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『O-276. 浦上-イオニアの反乱劇(アリスタゴラスの煩悶)』  作者: 誘凪追々(いざなぎおいおい)
▶第四幕(08/12)「消失」
21/27

・第四幕「消失」その1(後)



<続き><ミレトス(柔①)郊外の墓地にて>



    一味a-ヘルモパントス

「……本当に済まなかった。これが負けるということなんだな。普段偉そうなことばかり言ってたくせに、肝心な所でこんな失敗をやらかしちまうなんて。……」



 ――反乱初っ端のこの負け戦=エペソス(柔④)の戦いでは、私の弟の他にも大勢が討ち死にを遂げたらしいのだけれど、その中には、本土から来ていたエレトリア(出雲松江)市部隊の将軍・エウアルキデスも含まれていた。彼は運動競技で何度も優勝するほどの強者だから、きっと奮戦の末に討ち取られたのだろうけれど、このこともあってかその後のエレトリア(出雲松江)市はすっかり意気を消沈し、再びイオニア(浦上)に援軍を送って来ることは無かった。

 同じくアテナイ(山口)市部隊も、エペソス(柔④)での劣勢の中よく戦ってくれたとは思うのだけれど、彼らも帰国した後はすっかりおとなしくなってしまった。私たちとしては、頼みの綱たるアテナイ(山口)市へ「たとえ僅かでも構わないから、再び援軍を送って欲しい」と矢のように催促をしたのだけれど、今もしているのだけれど、彼らから色よい返事が来ることは無かった。

 もはや彼らとの同盟関係は事実上喪失したと考える他ないのだろう。


 と、以上のようなことをつらつらと、わが弟・カロピノスの墓に向って延々語り聞かせてやっているという訳なのだけれど。――



    主役-アリスタゴラス

「それにしても、あれほど調子の良いことを散々吹聴していたアテナイ(山口)人が、こうも簡単にへたれるとはな、さすがに予想外だったよ。将軍のメランティオスは帰国した後すぐ、おのれを恥じて自殺したとも聞いたのだけれど、恥じるべきなのはたった一度の敗戦ですっかり怖じ気づき、同胞を見捨てて、全く引き蘢って出て来ようとしない彼らのほうだ。

 お前もそう思うだろう?」


    弟の墓

『……。』


    飼い猫

『ニャ~、ニャ~、ニャ~、ニャ~』

    主役-アリスタゴラス

「……まあ、そうだよな。海の向こうに暮らす彼らに、過度に期待したこちらの責任も問われねばならないのだよな。私だって彼らの立場になれば、あのペルシャ軍と戦うのは出来ればご免被りたいと考えるだろうしな。……」



 ――実際、アッティカ(長州)に在住している者からの情報によれば、いざイオニア(浦上)へ援軍を送り込むと決まった後のアテナイ(山口)市では、他の近隣諸市の反応が今一芳しく無いこともあってか、「この反乱にあまり深く関与するのは危険ではないか」との慎重論も決して少なくは無かったという。

 すなわち、私が姉巫女と共にイオニア(浦上)へ帰った後も、アテナイ(山口)市の元老院や市民総会では援軍に関する議論が重ねられていたようなのだけれど、ヘラス(大和)本土の近隣諸市がアテナイ(山口)市の呼びかけに全く同調を示さないこともあって、援軍を送ることについては積極論を唱えていた者の間でも、その関与の仕方については激しい対立があったというのだ。

 すなわち、「がっつり肩入れする派」と、「あまり深入りはしない派」の主に二つで、将軍のメランティオスは前者、吉川カリアス家のヒッポニコスは後者の立場であったという。――



    富裕な市民-ヒッポニコス(積極派b)

「さて、我が輩はこれまでイオニア(浦上)への援軍には賛成の意見を述べてきた。しかしそこから先については他の者とは意見をやや異にするものである。

 将軍のメランティオスはペルシャ軍と陸の上でも戦う気まんまんんのようであるが、こちらはエーゲ海を渡ってわざわざ赴くという足枷もあるゆえ、なるべく内陸には踏み入らず、ただ海に接続している町のみを援助するに留めるべきだと考えるのである。

 たとえばミレトス(柔①)のような町であれば三方を海に囲まれた岬の上にあるため、ペルシャ軍が陸から攻め寄せてきても、海から邪魔をすれば敵軍は包囲網を完遂できぬゆえ、長期の籠城にもおそらく耐えうるであろう。我が輩が知るところ、イオニア(浦上)地方にはこれと似たような町が多いため、ペルシャ軍とても一々それらの町を全て長期間包囲するわけにはいかぬであろうから、そのうちに根気負けをしてくれればしめたものである。

 この作戦案はやや消極的に聞えるかもしれぬが、我が輩としては最も堅実で勝利する確率の高いやり方であると考えるものである。というのも、諸君も心して聞いて欲しいのであるが、戦争というものは始めるのはたやすいが、終らせるのはなかなかに難しいものだからである。あのペルシャ人に喧嘩をふっかけておきながら、こちらが都合の良いところで『もう止めたい』と一方的に申し出ても、向こうの気が済まずまだまだ続けると思えば、この戦いは延々と続いてしまうのである。最悪、このヘラス(大和)本土のほうにまで彼らが乗込んで来る可能性すらあるのであるからな。

 にも関わらず、こちらが調子に乗ってアジアの内陸深く入り込み、仮に一度や二度派手な勝利を幸いにして得ることがあったとしても、それでもう戦いを全て終わらせられる等とは期待せぬほうが良いというのである。そもそも海の上でならばともかく、あのペルシャ軍と陸でまともに戦うなら負ける確率のほうが高いのであろうから、なおさら慎重に考えねばならぬ筈なのである。

 であれば、イオニア(浦上)へ援軍を送るこちらとしても、最初から長期戦に備えた戦い方を想定せねばならず、それは陸での決戦をなるべく避けこちらの損害は最小限におさえつつ、海に接続した町の城壁内に粘り強く籠城するのを支援し、敵軍にいやらしく出血を強い続けることしか無い筈なのである。

 ゆえに我が輩は、アテナイ(山口)軍はあくまでイオニア(浦上)軍の背後を守るのをお手伝いする程度に留めておくのが無難であり、張り切って先頭に立ち反乱軍を仕切ろうなどとは決して考えぬほうが良かろうと言いたいのである」


    アテナイ市の将軍-メランティオス(積極派a)

「なるほどなるほど、たしかにお手前とはかなり意見が異なるようだ。しかし手前は、この戦いは決して長引かせてはならないと断固考える。なぜなら、本土からの援軍等があまり期待できない中にあっては、守勢に回って籠城にのみ賭けるというのでは、敵軍に『じっくり各個撃破をしてくれ』と言うようなものだからだ。

 また、わがアテナイ(山口)市の内情を考えても、そのような籠城を前提とした長期戦はとても肯定できない。なぜなら手前どもには、連年のようにイオニア(浦上)へ出兵するような余裕はとてもないし、またわがアッティカ(長州)のすぐ目の前に浮かぶアイギナ(壱岐)島の連中の動きも気に障る、あの連中はこと海軍においては忌々しいほどに有能だから、中途半端な準備ではすぐに叩き潰すこともままならんし、下手に手を出せば報復としてこちらの海岸沿いを延々襲い続けるやもしれぬ。

 だとすれば、イオニア(浦上)へのダラダラとした兵力の逐次投入は下策中の下策であり、もっと速く決着をつけねば成らない筈で、ここはまず初っ端に反乱軍の総力を結集してサルディス城を断固攻め取るべきだと手前ならば考える。さすれば、『まさかそんなことはありえん』と思っていた敵方の意表をつき、その戦意を断固挫く抜群の効果が期待できるし、また敵軍がサルディス城を取り戻すべく集結してきたなら、こちらはそれを待ち構えて城を背に、万全の態勢で断固迎え撃てば良い。そこで完膚なきまでに叩き潰すことに成功すれば、ペルシャ軍は不用意に沿岸地方にまで出て来ることは控えざるを得なくなり、同盟に加わるイオニア(浦上)諸市が敵軍に次々に攻撃を受けたり、その領土を無惨に踏み荒らされることも避けられることになる。

 しかも正々堂々たる合戦においての勝利は、その宣伝効果たるや抜群だろうから、これまでペルシャ人を恐れて反乱に合流していなかったポリスや近隣の異民族なんかも味方を申し出てくるに違いない。さすれば、ますますこちらの勢いは盛んになるだろうし、その噂を聞きつけて遠くエジプト人やバビロニア人なども断固反乱しようという気を起してくれればしめたもの。ペルシャ帝国にとっては西の辺境に過ぎないイオニア(浦上)どころではなくなり、向こうのほうから講和を申し出てくる可能性さえ出て来るだろう。

 さすれば、こちらの条件としては『イオニア(浦上)地方を含む沿岸地方には、今後一切近づかないこと』をペルシャ人に提示し、それを彼らに約束させることにすれば、この戦争は手前どもの目的を断固果たす形で比較的早く終わらせることも十分可能だろう」


    富裕な市民-ヒッポニコス(積極派b)

「やれやれ、わがポリスの防衛を指揮する重責を担う筈の将軍ともあろう者が、なんたる都合の良い楽観的な予想を重ねるものであるか。少しは、失敗した場合のことも加味して立案したまえ」


    アテナイ市の将軍-メランティオス(積極派a)

「なるほどなるほど、もちろん『現実はいつも、予想ほど上手くはいかない』と考えるのが良識ある市民の常識というものだろうし、手前自身としても個人的にそれを教訓の一つにしているのだから、お手前の言うような『失敗することも加味して慎重に作戦案を立てるべき』にやぶさかではないさ。

 がしかし、ここ最近の手前どもは常に常識というものを打ち破ってきたではないか! あのスパルタ(鹿児島)軍がペロポネソス(九州)半島の同盟諸市をこぞって動員し、わがアッティカ(長州)にまで攻め寄せエレウシス(上関)に陣をしいた時、多くの市民はわがポリスの滅亡を半ば覚悟していたが、しかし現実は、手前どもはそれを見事打ち破って、連中の内政干渉を断固として跳ね返したではないか!

 しかも相手は、ペロポネソス(九州)勢だけでは無かった。それに呼応してボイオティア(山陽道)軍やエウボイア(山陰道)軍までもが火事場泥棒よろしくわがアッティカ(長州)の辺境に押し寄せた。まさに袋のネズミ、『ついにわがポリスの命運も尽き果てたか』と諦めかけた者も少なく無かったはずが、しかし手前どもはそれらをも断固打破し、逆に彼らから少なく無い土地を断固奪ってやったではないか! その証拠に、本丸之丘アクロポリスの神殿にはその時の戦利品が誇らしげに飾られている。

 諸君、手前・メランティオスはその時にも将軍を勤めさせていただいていたから、わがアテナイ(山口)軍の実力については、他の誰よりも良く知っていると自負している、もちろんその弱点も含めて。その手前が判断するに、アテナイ(山口)軍は困難であればあるほどその力を発揮するのであり、実際にあの最強のスパルタ(鹿児島)軍を断固退けた手前どもが、ペルシャ軍を退けられないはずが無いのである!

 しかも今回は手前ども単独ではなく、イオニア(浦上)諸市の数多の同胞軍とともに断固戦えるのであるし、他の各地からもさらなる援軍が加わるのであれば、たとえ相手がアジア最強のペルシャ軍といえど勇気百倍ではないか!」



 ――以上のようなことを、援軍を送る前のアテナイ(山口)人たちは盛んに議論していたと後から聞いたのだけれど、既に述べたように今はもうそうした熱い議論がなされることは絶え、たとえ誰かが「再び援軍を送ろう」と提案したとしても、かなりの大差で反対多数となる他無いようだ。

 私と盟友クセニア関係を結んでくれた吉川カリアス家にしても、その返事は心無しかよそよそしく、彼らアテナイ(山口)人を再び煽って世論を援軍派遣にもっていくのは至難の業、というよりおそらく不可能なのだろうということが嫌でも察せられた。こちらがよほどの大勝利でも収めて、イオニア(浦上)での戦況が決定的に反乱軍有利に傾かない限りは、アテナイ(山口)市やヘラス(大和)本土の諸市を動かすことはもう諦めるしかないという状況なのだ。


 ……とはいえ、戦争を始めてしまったからには意気消沈ばかりもしていられない。その後の私は、初っ端での躓きを少しでも取り戻すため、しゃかりきになって動き回ったのだけれど、意外なことに戦線の拡大に関してはそこそこ上手く行った。

 たとえば北では、ヘレスポントス(北海道)海峡に同盟海軍を送り、ビュザンティオン(下北)市をはじめとするプロポンティス(陸奥湾)海方面のポリスをほぼ味方に加えることに成功したし、かたや南でも、カリア民族のほとんどが反乱同盟に加わることを申し出てきたのだ。どうやら、失敗したとはいえサルディス城焼き討ちの噂が効いたらしく、あの素っ気なかったカウノス市ですらわが傘下に加わってきた。

 ちなみに、この「カリア民族」とはリュディア地方のすぐ南隣りに住まう異民族であり、おもに内陸の丘の上に町や集落を築いて暮らしているのだけれど、そこはわがミレトス(柔①)市のすぐ東に広がる地方でもあるから、彼らが味方についたということは、少なくともペルシャ軍は先にカリア地方を征服してからでないとわがミレトス(柔①)方面を攻撃できないのであり、これはペルシャ軍による直接的な脅威がしばらくは遠のいたことを意味した。


 またこれらの動きも影響してか、ペルシャ帝国への反乱は沿岸地方の外にも飛び火し、特に東のキュプロス(銅)島では大きな動きを見せ、私たちと連携しつつペルシャ軍に大きな打撃を与えるに至った。

 ちなみに、この「キュプロス(銅)島」とは地中海の東の端、フェニキア(紫)地方やキリキア地方のすぐ沖合に浮かぶ大きな島で、数多くの町が海岸沿いに並ぶのだけれど、サラミス市の王弟・オネシロスの働きによりアマトゥス市を除くほぼ全ての町がペルシャ帝国から離反したのだ。

 このオネシロスも、前々から密かにペルシャ人に反乱することを企んでいたらしいのだけれど、偶然とはいえ彼らとの連携は私たちにとっても大変都合の良いことであった。なにしろ、この島が頑張っているかぎりペルシャ海軍はそちらに釘付けとならざるを得ないので、こちらのエーゲ海方面は安全が保たれるからだ。つまり、イオニア(浦上)諸市が海側からいきなり攻撃される恐れは無くなるし、わがミレトス(柔①)市も敵海軍によっていきなり港を塞がれる等といった心配をしないでも済むのだ。

 そのため彼らから、「キュプロス(銅)島の反乱を鎮圧すべく、ペルシャ軍がすぐさま出動してきたので至急援助を要請する」との急報が届くと、私たちもすぐさま同盟海軍を派遣し敵の主力・フェニキア(紫)人艦隊を撃破したりもした。


 こうして、サルディス焼き討ちとエペソス(柔④)での負け戦からおよそ一年と半年が経ち、私はミレトス(柔①)郊外にある弟の墓の前で彼にこれまでの戦果を長々と報告しているという訳なのだけれど。――



    主役-アリスタゴラス

「ああ、わが弟・カロピノスよ、お前の武勇に報いるためにも、私は反乱が成功するよう考えうる限りのあらゆる手を打ったはずなのだけれど、戦況はここに来て、どうにも劣勢に追い込まれつつある。ほとんどの町が反乱に加わっていたはずのキュプロス(銅)島も丸一年が経ち、最後まで抵抗を続けていたソロイ城もついに陥落し全てが終わったらしい。おかげでフェニキア(紫)人やキリキア人を主力とするペルシャ海軍がいつ、こちら側の海に出張ってきてもおかしくない情勢だ。

 かたや陸のほうでも、ペルシャ帝国の名だたる武将らによって、反乱同盟に与する町が次々に攻め落とされつつある。わがミレトス(柔①)の東の防波堤にもなっていたカリア地方も、ペルシャ軍による再三に渡る攻撃により、こちらから少なく無い援軍を送ったにも関わらず大敗を喫して風前の灯となりつつある。彼らカリア人がこのまま平定されてしまえば、いよいよペルシャ陸軍は沿岸地方こっちにも安々と出張ってこられるようになる。

 ああ、私は一体どうしたら良いのだろうな?」


    弟の墓

『……。』


    飼い猫

『ニャ~、ニャ~、ニャ~、ニャ~』

    アリ

「そうだよな、お前に愚痴ってみても仕方の無いことだよな。……

 それではカロピノス、私はそろそろおいとまするよ。これからディデュマ(浦神)の神殿へ行かねばならないのでな。

 そう、お前が好意を寄せていた妹巫女いもみこに相談があるのだけれど、彼女は姉巫女あねみこが引退したあとの神託を健気に切り盛りしていて、とても頑張っているぞ。こんな私でも相変わらず優しく迎えてくれるしな。だからお前も暇ならついてくると良い、今日はそこそこ良い天気だしな」


※ 文中に出て来る古代ギリシャの地名に日本の地名等を併記させていますが、これは古代ギリシャの地名に馴染みがない方向けに日本の似ていると思われる地名等を添付してみただけのもの(例:「アテナイ(山口)市」「スパルタ(鹿児島)市」など)ですので、それが必要ない方は無視していただいて問題ありません。

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