第1話
俺は常々思っていた。
何故ゲームという奴は必ずしもファンの求めるものにならないのだろうか。それもシリーズであった時は尚更だ。
俺が寝食を削ってはプレイし続け、社畜である時も唯一の心の拠り所としていた『シャイニングナイト』シリーズはある日突然、そのシリーズにピリオドが打たれた。
その理由はたった一つに尽きる。『シャイニングナイト』シリーズの最後の一本である『シャイニングナイト・ラストフロンティア』が今世紀に名を残すレベルで最凶最悪のクソゲーであったからだ。
当時、親会社から出向という形で『シャイニングナイト』シリーズの製作会社に入社した男は当時、制作が着実に進んでいて発売も残り一年と迫った中でプロデューサーを引き継いだ。
そして、そのプロデューサーがある日こんな事を言い出したのだ。
「今までにない物凄いゲームを作って、世間をあっと言わせてやろう」と。
そんなプロデューサーの独断により開発の進められていた『シャイニングナイト・フロンティア』は積み上げていたコンセプトや設定を次々と崩されていった。
果ては既に発売前資料にも登場していた主人公を、自分がプロデュースして作り上げた主人公に変えると言い出したのだ。
以前の主人公を前提として作り上げていた設定は一から作り直しになったにも関わらず、親会社の意向で発売の延期などは出来なかった。しかし、発売が一年に迫った中での開発は多忙を極めたと、後のタレコミや週刊誌による暴露から明らかになっている。
そして、そんなボロボロの状態で出来上がった『シャイニングナイト・フロンティア』は世間にあっと言わせるような凄いゲームになった。勿論、悪い意味で。
シリーズ最も酷い最低評価を叩き出したそのゲームは、親会社の意向から開発費も大きく削られていて、そもそも人件費の捻出が難しくなっていたそうだ。それにより進行不能バグやテクスチャバグなどありとあらゆるバグが発生していた。さらに主人公やシナリオはプロデューサーの独断と偏見により今までのシリーズにあった温かみのあるストーリーは一新され、酷い有様であった。
何より根強いファンが許せなかったのが、新たな主人公の登場により主人公の座から引きずり降ろされたキャラクターが、その主人公の下僕としてシリーズの終盤に非業の死が待っている事だ。
その元主人公キャラクターの名前はスクナ。つまり…………俺だ。
スクナはストーリー最序盤で主人公であるパーティリーダーのネクスト=ラクスアランからパーティからの追放を言い渡される。しかし、ネクストの元でしか生き方を知らなかったスクナは何とか追放を無かった事にできないかと泣きついた結果、強制効果のあるスクロールによる『絶対契約』を行う事で追放を逃れた。
契約の内容は『何があってもネクストの命令に従う事』であった。
元よりネクストを裏切る気のなかったスクナはネクストの言われるがままに契約を結んでしまう。以降、何とかパーティに残る事を許されたスクナは、それまで以上に酷い扱いを受けてしまう。結果、ストーリー最終盤でモンスターの攻撃によりネクストに囮になる事を命じられたスクナはそのまま命を落としてしまうのだ。
こんな一体何が面白いのか誰一人理解できないシナリオ展開について、プロデューサーは『社会にはそれぞれ弄られ役というのが必要なんだ。それはパーティという小さな社会にあっても同じ事』と真剣な顔をしてほざいていた。なお、本来の理由は最後の最後まで主人公の改変に反対の姿勢を見せていたキャラクターデザインに対する報復であった事が後の週刊誌によって暴露されている。
つまり、まあ、何が言いたいかと言うと…………、
「そうか……俺はこのままじゃ死んでしまうのか……」
スクナになった俺はこのままでは命を落とす可能性が非常に高いという事になるのだ。。
「ん? 何か言ったか? お前はうちのパーティじゃいつも後ろに控えている雑魚だ。これから俺達はもっと、もっと上に行かなきゃならない。お祓い箱は要らないってこった」
目の前にはゲームファンからあらゆる意味で嫌われた新主人公、ネクストがいる。
金髪に長身、自信に満ち溢れた表情が印象的な人物。身に纏っている装備品はどれも金色に光り輝いている。「神格」のある装備品の数々で、元々の戦闘力に大幅なステータス上昇が備わっている筈だ。
このネクストという主人公は確かな実力を備えている一方で、あらゆる意味で傲岸不遜な人物だ。周囲にはパーティメンバーを含め、彼を褒め称える人間しかおらず、その辺りのあまりにも誂えたかのようなハーレム模様に、ファンからの批判が集中していた。その辺りの「設定」は恐らく今この時にも反映されているのだろう。
ちなみに先の「追放」セリフはかつて聞いた事があった。勿論、ゲームでだ。これを機にネクストはスクナを強制的な契約で縛り、以降も酷い扱いを行うのだ。
ネクストの心境としては追放してもしなくてもどちらでも良いとの事だった。確か追放したらしたで貧民街出身のパーティメンバーがいなくなる為に箔がつくと思っているし、追い出さなければ更に奴隷としてこき使える。言わばそんな感じの心境だ。
スクナは元主人公だけあって、強力な補助魔法を幾つも使える。だが、後ろに控えた地味な役目である為にネクストからは侮られているという設定であった。
一方でスクナは独学で補助魔法を学んでいた為、自らの実力にこの時点では気付いていない。この先のイベントで気付く事になるのだが、その時には強制契約をされているので逃げる事は出来ない。そもそも、スクナ自身もネクストに心酔しているので、逃げるという選択肢はそもそもない。
「ん? 何か言ったか? もしどうしても追放されたくないと言うならば、このスクロールで――――」
ネクストがゲームと一言一句同じようなセリフを吐く。本来のゲームであれば、これに断る選択肢は存在しない。スクナはそれ以外の生き方を知らないからだ。
だが、スクナは俺で、俺は東郷誠志郎だ。よって、俺はスクナとしての生き方だけでなく、東郷誠志郎としての生き方も知っている。
俺は常々思っていた。
俺がスクナだったら、こんな『シャイニングナイト』シリーズは。こんな『シャイニングナイト・ラストフロンティア』は認めない。
俺の愛した『シャイニングナイト』はもっと素晴らしい、生涯を捧げるに相応しいゲームであった筈だ。
本来であればゲームの結末をファンは受け入れるしかない。変える事は絶対に出来ないからだ。
だが、ゲームのキャラクターに生まれ変わった今、俺はゲームを、この『シャイニングナイト』を変える事が出来るんじゃないのか?
ならばやろう。やってみせよう。俺の愛した『シャイニングナイト』らしい結末に俺が導いてみせる。
俺が、スクナが主人公として、この物語をクリアしてみせるんだ。
そして、俺はニタニタと笑っている主人公、ネクスト=ラクスアランに向かってこう言ってのけた。
「追放なんて願ったり叶ったりだ。俺は俺の人生を、主人公としてこの物語を結末に導いてやる。元主人公さん、――――俺を主人公から追放した事、後悔させてやる」
そんな啖呵を切った俺は激高したネクストによりほどなくして追放されてしまったが、そんな事は関係ない。
目標は定まった。この物語を、この『シャイニングナイト・ラストフロンティア』を最高の結末に導く為、俺――スクナ――は本来決まっていた筈のシナリオから抗い始めるのだった。
もし面白そうだと思って戴けたら、ブクマや評価お願い致します!
励みになりますので!




