夢だと思われし痕跡
夢だと思われし痕跡
abaudo;アバウド
「メグミ~...ちょっと来て」
乱雑に資料の敷き詰められた棚で、シリアが私の名前を呼んだ。
私達は放課後、学園祭の準備の為に呼び出されていた。
どうやら聖徒の思う祭りをやってみようとの声があったらしい。
この世界で聖徒は未知のものであるが故、好奇心があるのだろう。
「ちょっと待って、今整理してるから...」
私も祭りは好きだからあって嬉しい物だけど...
どうして私とシリアとサナだけでやらされたのだろうか。
こういうのってみんなで意見を出し合う物じゃないの?
皆は学園寮に帰っちゃうし、私が永咲の事を好きだという事もバレたし...
「もう!」
「どうしたの!?」
「あ、ごめん...ちょっとイライラして...」
「そ、そうなんだ...ストレスは溜め込み過ぎないようにね」
「わかったよ、ありがとうサナ」
サナはえへへとほほ笑んで、また資料を読み返した。
「皆疲れたでしょ? ほら、後は私に任せて」
さっきまで棚で暇つぶししていたシリアが、私たちの元まで戻ってきて優しい声色で話しかける。
正直、最近のシリアはお茶目が過ぎるというか、羽目を外し過ぎているから信用が出来ない。
「本当に出来るの? 適当にやっちゃダメなやつよ?」
「まあ、まかせて。 私だって代理で国家会議に出た事あるし、何といってもミスの出来ない生活を経験してるから...」
確かにシリアはご令嬢で、凄い人だとは知ってるけど...
「でも、流石にシリア一人に任せるのは...」
「大丈夫、国家の方針を決める時と比べたら、こんな物朝飯前だよ...」
「うーん...まぁでも、飽くまでシリアには“付き添い”で居てもらってるだけだし、そもそもこれは聖徒が考えるから私達に託されたもので、シリアに全部やってもらうのは申し訳ないよ」
「ふぅん、そうなんだ...じゃあ私はまたあっちの棚で遊んでくるから、終わったら教えてね!」
「うん、ありがとう...」
シリアは天真爛漫に棚の方へ向かって行った。
「そう言えばここに書いてある予算なんだけど、ここってどうにかして増やすことは出来ないのかな?」
サナにそう訊ねると、彼女は難しい顔をした。
「どうなんだろ...何をするかによるんじゃないかな?」
「そうだよね...出来ればここの予算を増やしてイベントとかやってみれば、最も楽に聖徒を伝えられたり出来るものだと思ってたけど...」
「イベントかぁ」
そう言って彼女は一瞬上の空な表情をする。
「そう言えば日...」
「どうしたの?」
「ん? 何でもないよ......今日見た夢の話」
サナはにぃっと笑みを見せた。
「そうなんだ」
「あのね、今日昔の夢を見たんだ......」
サナは優しい目つきで窓の外の雲を眺めていた。
「.........子供の頃、日本に帰って来た時の夢...あの時私、イベントで日本の文化の話を聞いてね。 そこに出てきた武士に妙に憧れちゃって...えへへ」
「そっかぁ...だから、サナは歴史が好きなんだね」
「おっ、良く知ってたね...でも...」
「うん?」
急に真面目な顔つきで、眺めていた雲を睨むように目元をこわばらせた。
「意外と...歴史なんて物は短いんだよ...少なくとも、私が経験した時間よりも」
「経験した時間?」
「ううん...何でもない、さっさと終わらせよう」
「そう...だね」
そう言って私とサナは計画を練って先生に提出した――
辺りはもう暗くなってきている。
幸い学園寮が近いから何とかなるけど、夜の学園はいつもとは全く違う。
しかもこの西棟では、階段は一つしかないし絵も所々に張られていてなんだか気味悪い。
「メグミぃ~?」
「わっ、びっくりした!」
シリアは後ろから突然胸を触って来た。
「も、もう~。 驚かさないでよ」
「ごめんごめん、メグミが可愛いからつい」
シリアは調子のいい笑みで、私の横に立った。
「そう言えば、サナは?」
「サナ? さっきトイレに行ってくるって言ってたけど...」
シリアは奥の方にあるトイレを指さした。
「そうなんだ、それじゃ...ここで待っていようか」
そうして私とシリアは暗い廊下でサナの帰りを待った。
「!?」
すると急に隣のシリアが身体をびくつかせた。
「なに!?」
「今、外で何か昇っていくのが見えた」
「...また驚かそうとしてる?」
「してないよ! 本当だって...」
シリアの必死の形相で訴えかける。
でも、ここは三階だし...昇って行くなんてありえない。
しかもこの学園で魔法が使える人なんて限られている。
「空を飛べる魔法なんてあるの?」
「わからないけど、もしかしたら悪魔かも...」
「そ、そんなわけ...」
「でも私が知ってる限りでは、悪魔が使う魔法で“黒翼”ぐらいしか」
シリアがここまで言うなんて...
「ごめんごめーん」
サナが手を拭きながら階段を下りてきた。
「あ、サナ...早く行こう」
私は怖くなって二人の手を引いて学園寮に戻った。
学園寮に戻ると、安心感で私は気付かなかった。
次の日、学園の西棟で“神詠の図書”が発見された――




