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第6話


 俺達は街の中心街から離れて、徐々に人気が少なく雑多な雰囲気を醸し出す地域。簡単に言うならばスラム街の方まで足を運んでいた。




 街では浮いていた俺達だったが、ここではむしろ場に馴染むようになっていた。身分の差による貧富の激しい世界故に、この辺りに住む人間達は従者や奴隷階級、あるいは身分すら明かせないようなアウトローが集う場所だ。汚らしい格好はここではむしろ普通の事という訳だ。




 その内の一軒の前で俺は立ち止まる。廃墟のような出で立ちの家の戸を叩くと、暫くしてしわがれた老婆が中から出てきた。




 その手には錆びた農具を持っており、目には警戒色が色濃く浮かんでいた。




「な、なにかね!? まだ儂から何か盗もうと言うのかね!?」




 開口一番こちらに罵声を浴びせかける老婆を目にしたクオリアはビクンと顔を強張らせたかと思えば、こちらの背に隠れてしまう。




 そんなクオリアを落ち着かせるように頭を撫でつつ、老婆へと話しかける。




「突然の訪問失礼致します。俺はなんと言うか……その、あんたの力になりたくてやって来たんだが……」




「何だって!? そんな甘言に騙されると本気で思っているのかい!? けれど、残念だったね! 儂なんて騙しても、もう何の価値もないよ! なにせこの間盗みに入られて何もかも持ってかれちまったからね! 分かったら、とっと行っちまいな」




 ふーっ、ふーっと息を荒くする老婆を前にして俺は「そう言えば」と思い出す。




 この老婆はとあるイベントでの中心キャラなのだが、この時の老婆は以前に酷い事があってからと言うもの誰に対しても心を閉ざしているという設定だった。




 それでも会えば何とかなると思っていたが、よくよく考えればこの人を落ち着かせる術を俺は持ち合わせていない。




 となればこの老婆との話を無視して、イベントを進行させるという事も不可能では無さそうだが……そうなると、クオリアが俺の行動に疑問を抱きかねない。この件ではクオリアの協力が不可欠だから理解して貰う必要があるんだが……。




 そんな風にどうしたものかと頭を捻っていると、俺の背に隠れていたクオリアがとてとてと俺の背から出ていったかと思えば、老婆の手を取る。






「な……ッ!! なんだい!? ガキを使って儂を騙そうって言うのかい!? そうはいかないよ! 儂はもう騙されないからーーーー」




「……お婆ちゃん。とっても悲しい色をしている。その…………大丈夫?」




 老婆はそんなクオリアの言葉に唖然とした後、肩を竦めた。




「…………まぁ、こんなに息巻いたところで儂はもう失うものなんて無いからね。だったら子供にまで警戒しても仕方ないか」




 途端、老婆は構えていた農具を戸の近くに立て掛け、やがて口を開く。




「儂の名前はムルダ。最早朽ち果てるより他にない存在さ。それより……本当に儂はもう何も持ってはいないよ。命を奪って気が済むと言うのならそうすれば良いさ。だが、こんな近い内に死ぬであろう老婆を殺して得るものなんて有りはしないと思うがね」




 老婆もといムルダはクオリアのお陰で話くらいはする気になったらしい。クオリアの力を借りるのはこれからだと思っていたが、どうやらもう助けられてしまったようだ。




「……えっと、ムルダさん。俺がさっき言っていた事は本心だ。困っている事があるのなら協力したい」




「…………それで信じるような奴はこのスラムには居ないと思うがね」




「ムルダの……お婆ちゃん」


 そんな中、クオリアが口を挟む。






「スクナはとても良い人。私も助けられた。きっと話を聞いてくれる」




「…………そうかね。ま、このお嬢ちゃんに免じて話をするくらいなら構わないけれどね。どれ、いつまでも入り口にいるのは何だろう。入りな」




 そう言って奥へと引っ込むムルダに続き、俺とクオリアは中へと入る。




 中にはボロボロのテーブルと椅子がある他には本当に何も無かった。床はところどころ穴が空いているし、ビュービューと隙間風が入ってきている。




「それで……何かい? 困っている事があるのかって? 困っている事の心当たりなんて見れば大体察せると思うがね」




 老婆は椅子に座り、溜息を吐く。そこで俺は話を切り出した。




「ムルダさん。あんた、ちょっと前に盗みに入られただろう。そこでかなり大事な物を盗られた。そうだな?」




「…………」


 ムルダはジロリとこちらを睨めつけるが、やがて溜息を吐き話し始める。




「なんであんたがそんな事を知っているのか……なんて事はもう聞かないさ。それよりそんな事を確認してどうするつもりだい? あんたがそれを取り返してくれるとでも」




「いや、取り返すのは俺じゃない」




 そして、俺は傍に立っていたクオリアを指差す。




「…………? え?」




「この娘が、クオリアがあんたの盗られた大事な物を取り返してくる」




「本当かい!?」


 ガタリと立ち上がり、驚いた表情を浮かべるムルダ。それだけで盗られた物が大事である事が伺えた。




「いや、それよりあんたら。あれが今どこにあるのか知っているのかい!?」




「詳しくは言えないが……心当たりがあるんだ」




「…………、例えあんたらが盗みに加担していたとしても、儂としてはあれが戻ってくるのであればどうでも良い話か。あれは儂の命よりも大事なものなんだ。あれが戻ってくるのであれば……その他の事は些事であろうな」




 そう言ってうんうんと頷いたムルダは、俺達に頭を下げた。




「頼む、お二人共。盗まれた物……先立たれた旦那の形見の品を取り返してくれ」




「任せてくれ」




 そう言って俺とクオリアはムルダの家を出ていくが、その後クオリアは混乱した様子で疑問をぶつけてきた。




「え、スクナ? 私、なんにも出来ないよ!? このままじゃムルダのお婆ちゃん、また悲しんじゃう」




「大丈夫だ、クオリア。むしろクオリアの能力、その心の色を知る事の出来る力があればこそ出来るんだ」




「私の……力……?」




「ああ」


 そう言って俺はクオリアの頭を撫でた。




 これから挑むイベントはゲーム本編では達成したプレイヤーが殆ど居ないであろう極悪難易度を誇るイベントだ。




 だた、クオリアの力を借りれば達成可能となるであろう。




 そして、俺は疑問符を顔に浮かべ続けているクオリアを連れてイベントを進行させようととある場所へと歩を進めた。


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