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第47話<殲滅戦Ⅷ>

2022/05/04 漢数字→アラビア数字に修正。一部修正

 式守六三四は無線機の通話ボタンを切ってから、恋人とその相方に「行くぞ」と言うと歩き出した。

「六三四、どう思う?」

 宮城涼音が男の背中を追う。

 同性さえ羨むほどの美貌を持つ宮城だが、それは無骨な武器を身に付けていても損なわれるものではない。

 むしろ、それが引き立て役のように、その美麗さが目立つ。

 彼女も六三四と同じような完全武装――補強材入りの戦闘用宇宙服に弾納付きの防弾ベストを身に着けている。修理キット等の小物は皆と同じだが、胸や脇腹にあるポーチの中には燃焼手榴弾テルミットや粘着榴弾などが詰め込まれ、手にしている空気銃も90式5.7ミリ無薬莢空気自動小銃――小さな圧縮空気ボンベは弾倉のように引き金の前にあり、長細い特殊な弾倉は銃身の上に填めるデザインが特徴的だった。

 三人の足音が、静かで無機質な白い金属で囲まれた狭い通路の中を反響する。

「ヘルメットは被っておけ」

 男が振り向きもしないで放つ一言。

 宮城は何も言わずにヘルメットを被ったが、バイザーは開けたままにした。ここはまだ空気がある。そして、向かう場所にもまだ空気がある。物音が聞こえにくくなる方が危険との判断。自分の問いに対する応えが、最悪に対する備えならば――。

「本命かな……」

「1匹とは限らないがな」

 通路の途中にあるエレベーターの前で立ち止まり、昇降ボタンを押す。

 数分で来るだろう。

 受け持ち区域から、先ほど指示された場所は数区画先にある。歩いていては間に合わない。

 六三四は構えていた90式5.7ミリ無薬莢空気自動小銃の負い紐を伸ばし、背中に回した。

 背中に装着していた専用ケースから火薬式自動散弾銃を引き抜いた。

 減装薬を使用しているとはいえ、低重力環境では地球上のようには扱えない武器――無重力では強力な反動を足で踏ん張って身体を固定することが出来ない――だが、空気銃にはない利点――圧倒的な破壊力と、どんな時でも作動する信頼性が選択した理由だ。

 予備として、同じく火薬使用で12.7ミリ弾を使用する回転式拳銃Rh-12がホルスターにある。続けて小刀のような白刃の銃剣を引き抜くと、散弾銃に取り付けた。

 エレベーターの扉が開くと、3人は素早く乗り込んだ。

 涼音が行き先のフロアを指定すると、今まで一言も発していなかった髪の毛を桃色に染めた少女が口を開いた。

「私のポジションはあくまでも涼音様の後ろですか?」

 その問い掛けは涼音ではなく、六三四に向けた一言。

 彼がこの組のリーダーであることは誰も疑わない。

「涼音も福音も、お互いに手が届くポジションでフォーメーションを組め。前には出るな。宇宙服を着た涼音は地上の時より鈍い。俺を含めて、後ろはお前の担当だ」

 六三四は背中を預ける、機族の少女館流福音(たちながれ ねね)に視線を向けた。

 柔らかそうな栗毛色の長髪に桃色のメッシュを入れた、利発そうな機族の少女――つまり人を真似た、だが人ではない知性体――は、純粋な瞳を真っ直ぐに六三四に向けてくる。整った顔立ちだが、少々幼さを感じさせる造形。だが、その体付きは女性を感じさせる曲線。

 それが数年前の恋人のスタイルそのものであることを、式守六三四は知っている。

 端から見れば、宮城涼音と館流福音は仲の良い姉妹のようにしか見えない。

 女性らしい艶のある丸みを帯びた恋人と、子供の活発さと大人へと変化する少女の色気を滲ませる機族の少女。

 身長や体格、体付きも二人はほぼ一緒――僅かに福音の方が全般的に小さい――で、六三四ですら後ろ姿の二人を輪郭だけで判断しろと言われたら、一瞬迷う。

 その上、二人は基本的には常に一緒に行動している。その影響か、機族の考え方や物事の基準、仕草や癖まで涼音に似てきていた。

 六三四の指示に僅かばかりの不満が福音の表情に表われ、それは涼音の顔にも出ていた。

「それだと六三四様が私たちのフォーメーションから抜けてます。私の手どころか、涼音様の手も届きません」

「俺はいい。それより前で戦う。バックアップはいつも通り任せる」

「六三四、前衛ポイントマンじゃなくて囮になる気?」

 涼音の言葉にはっきりとした苛立ちが混じる。

 それでも、それ以上は言わない。

 今まで幾度となく死地を潜り抜けることが出来たのは、男の判断力があってこそだと理解している。

「その方が安全だ。敵の不意打ちに3人揃って掛かる必要は無い」

「待ち伏せに引っ掛かること前提ね」

「相手は潜入種だ。その程度の知恵は当然ある」

 犬猫でさえ狩猟をするとなれば獲物を待ち構えるのだ。

 人類の仇敵がそれすら出来ないほどに無能であるなら、人類はとおの昔に勝利していたことだろう。

 彼等を乗せたエレベーターは凄まじい勢いで下降しているが、やがて減速すると静かに止まり、音もなく扉は開いた。

「行くぞ」

 式守六三四を先頭に3人は3177派遣隊が封鎖している区画へと急いだ。



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