第五話:AIのいる生活
互いに支え合うから、人。
「起きて、橘くん起きて」
橘くんの肩をぽんぽんしてあげると、すぐに目を覚ました。
「トオルくん、時間は大丈夫?」
『ああ。すぐ起きたから問題ないよ。さあ、お隣さん、着替えてきなさい』
状況が分からないのか、キョトンとしている橘くん。なんか可愛い。
「な、なんで……」
なんか顔が赤くなっている気がするけど、どうしたんだろ?
「もうすぐご飯できるから、着替えてきて? 今日は大事な資格試験の日なんでしょう?」
「ご、ごめんなさい!」
訳が分からない。そんな顔をしながら、バタバタと部屋に帰っていって、インターホンを鳴らして戻ってくる。
「あ、あの、ほんとにいいんですか? 朝食」
「もちろん。しっかり食べて、頑張ってきて」
行ってらっしゃいと送り出したあとは洗い物。やっておかないと、仕事帰りの疲れてからになってしまう。
『彩さん、時間はあるかな?』
「なあに? トオルくん?」
『大事な話があるんだ』
あれから時は過ぎ、
お隣の橘くん、橘透くんは、資格試験に見事合格。バイトを辞めて、資格を生かした仕事に転職したとのこと。その影響で、アパートを出ることになった。
私にAI婿を洗脳じみたやり方で猛プッシュをしてきた先輩は、見かねた親がセッティングしたお見合いで出会った男性とゴールイン。寿退社してしまった。
お見合いから一年もしないうちに産んだ子どもを、幼稚園に預けられるようになったら、職場に復帰するとのこと。
少し前に子連れの先輩と会ったら、
「結婚も子どもも良いものよ! 私、誤解していたわ!」
と、豪快に笑っていた。
幸せそうで何よりです。
そして、私は。
アパートからに移り住んでいる中古の一軒家のリビングで、プロポーズを受けていた。
「俺と、結婚してください」
たった二年で、中古の一軒家を買って、リフォームして、指輪を用意して、結婚資金まで用意して、離れて暮らす親にまで話を付けて。
あれから、AIのトオルくん、改めトオルさんと一緒に、二人にずっと支えられてきた。断るなんて考えられない。
「私で、良ければ……喜ん、で」
喜びの涙で、返事がつっかえてしまう。けれど。
『良かったね、彩。幸せになるんだよ? これからだよ、透。二人と、これから産まれてくる子どものためにも、頑張るんだよ』
指輪をはめてもらい、幸せを噛み締める。
喜びの涙が、止まらない。
「ありがとう、トオルさん。ありがとう、透くん。私と、一緒に、幸せになって?」
結婚は、人生の墓場だって、先輩が言っていた。
けど、こんな幸せな墓場なら、喜んで、残りの人生を捧げよう。
AIだけれど、私を支えてくれる、トオルさん。
年下だけれど、私を愛してくれる透くん。
二人と一緒で、私は、幸せです。
お幸せに。