懐かしき感覚
懐かしき感覚
abaudo;アバウド
「やめろぉぉぉぉぉぉ!」
俺の気は頂点まで昇った。
しかし、肝心の身体は何の反応も示さない。
動け...動けよ!
立てよ足! 殴れよ手!
「く...くっくく...あっははははははは...はぁぁ、ははは」
何が可笑しい?
身体は動かないくせに、歯と歯の擦れる音はぎちぎちとなっている。
悔しい...こんな奴に美乃を侮辱されて...
嘘であっても、許さない!
「ほらほらぁ...立ってみてよ?」
立てるものなら立ってやって、何発でもこいつをこの手で...
「そんなだから、君の相棒は死んじゃったんだな」
覆面の男が俺の頭を踏みつけて、ぼそっと言った。
.........いつまでも。
「ふぅ、はぁぁ」
「あれ?」
いつまでもそうだ。
俺は美乃に守ってもらってばっかりだ。
――アバドン。
男の目の前が暗闇に支配されていく。
「...なんだ、これは?」
この沸々と湧き上がってくる感覚。
少し楽な旅をし過ぎたせいか、忘れてしまっていた。
あの“鳥”の時も、“狐鎌鼬”の時も、“リドパウロス”の時も...
いつも俺は全力で戦ってたじゃないか。
しかも今回だけじゃなく、何度も殺されたし、痛い思いもした。
「おかしいな? 今はスキルが使えないはず...」
(ゼイラグトオーバー 発動)
そうだよ、これだよ。
俺の本気は...
...斬風!
宙に出現した刃の様に鋭い風が、俺の右目を斬りつけた。
右目から激しい出血。
痛くない。
「何をして...」
これのおかげで直ぐに回復するからな!
暗闇の包まれきると、覆面の男は強固な鎖が腕に絡まり、身動きが取れなくなる。
「...ぅ、あぁぁぁぁぁぁぁ!」
覆面の男が叫びだす。
それもそうだ。
今こいつには激痛が走っているのだからな。
これがアバドンのスキルか...
そうだな、俺のとっておきの悪夢を今からみせてやろう。
「まずは足を斬ったんだって?」
「そ、そうだよ...あの時は気持ちが良かった」
「よく強がれるな」
「伊達に...やってないからね」
レベネートブレーカーと紅魂ノ斬印を両手に持って、男の膝の裏を深く斬った。
不思議だな。 男は声をあげない。
まぁいいか。
「次は何処を斬ってほしい」
「斬るなら。 まずは横腹とかどうだろう」
「注文の通り斬ってやろう」
男の横腹をへそぐらいまで深く斬った。
やっぱり男は苦しそうにしない。
どっちかと言えば笑っている。
「何が可笑しい?」
「ふふ、いや...今君がしている事って、意味が全くない事だよ?」
意味がない?
「少なくとも、お前が美乃を...大切な仲間の一人を侮辱したことは俺にとって最大級の屈辱だ。 俺のやってることが無意味でも、俺は俺のやりたいことをやってるまでだ。」
「だって、今君が斬ってるのは幻影だ」
「そうか、なら消えてもらう。 二度と現れるな」
それから見せられてる幻影を遮断させた。
すると暗闇が消えて、俺の落ちた所に戻った。
「...さて、早く行かなくてはな」
俺はそのまま黒翼をはやして城まで飛んだ。
「あーあ、切られちゃったよ」
「それは鷹舞が余計な事をいったからじゃない?」
丸いテーブルを囲んで、二人の男女が顔を見合わせた。
「しかし、あのラズって悪魔が、錬金術を所持している確率は高いかもしれないね」
「そうね、でも...もう少し監視を続けるべきだと思うわ」
「いや、ハ...」
「その名前で呼ばないで!」
「胡玲の場合は錬金術じゃなくて、ラズ本人の方でしょ?」
フーリンは目を瞑って、腕を組みながらゆっくりと頷いた。
「そう言えば、胡玲って今何歳だっけ?」
「あんたなら知ってるでしょ?」
「確か、五千...」
「うるさい!」
チンウーは一人で大笑いする。
「ったく、あんたはレディの常識も何も知らないのね」
「まぁ、エルフの俺よりぎり長生きなのかもね」
「はぁぁ、そうね。 そんな事より、私もう時間ないから...」
「そうだ、もう神詠の図書はいらないからついでに持って行って...」
「もう内容分かったの?」
「うーん、半分近くは解読出来たかな...でもこれ以上は難しいし、流石にこれ以上借りてたら裏切り行為に思われるかもしれないから...」
フーリンは鼻を鳴らしながら、神詠の図書を受け取った。
フーリンが神詠の図書を受け取る瞬間、チンウーは小さな声で言った。
「黒蓮堂の目的は飽くまで...」
「わかってるわよ!」
「それと、“イロス”の事も忘れないでね」
「そう...ね。 今は厳しいけど、いずれそっちの研究も始めるから...」




