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第49話<殲滅戦Ⅸ>

忙しいと投稿さえも億劫に……。

場面での区切りを止め、ある程度の内容で区切りに変更。

2022/05/04 漢数字→アラビア数字に修正

 復興歴301年11月10日15時23分

 人類連邦統合軍 第3聯合艦隊第32任務艦隊 旗艦〈比叡〉

 右舷後方下部第4100区画


 ブロックやコンテナを繋げた区画というのは、ひどく単調な風景が続く。

 生産性向上のため、基本同一規格の部品で作られ、通路の幅や扉の大きさ、デザインだけではなく、照明の数や明るさまで似ていれば、無限に続く通路を歩いているような錯覚に陥る。

 そんな場所を延々と歩いていれば、注意力や集中力は否が応でも落ちる。

「式守、飯田3等軍曹……本当に、この先にいるの?」

「指示通りならね」

 天羽智花は前を行く相棒バディに、欠伸をかみ殺しながら訊いた。

 二人の先に職務放棄している人物が本当にいるならば、かれこれ既に2時間以上、追い続けていることになる。

 追い続けても、その人物は一向に見えない。

 この事実から天羽は、飯田3等軍曹は捜索隊から逃げ続けている脱走兵だと結論付けていた。

「まだ敵前逃亡じゃないから死刑になるわけでもないのに……往生際が悪い人ね」

「禁固刑にはなるだろうけど」

「当たり前じゃない。人工冬眠まで解除させて、いい迷惑よ」

 浪費される物資を考えれば、彼女の怒りは正当なものだ。宇宙空間ではほぼ補給を望めない以上、手持ちのものが全てだからだ。

『3177オール、こちら3177HQ。今から3分後、他部隊とともに包囲網を縮小。飯田3等軍曹の身柄を確保する。了解か、送れ』

 アニー派遣隊長の指示に、待っていたと部下たちが応える。

『了解』『了解、以上オーバー』『了解です』

「了解しました」

 天羽が気合いを入れるかのように応え、式守に向き直った。

「さっさと捕まえて、私たちも休憩しましょう」

「そうだな」

 式守はヘルメットのバイザーをゴーグルのように使うために途中まで下ろして止めた。

 艦内地図には飯田3等軍曹の生存確認用無線発信器ライフビーコンの位置と自分たちの位置、そして逃げられないようにと周囲のいる仲間たちの位置が表示されている。隔壁2枚超えれば、対象者に手が届く。

 その距離約100メートル。

 追跡劇は最終段階にやっと入った。


 3177派遣隊の部下に指示した直後――。

 アニー少尉の艦内無線機が、不意に呼び出し音を鳴らした。

『アニー、聞こえる?』

 アニーは、同期である技術士官エイミー・〈ゴードン〉・霧島の急いた様子に眉を顰めた。同じ3177駆逐戦隊所属ではあるが、異色の技術士官である彼女は支援軽巡洋艦〈阿賀野〉の中で、〈比叡〉の電算機室とネットワークを介して分析業務支援を行っていた。

「エイミー、なに? いま忙しい」

『アニー、おかしいと感じないの? 筋補助衣パワーアシストを付けている海兵隊員が、何も付けていないはずの整備員に半日以上追いつけないのよ? これには必ず何かある。移動速度を見てみて。移動時速8キロ近いのに所々停止して行っていることは物理的な事ばかりで、監視カメラのコントロールも一瞬奪われている』

 彼女の瞳が、猿渡先任が見つめるノート型パソコンの画面に移る。

「ここまで来たら確保するのも、確認するのも、時間的には変わらないわ」

『ちゃんと聞いて』

「エイミー、貴女いま珍しいぐらい非論理的よ。結論だけ言って」

『飯田3等軍曹のアカウントでアクセスした場所は、ネットワーク・ログと整備マニュアルライブラリー。普通に考えたら、逃げるだけならマニュアルを読みなんてしない。だけど、ほぼ全てのアクセスは整備マニュアルに集中している。何かをするために調べているなら、整備員の彼なら必要のないことだから――』

「エイミー、結論だけを言って」

『彼がINVELLでも人類でも、どちらだとしても破壊工作をされている可能性が――』

「今さら言われても――」

 エイミーの切羽詰まった説明は猿渡の声で遮られた。

「1組、敵接触まであと約30メートル。扉2枚抜けたら目の前だ」

『こちら一組、五秒後に突入します。――5、4、3、2、1、今!!』

 無線機から漏れる緊張混じりの天羽の声が、臨時指揮所の中ではやけに大きく響いた。


 天羽智花が合図と共に開閉スイッチを回す。

 左右に開く両引きの分厚い耐圧扉が通路から姿を消す前に、式守直也が突入して銃を構える。

 そして、二人は目の前に何が存在しているのか、認識するまで1秒ほどの時間が必要だった。

 二人の視界の中で、青いつなぎの整備服を着た男がぎこちなく振り向く。

 天羽が感じた違和感。

 20メートルほど前にいる人物のひょうたんが載っかったような頭の輪郭。

 式守が感じた違和感。

 男としては――人間として、あまりにもひょろ長いと感じた身体の輪郭。

 それは共に正しく特徴を捉えていた。

 飯田3等軍曹の両腕は既になく、その両脇は黒く汚れ、頭には50センチほどの大きさの蛸のような頭足動物がいた。

 ニスでも塗っているかのように異様に黒光りする皮膚。そこには幾条もの長細い黄色に光る紋様が埋め尽くし、それは呼吸するかのように点滅を繰り返してはネオンのように光の強さを変え、やがてその光を鈍い赤色に変えた。被害者の頭の形が歪むほど強く締め上げている数本の脚は時折脈動するかのように震え、そして戦慄くように蠢いた

 その脚の隙間からは、飯田3頭軍曹の白濁した左目と苦痛で大きく歪んだ唇だけが見えた。

「――ひいっ!!」

 焦点が合ってない瞳と天羽の視線が合う。余りのおぞましさに短い悲鳴が漏れた。

(――撃つ)

 視認してからの驚きで一瞬身体が止まってしまったが、式守直也は天羽と違い、素早く狙いをし直した。人差し指が引き金を引き絞るが、戦闘用で薄いとはいえ宇宙服を着込んでいる。人差し指の感触はごく僅かしかない。

 幸いにして、頭足動物型INVELLの動きは鈍かった。何かに押さえつけられているかのように、ゆっくりと蛸やヒトデに似た脚先が直也に向くが少年は焦らなかった。

 ほぼ瞬間的に、式守の視線と銃口、そして敵は完璧なまでに一直線上に揃う。

 しっかりと敵の頭部と思われる球体――その頂点には長細い半透明の白く光る棒状のものが揺れていた――に狙いを付けた。

 それは少年なりの優しさの発露だった。

 既に死んでいる犠牲者の身体を、もうこれ以上傷つけることがないようにという気遣い。

 集中しきった式守には、そうするだけの余裕があったともいえたが――。

 それが過ちだった。


 次の瞬間――引き金を弾く間もなく――超巨大戦艦〈比叡〉の艦内に、非常事態を告げる警告音が鳴り響いた。


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