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ニートのオレに一軒屋と男の娘が降って来た  作者: オトメチックExpress
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父性とは無縁の存在の冴えないアラサー男性が、(男の娘)子育て的なあれこれを通じて、父性に目覚めて、徐々に成長していく話。

- プロローグ -


 オレはこの状況でかなり追い詰められていた。


 親がかりで出してもらった大学。なかなか苦労した就職、色々あっての自己都合退職。すっかり社会に絶望して部屋にこもってニート生活、ちょっぴり回復してニート続けながらの一人暮らし、そして今の状況。


 それでも、自分はこういう立場の人間としてかなり恵まれている方だと思う。たまのバイトやいくばくかの貯金でなんとか一人暮らしはしているけれど、親の扶養に入っていて健康保険証もある。自分が勤めていた会社を辞める辞めないの話が出た時、親には随分と心配を掛けたし。今でも母親は呆れつつも、不憫に思ってたまに衣料やらや食料やらを送ってくれるるのだから。そんな親にはマジ感謝!…と、感慨深すぎて貧困なイメージのラッパー調になってしまった。


 恵まれてこそいたが、それでも今の生活が破綻する日を多少遅くさせる程度の効果しか望めなかった。


 自分の生活資金が底を尽きかけていたのだから。




『この生活、結構気に入っていたんだけれどなぁ…』


 引っ越してから、部屋にあるのは小さなテレビとラジオだけだった。


 バイトがない日は、誰に気兼ねなく好きなラジオを聞いて、メールを送る日々。お気に入りの番組は深夜でもリアルタイム聴取して、番組の展開に応じて、それに即したメールを間髪入れずに送る。じっくり聴いてから送っては間に合わないし、他のリスナーに先を越される。そこは競争だし、ギャンブルでもある。だからこそ、そこにビシッとハマってパーソナリティの爆発的な良い反応が得られた時は格別な気持ちになる。そんな事を繰り返しているうちに、自分もいくつかの番組では、一番のスター職人ではないにしろ、中堅どころ葉書職人(今の通信手段はメールだがこう呼ばれることが多い)になっていた。


 多少の記念品の類はもらったけれど、だから何だって事は現実世界のオレには何にも無いんだけれど。


 もう取り得る選択は、かなり限られつつあった。「実家に帰るか…」 せっかく頑張って家を出たのだから、これだけは避けなければと考えてはいたが、この状況ではそういう選択肢が頭をもたげる。



 そんな憂鬱な終わりへの足音が近づく日々の中、その知らせはもたらされた。



 匿名希望のとある資産家の代理人だというその男。個性がないスーツを着た印象の薄い人だった。弁護士らしく、名刺も貰った。(あとで検索したら、ちゃんと弁護士登録があった)



 とにかく住む所を用意してくれるらしい。「そんな都合のいい話があるか?」と思うだろう。オレもそう思った。ただ、これは契約の一つに過ぎない。発生する義務として、そこに住んでいる男子中学生の面倒を見る必要がある。それがこの契約の要点らしい。


  中学生の面倒を見る → オレの住む所が出来る


 労働の対価だし至って普通の契約だろう?生活費の他に十分な報酬も支払われ、さらにその男子中学生の学費等は一切、その資産家が支払ってくれるらしい。家賃や固定資産税その他の費用も、こちらで用意する必要は無く、その資産家が支払ってくれるという。


 最高じゃないか。こちらに何の不都合も無い。だがしかし、この隠し切れないこの違和感は…違和感しかないぞ。そんなうまい話ってあるか?オレは他人の話でも聞いた事が無い。すべてがこちらに都合が良すぎる。うっかり話に乗ると、このまま豪華客船エスポワール号に放り込まれて、命がけで高い鉄骨の上を渡らされたりするパターンなんじゃないか?と悪い想像が頭をよぎる。


 ただ、今の自分には失う物は無い。失敗も怖くない。犯罪の片棒を担がされるわけでもない(多分)。その資産家だって、何のコネも金も無い自分の命までは取ろうとは思わないだろう(だといいな)。そんなの何のメリットも無い。それより、目先のこの親元を離れた生活が終わる事の方が怖かった。


 決めた。奇妙な話にオレは乗るぞ!



 どうかしていたのかも知れないが、閉塞を打ち破るのは、これしかないような気がした。


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