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第55話<殲滅戦ⅩⅤ>

2022/05/04 漢数字→アラビア数字。

「きゃあああ!!」

「ぐあああッ!」

「――ひっ!?」

 装甲駆逐艦〈磯風〉と〈浜風〉が超巨大戦艦〈比叡〉に突撃した直後、廃棄パージされた区画に取り残されていた天羽、式守、椎名、ン・バックの4人は、激しい衝撃に襲われた。彼らが大きな怪我をしなかったのは事前に猿渡先任に注意されたように、通路にある手摺り兼移動用レールに安全帯で身体を固定していたからで、していなければ交通事故にでも遭ったような怪我をしただろう。

 3人にはまず床伝いに響く小刻みな衝撃が伝わり、何が起きたのか思う前に爆弾でも爆発したような衝撃波で床から吹き飛ばされた。数秒間も続く揺れに、安全帯のロープにしがみつくようにして耐えた。揺れている間、金属がひしゃげる甲高い音が彼らがいた空間を満たし尽くした。

 無論、彼らがいたコンテナの形自体も歪んだ。

 通路だったボーンは波打ち、幾つかの照明は落ちて割れた。

 金属を擦り合わせるような地響きは、予告もなく数秒で止まった。

「……止まった?」

 動かない式守に覆い被さっていた天羽が恐る恐る頭を上げた。

 周囲で何があったのか、上官達が何をしようとしていたのか、まったく分からなかったが、アニー派遣隊長や猿渡先任が警告が届いたことは僥倖だった。そして彼らの言葉を信じて、忠実に行動したことも重要だった。

 そうでなければ、3人とも大怪我をしていたかもしれない。

 何かに打たれたように天羽が式守の顔を覗き込んだが、少年の呼吸は止まったままだ。

「夏穂!」

「分かってる! 身体を押さえて!」

「分かった!」

 椎名は再びマウストゥマウスの人工呼吸を実施した。宇宙服の人工呼吸モードを使用することも頭を過ぎったが、今さら準備する時間が勿体ない。

 時は一刻を争うのだ。

 式守は既に心肺停止から五分は過ぎているが、椎名にはそんなことは関係ない。

 彼女は躊躇うことなく唇を合わせると、再び呼気を吹き込んだ。

 心肺蘇生を試みる2人の周囲に散っていた割れた照明のとても小さな破片が浮かび上がり、ゆっくりと流れていくのを目で追いながら、ン・バックは立ち上がった。

「どこかで気密が破れている。応急処置してくるよ。念のため、ヘルメットの準備はしておいてくれ」

 ン・バックの警告は2人の耳に届いていなかったが、それ以上言うことなく、彼は破片を追った。

 途中で一定間隔でボーンの通路に設置されている非常用工具の扉を開けた。中には噴射式補修剤や応急処置用シート、消化器やバールなどの工具、宇宙服用の交換用酸素ボンベまである。彼はその中から噴射式補修剤のボンベを手に取った。小型消火器並みのサイズがあるが、片手で扱える。破片が流れる速度はゆっくりしていて、空気漏れの原因となっている亀裂はそれほど大きなものではないと、彼は判断している。

 彼は口には出さなかったが、空気漏れよりも破片が浮いていることに衝撃を受けていた――重力制御装置の影響範囲が減少している証拠であり、その重力制御装置は〈比叡〉の最重要防護区画バイタルパートにある。あれほど防護が厳しいところでもやられてしまったのだろうか?

 先ほどの衝撃の理由は分からないが、まだ本部と通信出来ているということは、宇宙に放り出されていない証拠であり、重力があることもそれを裏付けている。

 なのに、なぜ人工重力が弱まったのか? 

 完全に無くなっていれば、非常事態で重力制御装置の縮退運用中だと理解できるが、現状は凄く中途半端だ。

 もしかしたら、一連の破壊工作の影響だろうか?

 分からない。何も確かな情報はない。

 ン・バックはこれ以上考えるのは止めた。

 破片を追うことだけに集中する。

 この任務が終わり、本部へ帰れば、事の顛末は猿渡先任が教えてくれるだろう。

 先のことは全知全能たる神のみが知ることであり、己は神への信仰とともに歩めばよいだけのことだ。

 ましてや、これは聖戦である。

 苦難と挑戦の連続に、己が試されているのである。

 神に捧げる戦いは常に己の限界との戦いなのだ。

 そう思いながら、まるで川に浮かぶ葉のように流れる小さな破片を追う。

 なぜか流れる方向は天羽たちがいたブロックとは反対方向――つまり艦尾の方向へと進んでいる。

 基本的にブロックのナンバーは数字が少ないほど前の位置にある。式守や天羽、椎名がいるブロックは4202番。式守と天羽と合流したのはブロック4101番。切り離されたのは末尾0番と9番の連結部。空気漏れが発生するなら、それらのブロックの方が普通ではないだろうか?

 その後も歩き続けたン・バックだったが、4205ブロックの中ほどまで来ると、もはや月面を歩いているような感覚に捕らわれ、慌ててヘルメットを被った。空気を感じるためにバイザーは開けたままだが、特に問題はない。

 ふと気付くと、小さな破片は床に落ちていた。よくよく見れば、ただの剥げた塗装片。

 結局、ン・バックは誰かが穴を塞いだのだろうと思い、式守たちの元へ戻ることにした。

 椎名と天羽はまだ式守の蘇生処置を行なっているはずだ。

 その時、周囲を気にするなんてことはとても出来ないだろうし、天羽自身も怪我をしている。

 善は急げとばかりに、彼は仲間の元へと走り出した。


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