04 現実
・・・ピー・・・ピー・・・ピー・・・
・・・ピー・・・ピー・・・ピー・・・
意識が薄らと蘇る・・・
先程とはうってかわって環境音が耳に障る。
そしてこの匂い・・・あまり好きじゃない匂いだ・・・
意識がだんだんと蘇ってきて身体の感覚もハッキリとしてきた。
重たいまぶたをゆっくりと開けると、そこには白衣を着た白髭の爺さんと看護士と思われる女性が2人こちらを見つめていた。
「…ッ!!先生ッ!意識が戻りました!!」
俺がまぶたを開けたと同時に大きな声で看護士の女性が白衣の爺さんに声掛けしていた。
あーー・・・そうか、そうだそうだ。
俺は意識不明の重体だったんだな・・・
よくわからないことを話してた少女が言っていたことは本当だったようだ・・・だが俺は死ななかった。
「夕暮ヤミ君、私の声が聞こえるかい?」
白衣の爺さんが俺にそう呼びかけてくる。
流石に声は出せなかった、普段から人と話してないせいからか全くと言っていいほど声が出ない。
しかしながら目は動かせたので俺は白衣の爺さんを見つめ、声が聞こえることを目で訴えた。
しばらくすると白衣の爺さんと看護士達はホッと安堵しながら俺のほうを見つめる。
「まだ容態はよくないので、引き続き安静にしてくださいね」
そう言うと看護士の1人と白衣の爺さんはゆっくりと立ち去る、残った看護士はずっと俺の容態を見てるのか、その場に残っていた。
そう言えば、さっきから身体の感覚が無いな・・・重体だと言っていたがあのバイクの事故から何日が経っているのだろうか・・・?
そして身体中のいたるところに点滴のような管が張り巡らされている、何本あるんだ?そう言わんばかりの数だ。
頭がズキズキと響く・・・
まあ意識が戻ったとは言え重体なのは変わりないからな・・・そういえば、あの少女が言っていたパートナーにならないと重体のまま死ぬと言っていたが・・・結果は死なずに終わったようだな。
・・・・・・生きたからと言って幸せなことなんて何ひとつ無いが・・・またあの底辺のような地獄の毎日が始まると思うと、バイクに轢かれたときに死んだ方がよかったんじゃないかと思えてしまう・・・。
それにさっきから少女と言っているが、あれも本当は重体のときに見た夢みたいなものなんじゃないかと今になって思えてきた・・・。
走馬灯みたいなやつか?だとしたら英雄だとか言ってたのが恥ずかしくなるな・・・なんていう夢を見ていたんだ・・・子供じゃあるまいし。
意識がもどってから脳内でずっとブツブツと喋っていたが、あることに気づいた。
まだ身体の感覚がない。
首はかろうじて、わずかだが動く。
俺は自分の姿を確認しようと、ゆっくりと首を曲げる
・・・・・・・・・。
・・・そういうことか。
さほど驚きはしなかった。
俺の身体は貧弱でバイクに轢かれ飛ばされたことは覚えているからだ。
その後どうなったのかは意識がなく覚えていないのだが・・・
俺の
両 足 は 無 く な っ て い た。
それどころか、利き手の右腕も潰れている。
かろうじて左腕が包帯に巻かれ吊らされていた。
・・・・・・本当に不幸なことだな。
片手しかないのなら車椅子も難しいだろう。
ああ・・・そういえば、さっきから半分視界が暗くて見えないのも・・・恐らく片目が潰れているのか・・・。
本当にすごいな・・・
これで生きてるんだから驚きだ。
いや、これは本当に生きてると言っていいのか・・・?
ゆっくりと視線を右にやると、卓上のカレンダーがあった。
薄らと見えるその月日には、11月と書かれていた。
俺が事故したのは4月・・・
どうやら7ヶ月も俺は眠っていたようだ・・・
・・・すごいな・・・すごい・・・
ただでさえ貧弱なのに筋肉もほぼなく、ずっと植物状態だったのか・・・。
逆によくもまあ生きてるもんだ。
死んだほうが幸せだろうに・・・・・。
こんなにも現実離れしていることが
目を覚ました瞬間、一気に襲いかかるのだが不思議と驚かなかった。そう、この不幸が俺らしさだからだ、皮肉なほどに、容姿まで醜くなって、それでもまだ俺は底辺の底にどんどん落ちていく・・・。
これが現実だからだ。
これが、現実。
・・・・・・。
それから何週間と月日が進む。
俺の意識は完全に戻っていたが、後遺症や色んな障害を今後は抱えていかなければいけないと医師から告げられた。
左目は失明
右手は義手
両足は潰れてしまい切断
かろうじて嗅覚、聴覚、右目の視力、左腕は問題なかった。
リハビリのおかげで最低限の筋力はできた。
ただ、俺はもう生きることをいつ辞めようか考えていた。
それから更に数日が経ち
個室の病室である俺のもとに看護士さんから
「夕暮ヤミさんと面会したい人が今いらっしゃってますので連れてきますね」
と、伝えられた。
・・・俺に面会・・・誰だ?
誰か検討もつかなかったが何故か脳裏に夢に出てきた少女を思い出してしまった・・・。
ゆっくりとこちらに近付く足音
思わず息を飲む。
こちらですと看護士さんの指示に従い
その面会者は俺の個室へと入ってきた。
俺は思わず声を失う・・・
面会にきたのは1番会いたくなかった父親だった