めて、ハルカは覚悟した。
「零鳴絶衛!」
突如として現れた透明の壁によって、槍が宙で止まった。
ハルカは今、目の前で起こった出来事に呆気に取られて、足の力が抜けて座り込んでしまう。
ハルカを守った壁は槍を地面に落として、直ぐに無くなってしまった。
「ハルカぁ!」
美乃は泣きながらハルカを抱きしめる。
「死んじゃったかと思った...うぅ」
「え...? な、何が?」
「そんななのに他人を助けようなんて、しかもなぜ私まで...そんなの犠牲者を増やすだけだってわかってるんでしょ!?」
知らない声を聞いた美乃たちは、同時に顔を上げた。
そして自分たちの上空にいる女と、遠くの地面に倒れている片腕の無くしたラズを見つけた。
「ラズ!」
「あ、あんたは...胡玲!」
ハルカは胡玲を見るなり睨みつけて威嚇した。
「ぅ、うるせぇ...俺の仲間たちだ。 傷つけたりしたら、ぶっ殺してやる...」
「ラズ!」
美乃はすぐさまラズの元へ走った。
「来るなぁ!!」
ラズが叫んだところで、美乃は立ち止まる。
すると美乃の一歩手前の地面に大穴が開いた。
深くて底の暗い穴が...
「永咲君一人で瞬間移動すればよかったじゃない! どうして私まで一緒に連れてくるの!?」
「お前を...独りにしたら、向こうの部隊を壊滅させそうだったからな...」
「そんなの、永咲君には関係ないでしょ! どうしてあなたはいつもそうなの...だから、だからあの時も...」
「あの時ってのは、なんだよ...」
何故こいつは俺の名前を知っている。
しかも“前”の、名前を...
「じゃあ...そ、そうね。 もういいわ。 あなたには呆れた...永咲君はいつもそうだったからみんなを巻き込んで、そして一人の女を手違いで不幸に陥れたのよ!」
不幸に?
みんなを巻き込んだ...?
「それは、クラスメイトの事か?」
「もういい...」
彼女は俺に手のひらを向けて、大気からエネルギーを集中させている。
俺の腕の止血は終わった。 でも、もし俺がここを一歩でも動いたら俺は落ちるし、それによって周りを巻き込んでしまう。
この絶対絶命のピンチに、俺は焦る事しか出来ない。
「なぁ...」
「私の名前を言おうとしないで!」
...怒ってる。
彼女は顔を赤くして、歯を食いしばっている。
「そうやって、また私を騙すんでしょ?」
息を吐き捨てて、彼女は呪文を唱えた。
「神は独りで滅する...永遠に咲く桜に怒りを化かし、連なる愚かさに犠牲を刻み自らを殺し、天兵の断絶により迷走する神は終焉を選んだ...」
そして苦しい笑顔を俺に見せた。
「どう? 思い出すでしょ? あなたがした歴史と世界の転換を生み出したあの時を...」
「悪い、お前が何を言っているか全くわからない...」
「...あなたまで、忘れてるの?」
彼女は俺を追い詰めているのに、絶望したかの様な顔をする。
「だって...あなたがやったのよ?」
「本当に分からない...すまないが、俺は教室でみんなといて光に包まれたところまでしか...」
「じゃ、じゃあ...あなたは自分の罪も認識しないで、今を生きてるって事?」
「そ、そうだが...」
そう言ったら、彼女は俯いてしまった。
もしかして、本気で怒らしてしまったのか?
下から彼女の顔を覗くと、彼女は泣いていた。
「!?」
「あ、あれ? ぐすん...う、うあぁん!」
そして彼女はワープホールを出して、泣きながら入って行った。
「もう帰る!」




