玉泉縁
それは大きな過去
abaudo;アバウド
やっとの思いで台風が過ぎ去り、俺たちは旅の支度を始めた。
皆静かに自分の荷物を整理している。
まだまだ旅は続くが、なんだか終わりが近いように思えて寂しい気持ちだ。
でも、これからまた黒蓮堂との抗争があるのだから、それまでに力をつけておかなければ...
「そろそろ出発できるか?」
「ええ、馬彦にも暫くあってなかったからね...」
馬彦とはハルカの愛馬の名前で、俺たちを乗せて馬車を引いてくれる賢い馬だ。
ハルカは馬彦のいる専用の小屋へと向かった。
俺はハルカの後ろから、ゆっくり確認をしながら行った。
「えぇっっ!?」
ハルカの叫び声?
「...どうした?」
駆け足で馬彦の小屋へ向かうと、そこにはいるはずの馬彦がいなかった。
「「馬彦!」」
俺とハルカは同じように馬彦の名前を呼ぶ。
しかし馬彦からの反応は一切なかった。
それどころか、まるでこの小屋に最初から馬彦なんていなかったぐらい綺麗なままだ。
「一体誰が...」
この村の者達か?
いや、流石に俺たちを欺くような真似はしないか...しかもあの温厚な者たちだ。
それじゃ、誰が...
「もしかして、あの子狐...」
ハルカは混乱しているのか仲間になったはずの神袴の事を疑い始めた。
「神袴なわけないだろう!?」
「それじゃ誰よ! 誰が私の、、私の馬彦を盗ったのよ!」
「落ち着け、きっと痕跡があるはずだ。 それに誰かが奪ったわけじゃなくて、馬彦が何処かに行ってしまったのかもしれない」
「そんなわけないじゃない! それにこんなに綺麗なのよ! ここの何処に痕跡があるって言うのよ!」
完全に錯乱してしまっている。
「落ち着け...」
ハルカの両肩をしっかりと持つ。
しかしハルカは落ち着きを取り戻さず、俺に頭突きをかました。
「いてっ!」
「私だって痛いわよ!」
「じゃあ、なんでしたんだよ!」
その時だ。
小屋の入口から足音が聞こえた。
「馬彦.........」
馬彦が戻って来た!?
「って、なんでおっさんが馬彦乗ってんだよ?」
馬彦に乗りこなしていたおっさんが、上機嫌な様子で戻って来た。
「いやぁ、朝ここに来てやったら大分汚れてたからな...小屋の掃除でもしてやろうと思ってたら、馬彦が身体を洗ってほしそうに来たから川まで連れてってやったんだよ...」
おっさんは俺とハルカに酒でも貰おうとしているような感じで、厚かましく語ってくる。
やばい、ハルカがキレそうだ。
「俺は早いうちに退散して置く...ドンマイ、おっさん」
そう言って俺は小屋から駆け足で逃げた。
「オラァァァ!」
「なんでだ!?」
ふぅ、危なかった。
小屋を出ると前方から生暖かい風が当たった。
すると一瞬だけ立ち眩みを起こす。
「みんなぁ! そろそろ行くわよ?」
「...あぁ、今行く!」
ふぅ、最近ちょっと疲れてるのかな?
まぁそんなのどうでもいいか、と俺は気にせず九条達の元へ向かった。




