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第6話  一攫千金って何?

電子辞書(?)のおかげで、薬になる草、染料として使える花、毒になる根などを採取できた。

うん、採取は順調と言える。

そう、採取は順調なんだけど…………

肝心の町か村が全然見えてこない。

採取をしながらとはいえ、結構な距離を歩いたように思うのだが………


時計で時間を確認してみる。

「15:10」

かれこれ5時間程歩いている事になる。


やっぱり神様に逆らったのが良くなかったのだろうか?

そんな事を考えていた時だった。


何だこれ??

仙人掌サボテン


えっ?

おかしくねぇ?

ここ草原だよ!

違和感ありまくりだよ!

明らかにおかしいだろ!!


とりあえず、電子辞書(センセイ)よろしくお願いします。


『万華応能仙人掌 通称バンノウサボテン

 発見が非常に(・・・)稀で、自生条件不明。

 あらゆる病気を治すと言われている。 ↓ 』


えっ、何これ?

どういうこと?


『使用して、過去に治せなかった病は無い。 

 白金貨100枚で取引された事もある。    

 使用方法            ↑ ↓ 』


えっ!

白金貨100枚って、いったい幾ら位なんだ?


『白金貨1枚 ≒ 拾億円

 白金貨1枚 = 大金貨100枚

 大金貨1枚 = 金貨10枚      ↓ 』


あっ、電子辞書(センセイ)あざ~ぁっす。


え~~と、白金貨1枚約10億円ってことは……

白金貨100枚って1000億円………


ええぇ~~~~!!!!!!!!

この変なサボテンが、1000億円!!!!!!

ま、まじでぇぇ~~~!!!!!!!


お、俺ってば、大金持ち!!

俺の第2の人生、大勝利確定?

実は、金満チートだった?


い、いや、落ちつけ俺。

まだ、大金を手に入れた訳ではない。

そもそも、このサボテンだって手に入れていない。

きっと、何か落とし穴があるに違いない。


例えば、採取が凄く難しくて失敗するとか………

電子辞書(センセイ)によれば、そのまま採ればいいらしい。

うん、普通に採れた。


きっと、保存方法が難しくて、売る時には価値がなくなってしまうとか…………

電子辞書(センセイ)によると、常温保存で10年はもつとの事。


あれっ?

何の問題もなくゲットできてしまった。


……大金持ちになった実感は、全く無い。

そもそも、1000億円は過去最高金額であって、その金額で売れるとは限らない。

いや、でも百分の一だったとしても…10億円。

ごくり。

いやいや、そもそも売り先は何処よ?って話だ。

まだ、この世界で人に会ってもいないのに、売り先なんて想像もつかないよ!


とりあえず、大事にしまっておく。


そして、目の前の問題だ!

明るいうちに、町か村に辿り着けるかだ!


時刻はだいたい15時30分。

17時ぐらいまで歩いて、見つからないようなら、野宿ポイントを探すことにしよう。

暗くなってしまっては、危険だからな。

でも、できれば野宿は避けたい。


MPの残量も、14時チョット前に1つ減って『□□□□■■■■■■』になっている。

この調子で使用し続ければ、最初に決めた通り半分になる頃には、あたりも暗くなることだろう。

そこで休息をとれば、ある程度は回復が見込める……といいなぁ~。


ある程度順調に採取はできているので、しばらくは移動優先にする。


そう決めて20分程歩いただろうか、前方に火トカゲ――もとい人影が見えた。

この世界に来てのファーストコンタクトである。

そう、第一村人発見!ってやつだ。


言葉は通じるようにしておいたとは言われているが、ちょっぴり不安でもある。

何か、いい加減な仕事してそうだしなぁ~。

などと考えていると、少しずつ人影に近づいていく。


どうやら、1人ではないようだ。

2人……というか、大人1人・子供1人って感じだな。


そして、なかなか近づかないと思っていたら、どうやら相手方は移動していない。

その場に留まっている?

休憩か?

何にせよ、友好的かどうかも判らない。

一応警戒しておこう―――っていっても、こっちは武器も無いからなぁ~。

大事なのは心だ、心構えだけはしておこう。


更に近づいていくと、何やら様子がおかしい。

てっきり休憩しているかと思っていたが、とてもそうは見えない。

身体の大きい方が胸を押さえるようにして、うずくまっている。

そして、身体の小さい方がそれを気遣いつつも、どうしていいか困っているように見える。


急いで駆け寄ろうかと思ったが、しばし考える。

第一の人生を謳歌していた頃、海外に行った時に注意された事がある。

治安の悪い地域では、具合が悪い振りをして、親切に近寄って来た人を襲う輩がいるので、不用意に近づかないようにと。

そういう可能性も捨てきれない。


改めて、2人を良く見てみると、2人とも革製の鎧の様な物を身に付けている。

そして、蹲っている方の腰には、剣があるようだ。

小さい方も、今は地面に置いているが、棒―いや、槍かな?―を持っているようだ。


とりあえず、距離をキープしたまま、声をかけてみる事にする。


「どうかしましたか~?」


小さい方が、顔を上げこっちを見る。


「お願い、助けて!

 コホッ!

 急に、ゴホッ、胸を押さえて苦しみだしたの!

 ゴホッゴホ、ハァ

 もし、ゴホ、薬を持っていたら分けて貰えま、ゴホッ、せんか?」


俺は、驚いて声を出す事もできなかった。

俺にそう声をかけてきた子供の頭の上に、立派な獣耳があったのだ!!


「フォウ!

 其奴が、グッ、盗賊の類でないという、グハッグゥ、保証はないのだ!」


そういって、顔を上げる大きな方を見て、これまたビックリ!

頭部が犬――狼かな、本物の狼を見たことがないから知らんが―そのものだったのだ!!

いいか、獣耳でなくて、頭が丸ごと狼(仮)だったんだ!

所謂、獣人ってやつか?


「で、でも、コホ

 こいつ、武器も持っていないしゴホッ、ゴホッ

 明らかに人族だよ!コホッ、コホッ」


獣耳の子供が、狼(仮)に話しかける。

あの耳。

最初は犬耳かと思ったが、となりの狼(仮)と比較してみると、違うようだ。

狐耳か?

って、今はそれを考えている時では無い。

それは、後で追求すればいい。

そう後でだ!

決して有耶無耶にする気は無い!


「あいにくと、薬は持っていないが、ザッソウをはじめとして、幾つか薬草を持っている。

 分けてあげてもいいのだが、私にしてみれば、貴方達が盗賊の類である可能性も捨てきれない。

 見ての通り、私は武器を持っていない。

 なので、私の安全を保障する意味でも、2人の武器を少し離れた所においてはくれないだろうか?」


そう言って俺は、証拠とばかりにポケットからザッソウを出して2人に見せる。


2人は少し困惑した様な顔をしたものの、見つめ合って互いに頷くと、武器を少し離れた地面に置いた。

それを見て俺は2人近づいて行く。


そして、2人に注意を払いながらも、電子辞書(センセイ)の操作をする。

分野を「医学」にして検索モードに変えておく。


そして、俺が狼(仮)の様子を見ようとすると


「我よりも、先にコイツ、グッ、を見てもら、グッ、えぬか?」


と獣耳の子供を前に出す。


「そんな、コホッ、ヴォルの方が大変、ゴホッゴホッゴホッ」


「いや、我は、グッ、休んだら大分楽になって、グヮッ、きたので後でいい」


ほっといたら、言い合いが続きそうだったので、口をだす。


「ほらっ、子供が先だ!

 その咳は何時からだ?

 熱はあるか?

 下痢をしていたりはしないか?

 ……………………」


色々と訊き出し、検索条件を入れていく。

そして、電子辞書(センセイ)の出した診断は


『カゼリカル症候群 通称カゼ 日本の風邪に

 良く似ている。飛沫感染し感染力がやや強い

 体力のない、子供や年寄りは死ぬことも。↓』


ふむ、ふむ、成る程。

「うむ、おそらく「カゼ」だろう。

 薬は、ザッソウとカーク草を2:1の割合で混ぜた物を。

 それを飲んで安静にしていれば、2~3日で治るだろう」


電子辞書(センセイ)の出した診断を、そのまま伝える。

そして、カーク草も採取していたので、早速薬を作る。


おでんの空き缶に、2種の草を入れて、残っていたペットボトルの水を少々入れる。

おでん缶の竹串を使って掻き回す。

う~ん、とっても青臭い。

決して、自分では飲みたくない。


そして、それを獣耳の子供に渡す。

その青臭ささに嫌そうにしていたものの、俺の無言の圧力に負けて、一気に飲む。


「うわぁ~!苦ぁ~!!!」


「まあ、薬なんてそんなもんだ。

 あと、飛沫感染するらしいから、一応これもつけとけ」


そう言ってポケットからハンカチを取り出し、口を覆うように軽く縛る。

マスクがあればよかったのだが、そんな物がこの世界にあるとは思えない。

気休め程度だが、無いよりはマシだろう。


「な、何だよこれ?」


「その病気は人に感染する(うつる)んだよ。

 それをつけとけば感染しにくくなるから、黙ってつけてろ!」


「………………」


てっきり、もっと何か言ってくると思っていたら、暗い顔をして下を向いてしまう。

気にはなったが、狼(仮)も苦しいのを我慢しているのはバレバレだ。

そっちの治療後に話を聞くことにする。


先程と同じように聞き取りをして、条件を入力していく。

そして電子辞書(センセイ)の出した診断はこれだった。


『五日殺し 通称 同じ 最初の激痛から5日

 以内に死ぬことが名前の由来 不治の病  

 原因は不明だが、他人に感染した事は無い↓』


ちょっ、まっ、何これ!

名前、まんまジャン!

ひねろうよ!

って、そうじゃない!


「なあ、アンタ。

 最初に胸が痛み出したのは、3日前ってのは間違いないか?」


「ああ、間違いない。

 やはり、五日殺しか…グフッ…?」


「アンタ、病名を知っていたのか?」


「……以前、仲間を、グッ、この病でなっ?

 なので、病名は知っ、グヮッ、ていた。

 だが、非常に、グッ、珍しい病なので、まさか自分までとは……

 貴様の反応と質問内容で、確信を得、グッウ~グッ、た」


あっ、そうだ!

さっきのアレ!


「おい、アンタ!

 これは、シヒレ草の根だ!

 この根は粉末にして、水に溶かすと狩猟に使える、痺れ薬になる。

 しかし、少量の服用で痛み止めになる。

 病気が治るわけではないが、痛みが多少はマシになる筈だ!

 使え!」


「かたじけない」


粉末にする道具もないので、直接口に含み、咀嚼し飲み込む。

薬の効果があったのか、少し楽になったようだ。

いや、こんなに早く効きはしないだろうから、プラシーボ効果だろう。

もしくは、凄く心配そうに見ている、獣耳の子供を安心させる為の我慢かもしれない。

強いな、この狼(仮)精神的にというか、人として――狼(仮)だけど……


「薬の効果が出始めるまでは、安静にしていた方がいい。

 なので、少し話を聞かせて貰っていいだろうか?

 俺の名前はアタル。

 15歳になったので、故郷の村を出た。

 そして、数時間前から迷子をやっている」


俺の話が可笑しかったの、獣耳の子供が少し微笑む。

うむ、道化になった甲斐があったってもんだ。

まあ、迷子なのは事実だが……


「恩人に先に名乗らせてしまうとは、失礼した。

 我は、ヴォルフガング。

 この子は、フォウテイル。

 見ての通り獣人だ」


俺が珍しそうに見ていた為か、ワザワザ獣人となのる狼(仮)――改めヴォルフガング。


「ああっ、不躾な視線になっていたならば申し訳ない。

 俺が住んでいた所は田舎で、獣人を見たのが生まれて始めてだったんだ。

 悪気は無かったんだ。

 許してほしい」


日本で住んでいた所は、十分に田舎であるし、獣人を始めて見たというのも嘘ではない。


俺の話を聞くと、2人は納得したような顔をしている。


「どうりで……

 人族は我等を見下す傾向があるのに、アトゥァル殿にはその感じが無いので不思議に思っていた。

 そうか、獣人に会ったのは始めてであったか」


えっ!

そうなの。

そっか、いつも不遜な奴等が、対等な感じで話しかければ、何か裏があると思い警戒するよな。

俺だって、そうだ。


いつも、俺を呼び捨てにする糞先輩が、

「アタルくぅ~ん」

などと優しげに話しかけてくる時は、自分の失敗の尻拭いを俺に押し付ける時だったしな。

なんて、俺が昔を思い出して不機嫌になっていると…


「それで……アトゥァル殿。

 薬の代金なのだが……」


「ああっ、それならいらないよ!」


ヴォルフガングの言葉を遮るように言う。


「いや、そういう訳には……」


「フォウテイルに飲ませたのは、ザッソウとカーク草を混ぜただけだ。

 そして、アンタに飲ませたのは薬というのもおこがましい代物シロモノだ。

 そんな物でお金を頂くなんてとんでもない」


「ですが……」


「そうだな、どうしてもと言うなら、近くの村まで俺を案内してくれ。

 その方が俺も助かる。

 うん、そっちで頼む」


ヴォルフガングはまだ何か言いたそうだったが、俺が折れないと悟ったらしく、頷いた。


「アトゥァル殿、ここから一番近くの人族の村となると……

 アトゥァル殿が歩いてきた方角に――人族の歩く速さならば………

 3~4日程歩かねば辿り着けないが、それでよろしいか?」


えっ、俺、全く逆方向に進んでいた?

やっぱり神様の言う通りにするべきだった?

いや、それじゃアンタ辿り着けないじゃないの!

情けなくも、少しパニクる俺。


「もしアトゥァル殿が獣人の村でも良いというのならば、この先1時間程で辿り着きますが……」


「えっ、マジで!」


「はっ?マジ?とは?」


「いや、気にしない、気にしない」


「そうですか?

 では、そちらに案内します」


「逆に、村の人達は俺――人族を嫌がらないかな?」


「うむ。

 一部反発しそうな者どもがいるかもしれませぬが……

 我等の恩人であると伝えれば………

 それに、薬師もいないような村ですので、アトゥァル殿ほどの薬草の知識がある方ならば大歓迎なのではと」


あっ、やっぱり人族嫌いな方々がいらっしゃるのね。

でもって、俺の知識ではなく電子辞書(センセイ)の知識であるから、少し面映おもはゆい。


「じゃあ、本当に(・・・)薬の効果が出てきたら、出発しようか!」


えっ!

と驚いた表情の2人。


1人は、薬が効いて楽になっていたのではなかったの?という驚き。

もう1人は、嘘がバレていたのか、という驚き。


「ヴォル!

 楽になったんじゃなかったの?!」


「い、いや、何だ、その…、薬を飲んだ安心感で楽になったのは嘘ではないぞ!」


またもや言い合いになりそうだったので、また口を挟むことにする。


「そろそろ、本当に薬の効果がでてくる筈だ。

 どうだ、ヴォルフガング?」


「うむ、どうであ……

 何だ、これは、嘘の様に痛みが……

 あんなに激しかった痛みが……」


痛みがひいた――正確には麻痺しているだけだが……事に呆然とするヴォルフガング。

まだ疑わしそうな目で見ている、フォウテイル。

ちょっとしたアイデアを思いつた俺は、フォウテイルに耳打ちする。

決して獣耳を間近に見たかった、などという邪な気持ちは全く――少ししか――無い。


フォウテイルは少し躊躇したが、本当に薬が効いたか確認する為だからと後押しする俺。

尚もどうするか迷っているようなので、嘘をついた前科があるからと更に背中を押す俺。

いわゆる悪魔の囁きって奴だ……って違うな。


どうするか少し悩んでいたが、結局実行することに決めたらしい。

大きく手を振り上げて、ピッチャー第1球投げ……じゃなくて、

「ヴォルの嘘つき!」

と叫んで、ヴォルフガングに平手打ちをかます。


なかなかの一撃だ!

俺と一緒に世界を………じゃなくて。

あれなら、かなり痛い筈―――普通ならばな。


ビックリするヴォルフガング。

突然ビンタされた事に対する驚きか?

強烈な一撃をくらった筈なのに痛みが無いからか?

あるいはその両方か?


「よかった、今度は本当なんだね。

 叩いてゴメンネ、ヴォル。

 でも、こうしないと本当に薬が効いているのか?

 それとも我慢しているだけなのか?

 判らなかったから……

 ヴォルの事は心から信頼しているけど、ヴォルってばいつも自分の事は後回しだから…

 本当にごめんなさい」


と言うや否や、ヴォルフガングに抱きついて泣き出してしまった。


いたたまれなくなった俺は、


「すまない。

 本当に薬が効いていることを確認させて安心させたかったんだが………」


「いや、かまわぬ。

 ちょっと驚きはしたが、これでフォウが安心できるなら是非も無い」


「そう言って貰えると助かる。

 だが、あくまで一時的に痛みを感じなくなっているだけだ。

 決して治った訳ではない」


「うむ、承知している。

 そして、この病の治療のすべが無い事も………

 あと2日か…………」


……………………………

……………………………

互いに無言。

フォウテイルの泣き声だけが………と思ったら、いつの間にか寝息に変わっている。

どうやら、泣き疲れて寝てしまったか?

あるいは、薬が効いてきているのかもしれない。


「眠ってしまったようだ。

 無理もない。

 ここの所、熱やら咳やらでロクに寝ていないようだったからな…

 アトゥァル殿、改めてお礼を言わせて欲しい」


「やめてくれ!

 あんたの病をどうすることもできない俺なんかに!」


「そう自分を卑下するものではない。

 我も昔の仲間に何もしてやれなかった。

 アトゥァル殿は、この激痛を一時的とはいえ取り除いてくれた。

 それだけでも、ありがたい。

 そして、何よりこのフォウの病は治るのだろう。

 我にとっては、それが何より嬉しいのだ」


「ヴォルフガング………」


「1人の未来ある幼い命を救うことができたのだ。

 それ以上を望むのは、強欲というものであろう」


「生き物が生き続けようとするのは、欲望ではなく本能だ!

 あんたが生きようと思うことは強欲なんかじゃない!

 ………まあ、あんたを救いたいと望んでいる俺は強欲なのかもしれない。

 だが、この程度の強欲の何が悪い!

 人の命を救う事が強欲であるというならば、俺は強欲でかまわない!」


「………そうか、ならば我も本能に従って、死ぬまで精一杯生きることにしよう。

 さて、流石にそろそろ出発しないと、村に着く前に暗くなってしまう」


「そうか、でも折角寝ているのに、起こしてしまうのも可愛そうだな」


「な~に、起こすこともなかろう。

 我が背負っていけばいいだけだ。

 すまんが、背負うのを手伝って貰えぬか?」


「そんなのは、お安い御用だ。

 むしろ、アンタが大丈夫か?

 痛っ!!」


そう応えて立ち上がろうとした時に、ポケットからチクッとした痛みがした。


子供フォウ一人を背負うくらい大丈夫であるが………

 むしろ、アトゥァル殿の方こそ大丈夫か?

 まさか、我の病が感染うつってしまったのだろうか?」


「いや、それはない。

 五日殺しは感染しないよ。

 ってそうじゃなくて………

 そうだよ!

 俺には仙人掌(これ)があったじゃないか!

 これを使えば……きっと……

 あれっ、でも…、なら…、何で…」


「どうしたのだ、アトゥァル殿!

 何か問題でも?」


「いや、大丈夫だ。

 だが、すまん。

 出発はあと5分程待ってもらえるだろうか?

 緊急に検討しなければならない件ができたので!」


「うむ、よく判らんが、あと5分待てば良いのだな。

 了承した」


やや怪訝そうな表情――っていっても狼の顔だからよく判っていないが、仕草かな?――を浮かべるが、

俺の言うことに従ってくれた。


だが、その時の俺は、そんな事に構っている暇はなかった。

緊急に調べねばならない事があったのだから……


あのサボテンの存在をすっかり忘れていた。

あれが、あればヴォルフガングの五日殺しも治せる筈。

やや、言い訳になってしまうが、サボテンを使うことを思いつかなかった理由は、電子辞書(センセイ)

『不治の病』という部分だ。

バンノウサボテンの存在を知らないのであれば、不治の病と記されていても納得できる。

だが、そもそもこのサボテンの存在は電子辞書(センセイ)から得た知識だ。

電子辞書(センセイ)が知らない筈は無い。

であるのに、不治の病としているのは……サボテンが効果が無いから………


やはり、このサボテンでもヴォルフガングを救う事はできないのか?


だが、俺はもう一点、気になっていることがある。

『あらゆる病気を治すと言われている。 

 使用して、過去に治せなかった病は無い。』

という部分だ。


何故、「あらゆる病気を治す」と表記しないのか?

また、「使用して」とあること。

それらから俺が導き出した結論は、全ての病気に使用していないからこの言い回しなんだろうということだ!


手に入れる事が非常に稀で、とんでもない高値になるサボテンだ。

他の薬で治る病気などには決して使わないだろう。

つまり、その類の病にも効くと思われるが、試した者はいない。

そりゃ、そうだ。

胃腸薬を飲めば治るような病に、こんな貴重なモン使う奴がいたら一度会ってみたいぜ。

それ以降は、一切関わりあいたくないけどな。


そして「五日殺し」にも、まだ使われた事がないのではないかと考えたのだ。

そう思い電子辞書(センセイ)を使って、過去にサボテンが治した病を調べてみる。


…………………………


やはりそうだ!

サボテンが治した病の一覧に「五日殺し」は載っていない。

そして、サボテンが治した病の幾つかを見てみるが、それらには「不治の病」と表記されていなかった。

中には「以前は不治の病とされていたが、万華応能仙人掌により治癒した」的な表記まであった。

これで、「五日殺し」にサボテンは使用されていない事は確定でいいだろう。


考えてみれば、そうかもしれない。

他の病の様に、猶予があるならともかく、発病して5日以内に死んでしまうのだ。

その間に、貴重で大変高価な薬を手にするなど、どんだけ運が良いんだって話だよ!


と判れば、あとはこのサボテンをヴォルフガングに使うだけだ。

効かない可能性も無い訳ではないが、恐らく効いてくれるだろう。

何にせよ、使ってみなければ効果が判らないのだから。

選択肢は「使う」の一択のみだ!


「なぁ、ヴォルフガング。

 こいつを使ってみないか?」


「何だそれは?」


「そっか、流石に見たことはないか。

 非常に珍しい物らしいしな。

 これは、バンノウサボテンだ。

 これなら、アンタの病を治せるかもしれない」


「そうか、バンノウサ………

 バンノウサボテンだってぇ~!!!!!!!!」


「ば、馬鹿!

 フォウテイルが起きちゃうだろう!

 何て声をだすんだ!

 まったく…」


「いや、いや、確かに大声を出したのは我が悪かった。

 すまない。

 だが、いきなりそんな「もの凄い物」を出すアトゥァル殿にも問題があると思うが」


「問題ない、問題ない、無問題モーマンタイだ!

 じゃあ、さっそく使ってみてくれ。

 あっ、使い方は判るか?」


「うむ、一応、噂程度であれば、使い方は聞き及んでいるが………

 いや、そうではない!!」


「何~だ、本当は知らないのかぁ~?

 いいか、まず両手の親指をサボテンの棘に………


「そうではない!!

 と言っておるだろうが!!!

 お主、このサボテンがいったい幾らするか知っておるのか?」


俺が丁寧に使い方を説明しようとするのを遮って、ヴォルフガングが叫ぶ。

さっきの件で学習したのか、フォウテイルが起きないように絶妙な声量で叫んでいるあたり、結構器用だな。


「そんな無粋な質問するなよ~

 いきじゃないぜっ!」


「イキ?

 とかそんな問題ではなくて、そのサボテンは白金貨で…


「ちょ~っとばかり、値は張るようだが………

 人、一人の命よりは、はるかに安い!!」


さっきのお返しとばかりに、俺が言葉をかぶせる。


「……アトゥァル殿……」


「なぁ、詳しいことは聞いていないから判らんが、

 病気の子供を連れて、村を出るなんて余程の事だろう。

 もし、アンタが死んじまったら、この子――フォウテイルはどうなっちまうんだ?

 1人で生きていけるのか?

 いいか、これはアンタの命だけじゃないんだ!

 この子の命も救えるんだよ!

 たった1つのサボテンで2人もの命を救えるんだ!

 ここで使わずに、いつ使うんだ!」


「……アトゥァル殿……かたじけない……」


やっと使う気になってくれたよ。

やっぱり、フォウテイルの事を持ち出したのが良かったかな?


あ~あ、柄にも無く熱くなっちゃったよ!

これで、万が一効果がなかったりしたら、俺は悶死確定だな。

第2の人生、1日で終わりかよ~

早過ぎだろぉ~

って、大丈夫だよね?電子辞書(センセイ)


『五日殺し 通称 同じ 最初の激痛から5日

 以内に死ぬことが名前の由来 以前は不治の

 病とされていたが、万華応能仙人掌により↓』


 治癒が確認された。原因は不明だが、他人に

 感染した事は無い。遺伝とも関係が見られず

 前兆が無いため、激痛が起きる前に発↑ ↓』


良し!良し!良し!

良かったぁ~!!


これで俺が悶死することも無しだ!

俺の第2の人生、まだ続けられそうだ。


あれっ、でもこれで一攫千金、金満チートは無しかぁ~

何でだろう?

全然悔しくないな。

むしろ、清々しくすらあるよ。


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