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第3話



「貴方は……一体……」


 暫くの間、状況が理解出来ていないようでボーッとこちらを見ていた子どもがやがて、こちらに言葉を投げかける。




「俺は――――おっと、その前に」




 俺は馬に繋がれたままであったロープを短剣で断ち切り、縛られていた両手も解いてやった。




「改めて……俺は――――」




 子どもに対して名乗ろうとする一方で、俺は一体どちらの名前で名乗るべきか迷う。




 俺の外見はスクナに違いない。黒髪に細身、見すぼらしい服と俺の知っているスクナの外見そのままだ。




 だが、意識はどちらかと言えば、東郷誠志郎という気がしている。勿論、スクナとして過ごしてきた経験は持ち合わせている一方で、それをどこかゲームの設定のように感じてならないのだ。




 スクナが持っていたネクストへの心酔から解かれているし、だからこそ俺はネクストの下から去る事が出来たと思う。




 けれど……東郷誠志郎としての人生を俺は一度終えているし、何より俺は『シャイニングナイト』シリーズのファンとして、スクナをきちんとした主人公にしてやりたいという思いが強い。




「俺の名前はスクナだ。一応……冒険者だ」




 だからスクナと名乗っておくのが良いのだろう。




「スクナ……うん。助けてくれて、ありがとう。スクナ」




 子どもはペコリをお辞儀をする。礼儀は心得ているようだ。




「ところで……お前はどうして盗賊なんかに捕まって――――」




 とそこまで言ったところで俺は盗賊が言っていた事を思い出した。そう言えばこの子どもは孤児院から売られたのだという話だった。




 となれば随分と酷な事を聞いてしまった。




 そんな風に俺が慌てていると、




「大丈夫。そんな悲しい『色』をしないで」




「色?」




「あっ……違うの、これは…………」




「………………?」


 何か言い間違ったのだろうか。とりあえず今のところはあまり突っ込まないでおこう。




「とりあえず安全なところまで連れて行こう。そこで今後の事は決めれば良い」




「………………」


 こくんと頷いてみせた後、子どもは俺の後をトテトテと付いてくる。




 盗賊から助けてやったとは言え、随分と素直な様子を見せる。放っておけば酷い事になりそうだった手前、かなり警戒されてもおかしくはないと思ったが……。まあこちらに悪意がない以上、話が早くて助かるのだが。




 そうして、街道沿いを歩いている最中、




「痛っ」


 俺の後ろから小さな悲鳴が聞こえてくる。




 振り返ると、子どもは「ご、ごめんなさい。これは……何でも」とあわあわとした様子を見せるが、悲鳴の原因はすぐに分かった。




 子どもの歩いてきた道中が赤黒く汚れている。どうやら足を怪我しているらしい。と言うか、そもそも靴を履いていない。




「すまない、気づくべきだった。足を怪我したのか」






「だ、大丈夫、です。これくらい何でも……」




「そういう訳にはいかない。それに、これぐらいなら……ほら、これでどうだ?」




 俺は物理障壁を子どもの足先に展開する事で、靴の代わりを作り出す。ついでに回復魔法と速度上昇の補助魔法なども展開する事で歩きやすいようにしてやった。




「え、あれ? 痛くない! それに……なんだか、歩きやすい!!」




 そう言ってその場を跳ね回る子どもだったが、やがてシュンとバツの悪そうに項垂れてしまう。




「どうしたんだ? まだどこか痛いところがあるか?」




「ううん……けれど」


 子どもは首を振りながらも、やがて重そうながら口を開く。






「私……お金、持ってない。だからお返し出来ない」




「なんだそんな事か。良いよ、こんなのは何でもない。お前が元気に歩けるなら、何よりだ」




 元々、スクナはほぼ奴隷のような扱いを受けて見返りなど何もなくとも、ネクストに対して補助魔法を掛け続けていた。ゲームの設定としても、スクナの記憶の中でもネクストが俺の行いに対してお礼を言った事など一回もないのだ。




 だから、




「……ありがと」




 と子どもからお礼を言われた時、スクナの中にじんわりと温かい気持ちが溢れてくる。




 スクナからしてみれば、この何気ないお礼が何よりも嬉しいお返しだったのだ。


「どうしたの、大丈夫? スクナもどこか痛い?」


 子どものそんな問いかけで、俺の目から涙が溢れていた事に気づく。


 俺は涙を拭いながら、




「いや、何でも無い。こちらこそありがとう。お礼を言ってくれて、何よりも嬉しかっただけさ」


 と返す。すると、




「うん、確かにスクナ、あったかい色してる?」




「あったかい色?」


 そう言えばさっきも同じ事を言われたような……。




 すると、子どもははたと気づき、口を両手で塞いだ。




「な、何でも無い!!」




「いや、さっきも同じような事を言ってたよな? それは……一体……」




 とここまで言った際、俺は東郷誠志郎の持っている記憶の内、引っかかる部分を探していた。


 ……色? 確か……そんな事を言うキャラが確か『シャイニングナイト・ラストフロンティア』の発売前のゲーム雑誌に書かれていた資料の中に――――




 そして、俺は非常に重要な設定を思い出した。




 俺は子どもに対して前のめりに近づき、ボサボサだった白銀の前髪をかき分け、彼女の顔を見やる。




 藍色の瞳に幼いながらも目鼻立ちの整った美人である顔立ち。透き通るような白い肌に頬の赤みが強くなり、驚いた様子ながらも恥ずかしそうな表情で子どもがこちらを覗いている。




 子どもの、いや彼女の顔を俺は知っている。『シャイニングナイト・ラストフロンティア』の発売前の発表資料にキャラクターデザインが載りながらも、結局本編の中にはどこにも存在していなかった女の子。




 こんなところに、まさかこんな序盤に登場していたなんて…………ッ!!




「君の名前を……聞かせてくれないか?」


 俺のそんな投げかけにコクンと頷いた後、彼女は自らの名前を名乗った。




「クオリア……私の名前は、クオリア……です」




 クオリア。クオリア=セグルナ。スクナと同様にゲーム発売前から重要な立ち位置のキャラクターと言われながら、ゲーム本編ではネクスト達にメインキャラクターの座を奪われたヒロインの一人がこんなところに居たのだった。



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