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『O-276. 浦上-イオニアの反乱劇(アリスタゴラスの煩悶)』  作者: 誘凪追々(いざなぎおいおい)
▶第二幕(04/12)「援軍」
6/27

・第二幕「援軍」その1



<O-277(紀元前499/8)年><冬><ミレトス(柔①)市><港にて>



 ――あれから一年が過ぎた。「あれ」というのは我が愛しの姉巫女あねみこが涙ながらに衝撃的な告白をしに来た時のことなのだけれど、それからの一年はまさに席が暖まる暇もないほどのあわただしさで過ぎ去った。なにしろ、彼女が三十歳になるその日までにミレトス(柔①)市とイオニア(浦上)諸市を反乱に決起させねば彼女を永遠に失ってしまうため、この一年余りという時間は私たちにとって絶対的な締め切りだったから。

 しかし、私たちはこれをなんとか成功させた、この不可能とも思える無謀な事々をほぼ実現させてしまった。すなわちこの冬、我がミレトス(柔①)市は本当にあのペルシャ帝国への反乱に立ち上がり、近隣のイオニア(浦上)諸市もほとんどがこれに同調して反乱同盟に加わったのだった。おかげでペルシャ人は海岸地方こちらに入ってこれなくなり、ディデュマ(浦神)の神殿から姉巫女を攫って行くことも出来なくなった。

 このようなわけで、無事に三十歳となり神託の巫女を円満に引退することになった彼女と、私はついに婚約することが叶ったのであった。――



    弟-カロピノス

「あ、あにじゃお、おめでとう。す、末永くお、お幸せに」

    主役-アリスタゴラス

「ありがとう、カロピノス、次はお前の番だな。お前も良い嫁さんがもらえるといいな」



    妹巫女いもみこ

「う~、お姉ちゃ~ん、私を置いて先に言ってしまうの~?」

    姉巫女あねみこ

「大丈夫、あなたなら立派にやっていけるわ。ディデュマ(浦神)の神託は今後はあなたが取り仕切るのだから、自信を持って」



    一味a-ヘルモパントス

「おーい、アリスタゴラスよー! まだ式も挙げてねぇのに婚前旅行に洒落込むとは良い度胸だなー!」

    主役-アリスタゴラス

「勘弁してくださいよ~、こっちはこれから乗るか反るかの大仕事が待っているのだから。本土から援軍を連れて帰れるかどうか、それがこの反乱の行く末を大きく左右するのだから」



    占部家ブランキダイの長

「娘よ、君は『神託の巫女』を引退したとはいえ、僕ら占部家ブランキダイの一員であることに変わりはない。振る舞いにはくれぐれも注意し、一族に迷惑をかけぬようせいぜい心がけてくれたまえ」

    姉巫女あねみこ

「それは心得ておりますから、アリスタゴラスさまにも優しい言葉をかけて下さい。婿と舅の仲になるのですから、もっと笑顔でお願いしたいものです」



    歴史家-ヘカタイオス

「ヒスティアイオスの代理者よ、始まってしまったからには今さら四の五は言わん。せめて援軍の約束だけはなんとしてでも取り付けて来るのじゃ。ただしあまりペラペラとしゃべるでないぞ、スパルタ(鹿児島)人はそれを嫌うであろうからな」

    主役-アリスタゴラス

「了解ですよ、先生。あなたの助言に従って、あなたが作成した世界地図をこの大きな青銅板に事細かに彫らせましたし、向こうでは私の口よりもこの地図が雄弁に語ってくれることでしょう。望むらくは、これを見たスパルタ(鹿児島)人たちがこの広大な世界を手に入れたいと発奮してくれることですよね、それを期待しましょう」



    船長

「お~い、船を出すぞ~! お前ら気合いを入れて漕ぎやがれ~! 舳先を西に向けやがれ~!」

    見送りの人々

「「「わー、わー、頼んだぞー、アリスタゴラスー! わー、わー」」」

    笛吹き

『面舵いっぱ~い! ピーヒャー、ピーヒャー、ピッピッピー、ピッピッピー……』

    漕ぎ手たち

「「「エッサー、ホイサー、エッサー、ホイサー、エッサー、ホイサー……」」」




<O-277(紀元前499/8)年><冬><エーゲ海><船の上にて>



 ――私たちがヘラス(大和)本土に向けて船を走らせているエーゲ海は周囲を陸地に囲まれた内海なのだけれど、港の小さな入り江や湾ほど狭くはないので、風が吹けば波も荒れるし、雨が降れば視界不良となって遭難することだってある。特に冬の間は波が荒めで思わぬ風や雨に見舞われることも少なくないので、この季節に海に漕ぎ出す船は少なめなのだけれど、エーゲ海は別名「多島海」と呼ばれるように大小の島々があちこちに浮かんでいるため、それらの島伝いに進めば常に島影を確認することが出来るし、それらの島々には安全な入り江や港も数多くあるので突然の嵐などに遭遇してもすぐに難を逃れることができる。

 だから、まともな船に乗っていればなんら恐れる必要はなく、海賊さえ出なければ丸くて足の遅い帆掛け船でも安全に航海が出来る。まして私たちが乗るこの船は最新型の細長い軍船――いわゆる「三段船」――であり、百七十人の漕ぎ手が三段階の席に腰掛けて回転良く快調に漕ぎ進めば、エーゲ海の向こう岸へ至るのに二日三日とかからない。

 というわけで、私と姉巫女もこの頼もしい快速船の一角で寛ぎながら、冬の少し荒れ気味の海原と美しい島影が次々に通り過ぎて行くのを楽しんでいた。――



    姉巫女あねみこ

「こなた様、あの左手に見えて来た大きな島は、なんという島ですか?」

    主役-アリスタゴラス

「ああ、あれが例のナクソス(上対馬)島ですよ。ペルシャ軍が四ヶ月包囲しても落とせず撤退することになったこの辺りで最も大きな島です」

    姉巫女あねみこ

「あらあら、ならばこの船があちらへ近づくのはよろしく無いのでは?」

    主役-アリスタゴラス

「そうだね、彼らに捕まったら私はとり殺されてしまうかもしれない、のだけれど、デロス(宗像)島に寄るにはこの辺りを通るしかないのでね」

    姉巫女あねみこ

「ああっ、すみません、無理を申しまして。けれど、ディデュマ(浦神)で巫女をやっていた者として、光り輝く神-アポロン様の聖地を素通りするわけにもまいりませぬので」

    主役-アリスタゴラス

「なにをおっしゃられます、あなたは私に成功と勝利をもたらしてくれる女神であるとともに、イオニア(浦上)の反乱にお墨付きを与える存在なのですから。ディデュマ(浦神)の著名な巫女であった君が、予言がよく当ると評判であった姉巫女が、この反乱を後押ししているというのはみんなに勇気と自信を与えるのです。その君がデロス(宗像)島で戦勝祈願をするとなれば、エーゲ海の島々やヘラス(大和)本土への宣伝効果としても絶大なものが見込めるはずでしょうから」

    飼い猫

『ニャ~、ニャ~』

    主役-アリスタゴラス

「ほら、猫もそうだそうだって言ってますよ。

 でもまあ大丈夫でしょう、この航路はデロス(宗像)島に詣でる人々の参道でもあるわけですから、それらの船を一々調べてなどいられないでしょうし。それに我々は撤退したとはいえ、ナクソス(上対馬)島には付け城を一つ築き、例の亡命者たちをそこに残してきたのだから、彼らの島ではまだ戦いが続いていますしね。こちらに構う暇などないでしょう」

    姉巫女あねみこ

「そうですか。それにしても、ペルシャ軍は総勢二百隻もの軍船で攻め寄せたそうですが、よくぞ持ちこたえたものですね」

    主役-アリスタゴラス

「フフフ、そこはまあ、この私が抜かり無く、ペルシャ軍に手抜きをさせましたので。ペルシャ軍といっても軍船や乗組員の多くはイオニア(浦上)人でしたしね」

    姉巫女あねみこ

「されど、それらの軍船にはペルシャ人の将兵も多く乗っていたのでしょう? 彼らはやる気満々で臨んでいたのではないのですか?」

    主役-アリスタゴラス

「たしかにそれはそうなのだけれど、彼らは大陸の奥深くで生まれ育った人々ですからね、海で戦うのは慣れていないのですよ。そもそも泳げる者が少ないから、船から落ちたり島に取り残されたりすることがとても恐ろしく感じるのだと思う。という訳で、彼らもいまいち戦いに身が入ってなかったという訳です。

 もちろん、これを迎え撃ったナクソス(上対馬)人の戦いぶりが見事だったということにも言及しなければならない。彼らは自分たちが追い出した上流階級の連中があろうことかペルシャ人の助けを借りて押し寄せて来たものだから、それこそ島をあげて全力で抵抗したという訳です。なにしろ、我々が島に上陸した時には町を囲う城壁がかなり高く増築されていましたし、食料の備蓄も四ヶ月程度では全くこたえないほど余裕のようでしたからね」

    姉巫女あねみこ

「それはもしかして、島の人にあらかじめ情報を知らせておいたのが効いたのですね?」

    主役-アリスタゴラス

「そうだね、君の目論みが当たったという訳で、それが大きかったのだと思うよ。彼らの意表をついたつもりが、しっかり準備をされて防がれたということです。

 それともう一つはペルシャ軍の総大将がかなりのアホだったこと!」



 ――このナクソス(上対馬)攻めのペルシャ軍がイオニア(浦上)を出発したのは今からおよそ半年前の春先のこと。サルディス城の総督・アルタプレネスが約束通り二百隻の軍船を用意して、打合わせ通り我がミレトス(柔①)市もある入り江に寄越してくれたのだけれど、この遠征軍を率いる総大将としては、総督・アルタプレネスにっとても大王・ダレイオスにとっても従兄弟にあたるというメガバテスを指名した。このメガバテスなる男はまあ沿岸地方のペルシャ海軍を統括する任務にあたっていたため妥当な人選であるとは思うのだけれど、このペルシャ人は一兵卒としてならともかく総大将にしてはやたら粗暴な性格をしていたため、ペルシャ人を除く多くの人々からは大いに煙たがられていた。この遠征軍はあくまでこの私が主導するという話になっていたはずが、彼は自分が最高の指揮官だとして譲らず、万事を自分のやり方で動かそうとし、私と衝突することも一度ならず数度はあった。

 それはともかくとして、春の訪れとともにいよいよ出航した我々は、北のキオス(浦沖)島に至ってひとまずここに停泊した。我々はこの遠征軍の目的地は北のヘレスポントス(北海道)海峡方面であると宣伝しつつ、実はここで風待ちをし、強い北風が吹いたなら一気に逆向きのナクソス(上対馬)島へと攻め寄せ、彼らの意表をついて一気に片をつけるという目論見であったのだ。

 ただし、この秘密を知るのは私とメガバテスなどごく一部の者だけであり、それを知らないイオニア(浦上)人の多くは、当然これから北のケルソネソス(津軽半島)かビュザンティオン(下北)辺りを攻めるのだろうと予測したはずであり、その情報がナクソス(上対馬)人にも伝えられていたなら『自分たちはまるで関係ない』としてなお一層彼らの油断を誘っていたことだろう。

 ただし、これも私の謀略の一環に過ぎないのだけれど、私は裏でナクソス(上対馬)島に手を回し、ペルシャ軍の真の狙いは君たちであると注意喚起し、町を防衛する準備を整えさせておいたのだ。もちろんペルシャ軍の遠征を失敗させるためであり、それを利用してイオニア(浦上)での反乱につなげるのが真の狙いであったのだけれど、しかし、ここで一つ想定外な事件が起こった。総大将のメガバテスが風待ちに飽きてか、味方の船の警備状況を視察するため各船を自ら回ったのだ。すると、ミュンドスという町から参加していた軍船にたまたま一人も警備の者がいなかった。これに激怒したメガバテスは自分の親衛隊に命じて、その船の長であるスキュラクスを探し出して縛り上げると、船の擢の穴に突っ込ませその上半身を海に晒すという子供染みた罰を与えたのだ。私はスキュラクスとは旧知の仲であり、これを知るやすぐさまメガバテスに会いに行き、彼を釈放するよう要請したのだけれど、このペルシャ人は全く聞く耳を持たないので、私は勝手にその船まで押し掛けてスキュラクスの縛りを解いてやったのだけれど。――



    ペルシャ人の高官-メガバテス

「なにをするのだ、ミレトス(柔①)人よ! 誰がそのような許可を出したか?」

    主役-アリスタゴラス

「勘違いをしてもらっては困る、ペルシャ人よ! この遠征軍はこの私が大王陛下と総督閣下のご命令により『汝が主導すべし』と預かったものであり、あなたはあくまでこの私のもとで艦隊の指揮を委ねられているに過ぎない。この私から言わせれば、軍船の警護をここでわざわざ厳しくする必要は微塵もない。むしろこれから向かう敵を油断させるためにも多少緩くしていたほうがよほど都合が良いのだ。それを怒りのままに味方を手ひどく扱って全軍の士気を下げるようなことをしでかすとは、言語道断! 要らぬお節介は止めにしていただきたい!」

    ペルシャ人の高官-メガバテス

「こやつ、……」



    主役-アリスタゴラス

「いや~それにしても、あのペルシャ軍の指揮官と仲違いするのも私たちの計画の内だったとはいえ、もしかすると熱が入り過ぎてしまったかもしれないね。なにしろ驚くべきことに、メガバテスは君に結婚を申し込んだという例の『ペルシャ人の高官』その人だったのだからね。それを知った時は本当に自分の感情を押さえるのに苦労したよ。奴とはいろいろ事前の打ち合わせをしなければならなかったし、その前からも多少の面識はあったからね。私がスーサの都に赴いて大王に島攻めの許可を得た時の使節団にも奴が加わっていたというのだから、やれやれなんという悪縁か。

 けれど、仲違いする時の演技はとても簡単でしたよ、演じなくても素で怒れたからね。心に溜め込んでいた憤怒をそのまま顔に出せば事足りたのだから。おかげでメガバテスとの仲はとても巧くこじれ、その後のナクソス(上対馬)攻めでも我々の連携はとても悪く、町を包囲はしたものの積極的に攻め落とそうという気運はまるで乏しくなった。

 しかも後から聞いた話によると、メガバテスは私への腹癒せのため、キオス(浦沖)島での一件があったすぐ後にナクソス(上対馬)島に人を送って、『これからこの島を攻めるから、せいぜい気をつけろ』と教えたのだという。つまり、私の作戦を失敗させ惨めに島から撤退させることによって大王や総督から厳しい罰を受けるように仕向けてやろうと企んだのだ。けれどおあいにく様、それはこちらの狙い通りでもあったのだから!

 だいたい、私たちが謀略としてやっていることを、あのペルシャ人は感情に任せて考え無しに行うだけなんだよ。まあおかげで、彼と派手に喧嘩したことによって一躍、この私は横暴なるペルシャ人からイオニア(浦上)人の同胞たちを毅然と擁護する男として大いに尊敬を集めることとなり、それが帰国後、こうしてイオニア(浦上)諸市もこぞって反乱に加わらせる大きな要因の一つになったに違いないのだから。なにしろ、大王や総督の従兄弟だというあの文句無しに大物のペルシャ人にすら、自分たちと同じイオニア(浦上)人であるはずのこの私が堂々と異見して黙らせたんだからね、あれで彼らの心に『ペルシャ人なにするものぞ』の火が灯ったに違いないのだから。

 だから、こんなことを仕出かすあのペルシャ人は、よっぽどのアホに違いない」

    姉巫女あねみこ

「こなた様、さすがにそれは……」

    主役-アリスタゴラス

「いやもちろん解っているさ、人の悪口は慎めというのだろう? けれど勘弁してほしい、あの男に対してだけは! それに結果として、あの男は我がミレトス(柔①)市を反乱に追いやり、のみならずイオニア(浦上)諸市がこぞってペルシャ帝国に反旗を翻すのに手を貸してしまったのだから、ペルシャ人の側から見てもかなりのアホに違いないのだから!」



 ――この反乱に至るまでの経緯を今少し詳しく説明すると、私がナクソス(上対馬)島からミレトス(柔①)市に帰国したのはもう夏も傾く頃であり、残された時間はあと数ヶ月しかなかったのだけれど、なるべくあせらないようにしてミレトス(柔①)市の重鎮たちによくよく根回しをした上で、冬に差し掛かる頃の制限時間ギリギリ一杯で、ついに『ペルシャ帝国に反旗を翻すこと』を市民総会でも決議させることに成功した。やはり姉巫女が想定した通り、ナクソス(上対馬)遠征での大失態に他のミレトス(柔①)市民も大勢巻き込んだのがよく効いたらしい。

 続いて私は、ミレトス(柔①)市の独裁者の地位を自ら返上し、ポリスの運営を一般市民にも開放した。いわゆる『万民同権の民主制』というやつにしたのだ。と同時に、近隣のイオニア(浦上)諸市にもこれを倣うよう宣伝誘導し、その上で我々の反乱に合流するよう強く要請したのだ。

 その際の手みやげとして、我々はナクソス(上対馬)攻めから引き上げてミュウス(柔②)市の港――ここはミレトス(柔①)の対岸にあるすぐ近くの町なのだけれど――に停泊しペルシャ帝国からの次の指示を待っていたイオニア(浦上)諸市の独裁者たち――彼らは各市の軍船部隊の指揮官として今回の遠征にも加わっていた――を一人残らず捕らえることに成功していたのだけれど、それらの身柄を各市へ引き渡して彼ら自身の手で処分させるようにした。この独裁者たちを各市がどう処分したかというと、まずミュティレネ(並里①)市の人々は独裁者コエスへの怒りが非常に強かったために石を投げて彼を殺したのだけれど、キュメ(並①)市では独裁者を追放するだけという穏便な処置にとどめ、その他の諸市もおおむねはこれに倣って各々の独裁者を放逐するにとどめたのだが、どちらにせよイオニア(浦上)諸市のほとんどはペルシャ帝国に反旗を翻す覚悟を決めたことになり、我らミレトス(柔①)市と行動をともにすることを各々の市民総会で決議したのであった。

 そこでそれら各市には、独裁者に代わって『将軍』を選挙で選ばせることとし、それら選出された将軍たちをさっそく我ら共通の聖地であるミュカレ(浦岬)の岬――海原の神-ポセイドンを祀る――に全員集め、皆で侃々諤々の会議をした上で、ここにペルシャ帝国に対する反乱同盟を結成したのであった。


 このようにして、最も困難であろうと考えていたミレトス(柔①)市とイオニア(浦上)諸市を決起させることに大成功した私は、残る半分の計画・ヘラス(大和)本土からの援軍を取り付けるため、早船に乗って姉巫女とともにエーゲ海の上を西へ進んでいるという訳なのだけれど。――



    姉巫女あねみこ

「今日まで本当にお疲れさまでした。ここまでのことを本当にやり遂げてしまわれるとは、さすがはこの身が見込んだお方で御座います」

    主役-アリスタゴラス

「フフフ、なにもなにも、半分は君自身のお手柄なのだから」

    姉巫女あねみこ

「いえいえ、この身は口出しばかりで何もしておらぬのですから。ただ、ナクソス(上対馬)島の方々にはいらぬご迷惑をおかけしてしまいましたね。ペルシャ軍を退けたとはいえ、籠城戦であれこれ被害などもあったことでしょう」

    主役-アリスタゴラス

「たしかにそれはそうなのだけれど、とはいえ、もともとこの戦いを招いたのは彼らの内紛が原因ですからね。ペルシャ軍が来なかったとしてもまた別の形で戦いと被害が出ていたことでしょう。そういう意味では彼らの自業自得であったと考えることにしておきましょう。

 それより今後です、ここまではあくまで序章にすぎないのだから。これから本土の同胞たちを説得し、大勢の援軍をイオニア(浦上)に連れて帰らなければならないのだから」

    姉巫女あねみこ

「そうでしたね」

    主役-アリスタゴラス

「それに、君との結婚についてもまだこれからで、君のお父上に言われてしまったよ、『このような事態になってしまった以上、婚約は認めるが、ただし条件がある。ヘラス(大和)本土からペルシャ軍を退けるほどの強力な援軍を君が本当に連れてこれたらの話だ』、と」



    卜部家ブランキダイの長

「アリスタゴラス君、君はとんでもないことを仕出かしてしまったね。まさかあのペルシャ帝国に反旗を翻すとは。僕はこの反乱が成功するとはとても思えない。ペルシャ軍はすぐにもミレトス(柔①)市の領内へと攻め入るだろう。そうなれば、ディデュマ(浦神)の神殿も同罪と見なされ踏み荒らされることとなるだろう。僕らが取れる手はせいぜい、ミレトス(柔①)市やこの反乱とは無関係であることを装うことしかないが、君が我が娘と結婚するとなればそれも難しい。なにしろ、ペルシャ人の高官が求婚していたのを無視して反乱の首謀者たる君に与えるのだからね。

 だから僕らとしては、君に我が娘をやることを出来れば断りたい。けれど、ここはイオニア(浦上)人の聖地であり、彼らが一致団結して決めた反乱行動を、我々だけが拒否するのも難しいところがあり、まことに頭の痛い問題だ。

 アリスタゴラス君、もしもどうしても我が娘と結婚したいというのであれば、せめて条件を出させてくれたまえ。この反乱の先行きに希望を見いだすために、ヘラス(大和)本土での援軍要請を是が非でも成功させたまえ。もしも本土の同胞たちがこぞって味方をしてくれるというのであれば、あるいは成功の芽も出て来るだろう。そうなれば卜部家ブランキダイの一族も、君に娘を嫁がせるのを渋々ながら首肯するだろう。逆に君が、援軍を満足に連れてこられなければ、僕たちは君と娘との結婚を拒否せざるを得ない。そのことを、くれぐれも心しておいてくれたまえ」



    姉巫女あねみこ

「こなた様、どうかご安心を、父や一族が何を言おうと、この身はあなたの妻になります。これまで散々娘の自由を剥奪しておきながら、この上まだ好き勝手に操ろうというのは承服いたしかねます。そもそもペルシャ人の高官がこの身を見初めたというのも、予め父が手を回した疑いだってあるのです。ペルシャ人の名門と親戚関係になれば我が一族は安泰でしょうから。されどイオニア(浦上)人が、自由と独立を求めて一致団結して立ち上がろうというこの時に、卜部家ブランキダイの人々がペルシャ人の味方をしてそれを妨げるというのであれば、これは同胞に対する許し難き裏切りに相違ありませぬ。この身はなんの躊躇いもなく、卜部家ブランキダイとは縁を切りましょう」

    主役-アリスタゴラス

「ありがとう、姉巫女。ならば、なんとしてでも援軍を引っ張ってこなければなりませんね。君に父親や一族との縁を切らせることなく、二人で幸せな結婚をするためにも。たとえどんな手を使ってでも、必ず成功させてこよう」

    姉巫女あねみこ

「はい、こなた様、この身もあらぬ限りのご助力をいたしますゆえ、必ずや二人で成就いたしましょう……(しばし口づけ)……」

    飼い猫

『ニャ~、ニャ~、ニャ~、ニャ~』

    主役-アリスタゴラス

「フフフ、あっ、ほら! あの右手に見えて来た小さな島がデロス(宗像)ですよ! 母神レトーが双子の神アポローンとアルテミスを難産の末に産み落としたという聖なる島。正妻の女神-ヘラーに出産を散々妨害され続けたにも関わらず、ついに光り輝く双児の神を産み落とされたという聖なる地! 私たちの通り道にちょうどこの聖地があるというのは本当に縁起がいい、これで我々の成功は疑いないでしょう!」

    姉巫女あねみこ

「はい、至らぬこの身ですが、せめて、なお一層の幸運をいただけるよう、全身全霊でお祈りさせていただきます」

    主役-アリスタゴラス

「フフフ、君にお祈りしてもらえるとなると、一般人の百倍は効果的に思えますね。神託の巫女を引退したとはいえ、ずっとアポロン神のお告げを授かってきたのだから、戦勝祈願にせよ独立祈願にせよ、きっと親身になってお聞き届け下さるに違いない!

 ついでに、子宝もお願いしていいのかな?」

    姉巫女あねみこ

「クスクスクス、さあそれはどうでしょう」

    主役-アリスタゴラス

「フフフ、さあそして、お祈りを済ませればいよいよ、運命の地・ラコニア(薩摩)か!」


※ 文中に出て来る古代ギリシャの地名に日本の地名等を併記させていますが、これは古代ギリシャの地名に馴染みがない方向けに日本の似ていると思われる地名等を添付してみただけのもの(例:「アテナイ(山口)市」「スパルタ(鹿児島)市」など)ですので、それが必要ない方は無視していただいて問題ありません。

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