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『O-276. 浦上-イオニアの反乱劇(アリスタゴラスの煩悶)』  作者: 誘凪追々(いざなぎおいおい)
▶第四幕(08/12)「消失」
20/27

・第四幕「消失」その1(前)



<O-279(紀元前497/496)年><秋><イオニア(浦上)地方><ミレトス(柔①)郊外の墓地にて>



 ――あれからもう二年が経った。「あれ」というのは私が姉巫女と共にヘラス(大和)本土へと赴き、イオニア(浦上)反乱への援軍の約束を得て帰って来た時のことなのだけれど、ペルシャ帝国への反乱はまず初っ端から大きく躓いた。ヘラス(大和)本土からの援軍は来るには来たのだけれど、その数は予想したよりもはるかに少なかったのだ。

 具体的な数で言うと、アテナイ(山口)市からの軍船二十隻とエレトリア(出雲松江)市からの軍船五隻の合わせて二十五隻のみが、エーゲ海を横切って打合せ通りわがミレトス(柔①)市の入り江に到着したのだけれど、本土からの援軍は結局それが全てだった。――



    アテナイ市の将軍-メランティオス

「アリスタゴラス殿、まことに面目ない。ヘラス(大和)本土の諸市には口を酸っぱくして断固参戦を呼びかけたんだが、このエーゲ海を渡ってまでしてあのペルシャ人と戦おうとする殊勝なポリスは、手前どもの他に無かったようだ。

 けれどご安心を、落胆などなさいますな。こちらは少数といえど、士気の高さには期待していただいて良い。烏合の大軍より少数の精鋭のほうが戦場ではむしろ役に立ちましょう! さあ、準備は万端です、戦うべきペルシャ軍はどこに?」


    エレトリア市の将軍-エウアルキデス

「彼の言う通りです、アリスタゴラスさん。他のポリスはペルシャ人を恐れてとりあえずは様子見を決め込んでおりますが、もしも我らが花々しい戦果を上げたと耳にすれば、赫々たる武勲を挙げたと聞いたなら、そして過分なる戦利品をせしめたと知ったなら、我も我もと援軍に馳せ参ずることでしょう。臆せず気合いを入れて、ペルシャ人にぶちかましてやりましょう!」



 ――私はここイオニア(浦上)の同胞たちに、「本土からも強力な援軍が駆けつけてくれるから心配ない」と散々宣伝していた手前、少数とはいえ彼らが実際に来てくれたのはもちろん有り難いとは言えたのだけれど、正直なところ「ゼロより少しだけマシな程度に過ぎない」と酷く落胆させられた事は否めなかった。

 なにしろ、軍船二十五隻程度ならわがミレトス(柔①)市が片手間で用意できるぐらいの数だし、他のイオニア(浦上)諸市とて単独でそれ以上の軍船を集合場所に寄越したところもあるのだから。おかげで、イオニア(浦上)諸市の人々が、本土からの援軍が僅かその程度であることを目の当たりにした時、少なからぬ落胆の色を彼らが見せたのもまた無理からぬ事だった。


 とはいえこれにより、自分たちが全くの孤立無援ではなく、今後の戦況次第ではさらなる援軍が来てくれるかもしれないという一縷の望みを抱くことは最低限出来たし、たとえ彼ら本土からの援軍がほとんど無かったとしても、この集合場所に自分たちだけでもかなりの軍勢を集められたこと――最新型の軍船を数百隻――には皆大いに勇気づけられ、将軍たちによる作戦会議では「こちらから敵へ仕掛ける」という積極的な案が賛成多数で可決された。

 それは、最寄りの海岸から内陸へ歩いて二日三日ほどの距離にある敵の最大の拠点・サルディス城に先制攻撃を仕掛けるという作戦案であり、まだ戦う準備が十分に整っていないであろうペルシャ軍の機先を制して、この沿海地方全体を支配する象徴的な存在でもある有名なサルディス城を攻め落とすことによって、まだこの反乱に加わることを躊躇っている近隣諸市に踏ん切りをつけさせること、またエジプトやバビロニアやインドなどペルシャ帝国に無理矢理支配されている他の諸地域の反乱欲を刺戟すること、そしてヘラス(大和)本土を含む各地の同胞諸市に援軍を出す気にさせる、等の強い宣伝効果をも期待するものであった。――



    主役-アリスタゴラス

「我らがイオーニア(浦上)の、反乱同盟の諸君よ! なにごとも『始めが肝心』という! この作戦は今後の反乱の行く末を大きく左右するだろう! これを成功させれば、私たちの見通しはとても晴れやかなものになるに違いない!

 さあ諸君、ペルシャ人が守りを固めてしまう前に、躊躇せず、敵の巣窟・サルディス城へ乗込んでやろうではないか!」


    同盟諸市の将軍たち

『『『おおー!』』』



 ――こうして、私たちの戦いが始まったのだけれど、とある事情により私自身はこの作戦に加わることを直前になって辞退した。怖じ気づいたとかそういう理由では決して無いのだけれど、私の名代としては弟のカロピノスを行かせ、その補佐としてはわが一味の中でも最も武闘派のヘルモパントスをつけ、わがミレトス(柔①)市部隊の指揮、及び同盟軍全体を取り仕切ることを彼らに委ねた。――



    弟-カロピノス

「あ、兄者お、おでがなんとかす、するからよ、良い知らせをま、待っていて欲しい」


    一味a-ヘルモパントス

「おう、そうだぜ、アリスタゴラスの大将、俺たちに任せておきな! これほどの軍勢を指揮できるなんて、男冥利に尽きるってもんだ! あんたはこのミレトス(柔①)で、枕を高くして『戦勝報告』ってのを待っててくれ」



 ――しかし結果として、これのせいであったかどうかは不明なのだけれど、この作戦は思い通りに事が運ばなかった。

 総勢数百隻もの軍船を擁するわが同盟軍は、エペソス(柔④)市領のコレッソスに船を残して上陸すると、地元民の案内でカユストロス川沿いを素早く進み、砂金が採れることでも有名なトモロス山を越えて目的のサルディス城まで気づかれることなく攻め寄せることには成功したのだけれど、敵もさるもので、これを発見した総督のアルタプレネスとここに駐留して居たペルシャ軍はあわてて軽率な行動を取ることもなく、堅固な崖に守られた本丸の城に籠ることをすぐに選択し、そのまま長期戦も辞さずとの態勢を素早く冷静に取ったのだ。

 おかげで、驚く本丸を不意打ちして速やかに乗っ取るか、もしくはここの守備隊と決戦などを済ませて町を手早く掠奪した上で、再び軍船の待つ海岸のほうへ戻るつもりでいた同盟軍は、当てが外れて攻めあぐねることとなってしまった。


 そうこうする内に、わが同盟軍が占拠していた町の一部から火の手が上がり、あっという間に燃え広がってしまったものだから――この町の家々の多くは河原などで採れる蘆で造られ、その屋根もほとんどが蘆葺きであったため、兵士の一人が家の一つに火をつけたところ、たちまち町全体が火に包まれてしまったのだという――おかげで大した戦利品を得ることもないまま、この名にし負うサルディスの町は、地元の氏神-キュベベの神殿なども含めてそのほとんどが灰燼に帰してしまった。

 このサルディスの町を中心とするリュディア地方は、トモロス山の砂金をはじめとして金銀銅がとても豊かに採れる国として古来有名だし、また特産の綺羅の織物などもとても有名だから、当然この町を襲えば相当なものを得られると期待していたのだけれど、これもまるでそうはならなかったのである。


 また、サルディスの下町に住んでいたリュディア人やペルシャ人の多くは、周りを全て火に囲まれてしまったものだから、もはや町の外へ逃げ出すこともかなわず、唯一安全な集広場アゴラやそこを流れるパクトロス川の河原に自然と集まってきた。おかげで、同盟軍は火が収まった後の町なかへ乱入しようとも考えたのだけれど、彼らが否応なく決死の覚悟を固めてこちらに歯向かう姿勢を見せてきたために、それも二の足を踏んで傍観するしかない有様だった。

 しかも、このゴタゴタの間に、リュディア地方の近くに駐屯している他のペルシャ軍の諸部隊には「至急援軍を請う」との急使が当然飛ばされたであろうから、ここでグズグズしていればわが同盟軍は退路を断たれて逆に包囲されかねないことが切実に予想された。これに恐怖を覚えた同盟軍はすぐさま元来た道を戻り、軍船のほうまで退いて態勢を立て直すことにしたのだけれど、騎兵を主体とするペルシャ軍の集結と追撃はさすがに素早く、ついにエペソス(柔④)の町の近くで追いつかれてしまった。

 同盟軍の将軍たちは急いで平野に陣を展開し、このペルシャ軍を迎え撃ったのだけれど、まことに遺憾ながらその結果は惨憺たるものであったという。指揮がまずかったのか、陣が整っていなかったのか、それとも弱気になっていたからか、あるいはそれら複数の理由が重なってか、わが同盟軍は自慢の重装歩兵の力を大して発揮する間もなく、海岸へと逃げ出し、そこに泊めてあった軍船にあわてて飛び乗り、やがて各々のポリスへと散り散りに帰っていったのであった。


 そして、私が待つミレトス(柔①)市の港にも敗残兵が這々の体で逃げ帰ってきたという訳なのだけれど、その報告にはさらなる衝撃的な出来事も含まれていた。――



    一味a-ヘルモパントス

「すまない、アリスタゴラス、あんたの弟は戦場に最後まで踏み留まって見事な討ち死にを遂げたよ。『兄者から同盟軍の指揮を委ねられたからには、ここを最後まで放棄するわけにはいかない。だから君たちは怪我人とミレトス(柔①)軍の残り半分を連れて、先に退いてくれたまえ!』とだけ言い残してな……」



 ――不老不死の神ならぬ私たち人間には寿命があるのだから、「いつ死んでもおかしくはない」と常々思ってはいたはずなのだけれど、いざ自分の身近な者がこうしてこの世から永遠に消え失せたとなると、底知れぬ死への恐れがこれほど湧いて来るのだということを痛感させられた。

 私や姉巫女だって、つい明日には、この世から消え去っていたとしても、なんらおかしくはないのだから。――



    一味a-ヘルモパントス

「……今度のことで存分に思い知ったよ、自分には大軍を率いるほどの器は無いらしい。あんたの弟を補佐して、あのペルシャ軍に痛い目をみせてやるつもりだったが、完全に役不足だったようだ。あんたの弟は例のどもりだから、同盟軍の将軍たちはみな怪訝な顔してその能力を疑ってかかっていたよ。俺が代弁したりもしたんだが、おかげでサルディス攻めの時から各部隊が自分らの判断で勝手に動くもんだから、こっちがペルシャ軍を追い詰めたはずが、逆に腹くくって集結した向こうのほうに威圧される始末さ。

 俺とカロピノスは、『せめて本丸のペルシャ軍にある程度打撃を与えた上で退くべきだ』と主張したんだが、他の将軍たちは『すぐに海岸まで退いて態勢を整えるべき』との一点張りで、取りつく島もない。おかげで逃げる途中にあわてて決戦するハメになり、しかも各部隊が自分らの判断で銘々戦うような有様になったもんだから、結果ペルシャ軍にちょっと圧されると途端に自分たちの持ち場を放棄し、海岸目指して散り散りに敗走していくことになっちまったんだ。

 そしてあんたの弟は、殿しんがりを見事努めて味方が逃走するのを最後まで助けた上で討ち死にを遂げたという訳さ。それはそれは見事な武者っぷりだったよ」



 ――この報告を受けて、さすがの私もしばし言葉を失った。失敗をしたというのなら、この私こそがその主因であろうから。「初っ端が肝要だ」と言っておきながら、この大事なサルディス攻めを自分で指揮せず、他人に委ねてしまったのはやはり最もやってはならないことだったのではないか? 自分でやっていたのなら、失敗するにしてももう少しマシな程度でおさえられたのではないか? これでは、各地の反乱を煽るための宣伝に使うというより、逆に「反乱は失敗するから絶対に止めておけ」という逆宣伝になってしまうではないか!


 挙句、他の誰より忠実だった、弟を失ってしまった。……最低だ。――


※ 文中に出て来る古代ギリシャの地名に日本の地名等を併記させていますが、これは古代ギリシャの地名に馴染みがない方向けに日本の似ていると思われる地名等を添付してみただけのもの(例:「アテナイ(山口)市」「スパルタ(鹿児島)市」など)ですので、それが必要ない方は無視していただいて問題ありません。

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