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第46話<殲滅戦Ⅶ>

2022/05/04 漢数字→アラビア数字に修正

 そんな彼等の当然は本部にいるアニーや猿渡が監視している。情報端末にある自己位置の送信や、身に付けている小型カメラの映像送信で、部下たちの行動はほとんど分かる。

 無論、式守たちだけでなく、ボブや荒木、椎名たちも同時にモニタリングされていた。

 部下の働きを見ていたアニーは何とも言えない違和感を感じ、それが何なのか胸の内に言葉が思い浮かぶと、やや目を白黒させて隣のやさぐれた三十路の男を見た。

「猿渡先任……」

「ん? どうした?」

 今ここの本部にいるのは猿渡とアニーだけだ。掌握するだけなので、大した道具も必要ない。艦内無線機と状況掌握用の堅牢型ノートパソコンが2台しかない。2人もいれば十分である。

「……式守って、いつの間に練度が上がったの?」

「ああ、式守のことか。アニー、どうしてそう思った?」

 アニー・〈ケリー〉・トンプソンは猿渡大悟に試されているという思いの前に、驚愕している自分が上手く制御できていないと感じた。

「視線は飛んでいないし、体軸もぶれてない。極端に速いわけでないけど、ちゃんと自分で対象を認識出来る速度で動いている上に、後ろに目があるみたいに天羽の盾になる位置にいるじゃないですか……地味に、上手い」

 その驚愕に、してやったりと猿渡はニヤリと大きく笑った表情を作った。

「元々だよ」

「元々? 私が気付かなかったのに?」

 アニー・〈ケリー〉・トンプソンは遺伝子調整者デザインである。幼少の頃より英才教育の粋を一身に受けてきた。当然、有能な軍人を育てる教育である以上、身体的能力や純粋な戦闘技能も身に付けてきた。彼女を赤子のように片手で打ちのめす式守六三四が強すぎるだけで、同い年の少年が素手で勝負を挑んでもほぼ負けない技量が、この少女には備わっている。

「式守の野郎は精神的に、なんつーかな、未熟なんだよ。臆病で、卑屈で、逃げたがる。訓練や日常生活じゃあ、逃げることと隠れることしか考えちゃいねぇ。本当、意地汚ぇ野郎だよ。そうすれば目立たず、一番楽だと知っていやがる」

「それが式守の戦技コンバット・スキルと、何の因果関係があるの?」

「アイツ、女の為なら前に出るんだよ。現金な野郎だろ?」

 猿渡は教え子たちの動きを映し続けるパソコンの分割画面を見ながら鼻で嗤った。

「……はあっ? ふざけてるの、アイツ」

 想定外の言葉に、アニーの口調が荒くなる。その瞳には隠しきれないほどの侮蔑の色があった。

「男ならそんなもんだ。動物的には正しい」

 対照的に、猿渡はいつもの不貞不貞しい笑みを浮かべ、無精髭の残る顎をさすった。

「先任。それ、何時から気付いていたの?」

 アニーの視線は分割画面に映る式守――天羽のカメラが映し出している背中へ釘付けになっている。

 アニー・〈ケリー〉・トンプソンは口には出さないが、式守の技量には素直に感心していた。

 見れば見るほど、基本に忠実。そして、急がない。余計なことは考えていない。

 索敵行動に心技体の全てが集中している

 身体が覚えていることを労を惜しまずに、反復し続けているだけ。

 だからこそ、純粋に強い。

 基本を徹底的に行った結果にしか身に付かない技術。

 だからこそ、アニーの顔に侮蔑の表情が浮かぶ。

 訓練とは実戦の模擬だ。

 100%イコールではないが、今のシミュレーターでは相当リアルだ。

 訓練で出来ないことは、実戦では大概出来ない。

 何故なら命の遣り取り、殺される恐怖が、人間の本能として身体をこわばらせ、本来の能力発揮を妨げるからだ。

 そうでありながら、今の式守直也は訓練以上の動きを行う。

(そう……。つまり私の前じゃ、手を抜いていたわけね……)

 それが、彼女には許せない。

 アニーの任務は訓練兵を強くすることだった。強い兵であればあるほど生き残る――理由は敵を殺して、自らは生き残るからだ。

 人類滅亡の危機で戦う軍人たちは、絶対に負けてはならない。

 故に強くなるために、訓練では最善を尽くすべき。

 その本分を全うしなかった式守直也は、アニーの主義主張からすれば許せそうにない。

「お前さんが来る前の話しだよ。しごいてる時に気付いた」

 猿渡は面白いことになったとほくそ笑んだ。

 彼は不貞不貞しい見かけによらず、人の機微に聡い。

 だからこそ危ない橋も渡り、上に喧嘩を売っても、組織内で生き残れる。

「どんな時に?」

 アニーの視線は未だに画面内の式守の背中に張り付いたままだ。

「一年目の時、入学直後に緊急呼集訓練をやって、そのままハイポート地獄をやったときだ。さり気なく荷物を軽くしてやろうとする。二度目はサバイバル訓練の時だ。まあ、少し荷物を持ってやることぐらいしかしなかったな。班の弱点は女子の体力だったから、そこを庇おうとする奴は大概潰したが、式守だけは、まあ諦め悪くてな。しつこかったよ」

「美談なのか、たらしなのか、それだけじゃ判断できない」

「信じがたいが、美談の可能性が高い。あの野郎、天羽や椎名に色目使ってるわけじゃないから、余計に面倒臭くてな。下心がある方が御しやすいんだが」

「下心がない? ……まさかホモ?」

 アニーは深刻な表情を浮かべた。

 まさか自分の部下にホモセクシャルがいる可能性は、今までの観察から考慮していなかった。

「ホモでもゲイでもねぇよ。男は基本助けねぇからな、アイツ」

「どんな時なら、男でも助けるの?」

「自分まで巻き添えになりそうな時」身も蓋もない猿渡の評価。

「見た目は人畜無害そうなくせして、中身は最低ね」

 アニーの中で式守の再評価が固定されかかっていたが、それが猿渡には面白い。

「ああ。俺と同じ、最低なクズ野郎だ」

「ところが、その最低を嫌っていない口振りだけど、類は友を呼ぶってこと?」

「相変わらず失礼な野郎だぜ、おっと女郎か。逆だ、逆。最低だから分かり易いんだよ」

「本当、先任としての資質は今でも疑うわ」

「俺にあるわけねぇだろ、そんなもん」

 開き直りの発言に、アニーは苦笑いを浮かべた。

 これで本当に無能なら、対応に困らないのに――。

「それで天羽を指名した上で、式守が代役を買って出る様に仕向けたのね」

「ふん。その賭けは半分勝って、半分負けだ!」

 まるで勝利確定の馬券が紙くずになったように、猿渡は酷く悔しがった。

「――でも、あ……猿渡先任、その話しはあとで詳しく教えてください」

「ん?」

「3177全員オール、こちら3177HQ。繰り返す、3177全員オール、こちら3177HQ。中隊本部より指示があった。各組は現在行っている作業を中断し、直ちに0.7G線まで前進せよ。繰り返す、各組は現在行っている作業を中断し、直ちに0.7G線まで前進せよ。右舷後方下部第三九〇〇区画を中心に防御線を引く。各組は表示に従い、急行せよ。了解か、送れ」

『1組、了解しました』

『2組、確認』

『3組、了解』

『4組、了解です』

 天羽、ボブ、荒木、椎名が順に応えて動き出す。

 少し間を開けてから、応えなかった組――別行動の式守六三四、宮城涼音、舘流福音が無線に入った。

『HQ、こちらBU(バックアップ)。俺たちの位置に関しては変化なしで良いのか?』

「そのままで頼む」

『了』

 訊いたのは式守2等軍曹、応えたのは猿渡先任。

 二人の会話は短く終わる。

 猿渡は特段、細かい指示などしない。

 歴戦の部下の嗅覚と実績を重んじた。

 式守も確認しない。

 戦場では勝利がすべて。

 取って付けた言い訳など必要ない。


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