第51話<殲滅戦Ⅺ>
いま如何なる小説や映画よりも、トランプ陣営が繰り広げるアメリカ大統領選挙大劇場が面白すぎる。
もう完全に「なろう」を凌駕していて書くことが辛いレベルw
2022/05/04 漢数字→アラビア数字に修正
復興歴301年11月10日13時32分
人類連邦統合軍 第3聯合艦隊第32任務艦隊 旗艦〈比叡〉
金剛型宇宙戦艦<比叡> 第1戦闘指揮所《CIC》内
時間は少し遡る。
第3177駆逐戦隊派遣隊所属の式守と天羽が蛸型INVELLと接触した直後――。
『――緊急事態! 緊急事態対処! 敵勢力排除不可能につき、本艦右舷後方下部第4100から4499までの区画を分離廃棄します! 繰り返します! 敵勢力排除不可能につき、本艦右舷後方下部第4100から4499までの区画を分離廃棄します!』
超巨大戦艦〈比叡〉の艦内に非常事態を告げる警告音が鳴り響いたが、当然それは艦橋内にも響き渡り、その場にいた全員が凍り付いた。
超大型戦艦である比叡はコンテナをつなぎ合わせた構造区画が数多くある。
特に艦の外周部にはそういった構造が多い。
大きな理由としては3つある。
第一に、戦闘艦としての補給性の重視だ。
長期間、独立運用される比叡は移動要塞と言って差し支えない。
必要な生活物資を数多く効率的に搭載し、搭乗者の居住空間も確保する。必要なものは多岐多様だが、それらの積載や補給を効率的に行うには、コンテナをそのまま重ね合わせた構造を利用するのは作業量から見ても効率的だ。それ以外にも多少の無茶も利く。外部に臨時のコンテナを取り付ければ、それだけで運用上は助かることも多い。
第二に、コンテナ自体を空間装甲として使用するためだ。
戦艦の装甲は分厚く、小さなデブリなどでもなかなか貫通されないが、ものには限度というものがある。それらで巨大な船体全てを覆うことはとても出来ず、重要防護区画のみに集中的に設置されている。
しかし、実際の戦闘ともなれば敵味方が放った爆雷の破片や残骸などは、秒速10数キロという恐るべき速度で艦の周囲に撒き散らされる。破片を全て防げないのならば、被害の局限化が重要になる。そのために空間装甲を増やして艦内を細かく区切り、被害が拡大しにくくしようという目論見もある。
第三に、意図的に艦の一部を分離可能とするためだ。
損害を出さない戦いなどない。
如何に防護を固め、兵員を鍛え、修理しようと、だ。
修理するにしても、状況や戦況によっては簡単な修理でさえ出来るとは限らない。
火災が発生したならば、炎は貴重な酸素を容赦なく奪っていくだろう。
補給物資や機能を喪失したコンテナを後生大事に抱えていては、推進剤を浪費し、地球に帰れなくなるかもしれない。
まして敵である異星生命体が、艦内で増殖してしまったら、全滅は避けられないだろう――元々宇宙で生きているINVELL相手に、無重力空間で白兵戦や近接戦闘を挑んだ場合、人類の勝ち目は限りなく低い。
ならば、手の打ちようがない状況に陥ったならば、その区画自体を切り離してしまえば良い。全てがそれで解決できるわけではないが、それで済むならば分離は出来た方が良い。殲滅できなくても時間は稼げる。
そういったコンセプトで超大型戦艦〈比叡〉の内部構造の一部には、コンテナ構造が使用されているのだが、今は敵にそれを逆手に取られていた。
連結部爆破と同時に破棄宣言され、それらのプロセスが実行されたのがコンテナ番号4100から4499までの400個。
コンテナなどといっても宇宙用コンテナであり、そのサイズは地上ものもよりも遙かに大きい。コンテナは8個のセルで出来ている。セルは長さ約25メートル、高さと横幅10メートル四方の箱状のものでその内部は目的により様々なバージョンがある。それらを連接部機能やセル間を結ぶ通路などを有するボーンと呼ばれる枠組みに、セルを縦横二個ずつ連結して1個のコンテナとするものだ。コンテナには非常時に使用する各種生命維持装置や非常用発電機まで備え付けられており、いざというときには退避カプセルとなる機能がある――これは今までの宇宙空間での戦闘で人口が激減しすぎたために装備された。
今現在、4つのコンテナ列――長さ500メートル、幅100メートル、高さ100メートル程もの空間が船体より失われようとしている。
最外壁があることにより、これらのコンテナはまだバラバラになっていないが、最外壁がなければ既に手の施しようがない事態に陥っていただろう。
「状況を報告しろ! 分かっただけでいい! 直接儂に言え!」
もう初老と言っても差し支えない風貌の松田艦長が血相を変えて叫ぶ。丸みを帯びた顔に禿頭、相撲取りのような頑強な体躯によく通る怒鳴り声。常にアグレッシブで勇猛果敢な性格。部下たちが付けた渾名はカミナリ親父だが、本人はそれが大のお気に入りだった。
艦長の一声で戦闘指揮所内の操作員たちが次々と声を上げる。
「4100、4200、4300の連結部が分離廃棄処置されてます!」
「分離装置、手動での動作ログを確認! 連結部爆破分離のため、再連結出来ません!」
「4159、4169、4179連結部アクセス不可能!」
「4220でも飯田三等軍曹のアクセスを確認!」
「4189、4199! 飯田三等軍曹のアクセスを確認!」
「――セキュリティ班より報告、飯田3等軍曹の全権限剥奪完了!」
禿頭を赤黒く染めた松田准将がさらに怒鳴る。
「該当区画のDC班を急行させろ! 機関長! お前ならパージを実行させるか!?」
青木機関長は即断が求められていることを正しく理解していた。
「させません!」
「よし! DCの方針はそれで行え! 通信、黒田へ繋げろ!」
「チャンネル繋がってます! ボイスのみ!」
「黒田! 該当区画に何人いる!?」
『約50名』
黒田の声は酷く落ち着いていた。
「約とは何だ! 約とは!」
『現場との通信は途絶中で、行方不明者も発生している。これ以上の掌握は時間が掛かる』
松田は自分より階級は低いが、指揮官であるから謙る必要は無いと、常に声音で示す黒田が嫌いだった。
「飯田の捕縛はまだ終わらんのか!?」
『既に死亡していると判断し、捕縛はない。殲滅作戦に移行中だ』
「今さら、何を殲滅するというのだ!」
『本人が2つに分かれている。苗床として喰われ、孵化した個体がいると判断するには十分すぎる』
松田は自分自身を落ち着かせるように、深く息を吐いた。
「……最悪の場合、このまま分離された区画を投棄する可能性もある。まだ僅かとはいえ時間がある。五分間やる。部下たちを退避させろ」
黒田は純粋な善意からの言葉に短い謝意を述べると、機関長へ確認の問いを口にした。
『パージされた区画は直すだけの価値はあるか?』
「あります」
機関長の即答に、黒田は満足げに鼻を鳴らした。
「何をする気だ!?」松田艦長が喚く。
『細部は後で説明します。まず、この状況を我々で打破する。3177駆逐戦隊、聞いているな?』
『聞こえております』
黒田大佐の一言に、即座に返したのは3177駆逐戦隊司令の柳田大尉。
彼等はその一言を叫びたいほどに待っていた。
『提案を了承する。直ちに完遂せよ』
『了解しました』
その返事は、3177駆逐戦隊の士官たちが待ち望んだ希望そのものであった。




