第38話<愛のカタチⅠ>
今は削除された地上編は、これよりエロくなかったんだけど、全削除だったんだよなぁ。
(仕事が忙しすぎて、ログインすらも出来なくて、修正等も出来なかった所為もあるけど)
はてさて、今回はどうなることやら。
2022/04/10 漢数字→アラビア数字。一部修正。
復興歴301年11月9日23時31分
人類連邦統合軍 第3聯合艦隊第32任務艦隊
金剛型宇宙戦艦<比叡>中央ブロック内居住区画
往復で約1年にも渡る航海で最初から最後まで人工冬眠せずに過ごす者は、ごく僅かしかいない。司令官や艦長等の要職に就いている者、医者や一部の特殊技能を有する整備員や技術者、人工冬眠の事前準備として施す薬物投与等の肉体的負担に耐えられない者たち。それらは決して多くはないが、2万人を超えるこの艦隊では無視できる数でもない。そういった必要性に対応するために、超大型宇宙戦艦である比叡には、重力区画の中に居住区画が用意されている。
そして、その一画には人類純粋種である宮城涼音の一室があった。艦内中央部にあるため窓のない作りで、部屋は3畳ほどの広さ。壁に設置された2段ベッドとロッカーしかない狭い部屋ではあるが、彼女の3等軍曹という階級を考えれば破格の待遇である。
しかし彼女には彼女独自の任務があり、その必要性のために使用を許可されていた。冷たい床を淡く照らすLEDライトは地球時間に合せてあるのだろう、控えめな光量を漏らすだけで部屋の四隅まで照らすようなことはない。
その部屋の中で宮城涼音はベッドの上で布一枚纏わぬ姿で横たわっていた。
濡れた唇から漏れる荒い吐息と、頬に残る涙の跡と潤んだ瞳。紅潮した白い肌に浮かぶ玉のような汗。
身を投げ出したように横たわる女の背後には、獣欲の全てを女の中に吐き出したばかりの短髪の逞しい男――式守六三四が荒い息を吐いていた。
やがて彼は細い背中に被さり、女の耳元で「気持ち良かったよ」と囁いた。
男は愛おしさと感謝を感じながら、女の隣りに横たわると太い腕で、壊れもののように女を抱き寄せた。そのまま優しく包み込む。
涼音の小さな頭を自らの首元に抱き寄せ、無言で乱れた黒髪を整える。
未だ呆けている涼音も、やがてそれに気付いたが、何も言わずに男の首元に額を付けた。
時折、男の腕の中で涼音の身体が震えたが、男は無言で髪を撫で続ける。
それからどれだけ時間が過ぎただろうか――。
動悸が収まった涼音は自分を抱く恋人であり、戦場をともに駆け抜ける相棒でもある式守六三四にかすれた声で抗議した。
「……死ぬかと思った」
自分でも憶えている。
快楽に酔い痴れ、言葉に鳴らないはしたない喘ぎ声を零し続けたこと。
刻まれた、忘れようのない快楽。
途切れ途切れの意識の中で、確かに愛されているという実感と多幸感、そして快楽に溺れた余韻はまだ身体の奥に残り火のように燻っている。
「絶頂すぎで?」
六三四は精悍な顔に、悪戯っ子のような笑みを浮かべた。
「馬鹿っ!」
痴態を晒していた記憶で顔を赤らめた涼音は、男の胸板に思いっ切り爪を立て、そのまま容赦なく引っ掻いて赤い4条の傷跡を残した。
六三四はそれを我慢しながら毛並みでも整えるかのように恋人の髪を撫で続ける。
どうせ、背中や肩には同じような傷が無数にあるのだ。
今さら1つ2つ増えたところで怒るようなことでもないが――。
「さすがにちょっと痛い」
「私はもっと痛かった」
これ以上はお互いに何を言っても藪蛇になりそうなので、六三四は恋人を一層強く抱き締め、涼音も応えるように血が滲む傷を丁寧に舐め始めた。
触れ合う肌だけを確かめるだけの気怠い時間を過ごしていると、不意に思い出したかのように涼音は口を開いた。
「六三四って、直也君と仲悪い?」
「いや、そんなことはないはずだが……どうした?」
「ちょっと気になることがあって、気になってね」
「アイツのことはお前が気にすることじゃないだろ」
六三四が腕枕をしている左腕で恋人を強く抱き寄せると、涼音は嬉しそうに目を細めた。
「もしかして、焼いた?」
「そう思うなら言うな」
「ごめんね」
六三四は毛繕いするように恋人の乱れた髪を優しく撫で続けると、涼音は汗ばんだ厚い胸板に猫のように頬擦りした。
「実は、ね。ちょっとお節介をしたいのよ」
何気なさを装う女の言葉に、男は顔をしかめた。
「もうアステロイドベルトにまで来ているんだ。今さら他人に構うほどの余裕が……いや、人工冬眠を繰り返す奴らにそんな時間ねえよ。まだ3ヶ月近くもある俺たちとは違うんだ。止めとけ。未練がましい嫌がらせになるだけだ」
人工冬眠をしない二人には木星宙域までは3ヶ月もあるが、式守直也や天羽知花にとってはあと4日しかない。何をするにしても大した時間はない。
断言する六三四に、涼音は唇を尖らせた。
「直也君は義弟とはいえ、貴方の大事な家族じゃない。間接的には私の家族でしょう? 彼のために人肌脱ごうって気にはならないの?」
「あんまり、ない。ってか、確かに遺伝子基盤は同じで、ガキの頃は一緒に暮らしていたが、どこまで家族にする気だ。式守は何百人もいるんだぞ」
「無制限に広げる気はないわよ。だいたい、また、そんなことばかり言って。少しは私以外の人にも優しくしなさい。因果は巡り巡って、私たちのところまで戻って来るんだからね」
「お前以外の因果なんて、どうでもいい」
「それ、私以外には絶対に言わないでよ」
野生動物のような力強い瞳に貫かれて、宮城涼音の心臓が一際激しく脈打った。
六三四は別に人が嫌いなわけではない。任務に関係しない限り、極端に無関心なのだ。
内心呆れながらも、彼女はお腹の奥が疼いて微かに身を捩った。
それを離れると思ったのか、男が有無を言わさず抱き締めて逃がさない。伝わる熱さが、じわりと女の肌を焼いた。涼音も恋人の太い首に腕を回すと頬が密着するように抱き締めると「ありがとう」と囁く。
そのまま無言で、ただ肌が触れ合っているだけで気持ちよかった。
宮城は恋人の耳元で囁いた。
「直也君の相棒で、天羽ちゃんっているでしょう」
「いるな」
「彼女、直也君のことが大好きなのに、直也君はどうも煮えきらないのよね。端から見てると歯痒くて仕方がないの」
「まあ、俺とは違うからな」
「貴方は初対面のときから強引だったものね。正直言うとドン引きだったわ」
「奥手の俺が良かったか?」
「そんな六三四なんて想像できないわよ」
お互いに微苦笑を浮かべているのを肌で感じる。
「だから私は、二人のキューピッドになろうと思ったのよ」
暫しの沈黙。
弾むようなテンションの涼音に、どう応えればよいか。六三四は真剣に考えた。
「俺は何も出来ないぞ」
格闘や射撃など戦いに必要なことなら何でも出来る自負があるが、他人の恋愛など手の打ちようがない。恋愛どころか普段の人間関係でさえ、涼音のフォローがなければもっと酷いことになっているだろう。その程度は自覚している。だから正直に、力になれそうにないと伝えた。
「明日の予定の兵藤准尉たちと格闘訓練だけど、それは命令?」
「いや、命令は一切ない。あれはあくまでも自主的な訓練という体裁だ。基本的には部隊の任務が優先される」
式守六三四は敵コア強襲部隊の予備人員として、既に司令部から名指しされている。
彼の豊富な実戦経験に裏打ちされた類い希なる戦闘能力と身体能力は、この任務部隊の中であっても頭一つ以上抜きん出ている。
黒田大佐率いる増強第17海兵団司令部が、彼に目を付けるのは当然のことといえた。
「大丈夫。明後日、私の作業を手伝ってくれるだけでいいわ」
「明日、兵藤さんには明後日の訓練は参加しないと伝えとく」
「ありがとう」




