第5話 電子辞書って何?
町か村、最悪安全な野宿場所にたどり付かなければ、マジでヤバイ。
なので、移動しながら考えることにする。
まず、第一に考えなければいけないのが……お金だ。
今の俺は無一文だからな。
とりあえず、能力のおかげでしばらくは飢える心配はない。
だが、仮に町や村に辿り着けたとしても、金が無ければ泊まる事もできない。
もしかしたら親切な人が泊めてくれるかもしれないが、そんな期待はしない方がいいだろう。
自分だったら、見知らぬ他人をいきなり家に泊めたりは、よほどの理由がなければしないだろう。
相手が未成年ならば、放り出してなにかあったらと思うと、1日ぐらいなら泊めるかもしれない。
だが、この世界では15歳で成人らしいので、俺はすでに未成年ではない。
金さえあれば、宿に泊まる事ができる。
そう、金が有れば解決するのである。
宿があればな、って突っ込みはとりあえず無視します。
キッパリ。
では、どうやって金を手に入れるか?
竹やぶとかに1億円落ちていたりすればなぁ~………
無いよ!
とりあえず、お金を拾うとかは無いから!
何かを売って金を手に入れるのが一番現実的だろうか?
だが、問題は………売るものが無い。
缶詰の空缶とか、ペットボトルとかが売れれば、結構な値で売れそうだが、この世界の神に釘を刺されている。
流石に、神の警告に逆らうのは最終手段だな。
後は、今着ている服とハンカチか?
これは、能力で買った物ではないからセーフだろうか?
何かグレーゾーンな気がする。
そもそも、ハンカチはともかく、服を売ってしまったら着る物がなくなってしまう。
これもダメだな。
となると、ファンタジーものの定番。
初心者冒険者御用達、薬草採取だ!
……………薬草なんて知らねぇ~よ!
元いた世界でも知らないのに、この世界の薬草なんか判るかぁ~!!
せめて薬草大全とかの本とかあればなぁ~
などと思っていると、
『電子辞書を起動します
か?』
の文字が現れた。
な、何だこれっ!!!
目の前にウインドウが浮かん――――いや、ちょっと違うな。
どちらかというと、かけているメガネのレンズに文字が表示されている感じ、というのが一番近いか?
もっとも、今メガネかけていないんだけどね。
だからこそ、余計変な感じなんだけどな。
いや、今はそんな事を気にしている場合ではない。
とにかく、藁にもすがる思いで起動すると念じる。
そうすると、
『電子辞書を起動します
か?』
の文字が消え、
『フリーワード検索
言語
図鑑 ↓ 』
と表示される。
えっ!
数少なっ!!
と思ったら、
『医学 ↑
魔法
動物 ↓ 』
と表示が切り替わる。
どうやら、3行しか表示できないようだ。
横の矢印は、まだ続きがある時に表示されるようだ。
どんな項目があるのか興味は尽きないが、今はそれを調べている場合ではない。
フリーワード検索を選択――ってどうやって選択するんだ?
と考えていると、
『入力して下さい
』
と表示される。
そうか基本思い浮かべればいいのか。
そうであれば、この入力も思い浮かべればいいのだろう。
『入力して下さい
薬草 』
よーし、よし。
入力できた。
あとは実行と思い浮かべればいいのか?
『検索結果
植物図鑑
薬大全 ↓ 』
う~ん、もうちょっと見つけやすそうなものがいいなぁ
『家庭の医学 ↑
ポーションの作り方
身近な薬草 ↓ 』
おっ!
丁度よさげなのがあるじゃん。
この「身近な薬草」でいいんじゃねぇ。
『アオミドリゴケ
アサツミ草
アンミン草 ↓ 』
あっちゃぁ~、薬草の名前が表示されるのか。
草の名前を出されても、俺にはどんな形状の草なのか判らないよ。
せめて、写真でも表示されれば、その草を探せるのに………
『写真を表示しますか?
※MP消費増えます。
注意して下さい 』
ま、マジで!!
写真表示できるの?
それなら、メッチャ助か………MP消費?
何だMPって?
しかも消費が増えるって事は、今現在も消費されているって事?
まずは、MPが何なのかだ。
1.MP ミリタリーポリス――憲兵……は関係ないな。
2.MP メガピクセル――100万ピクセル……写真だけに画素数。
一見、関係ありそうだけど消費しちゃ~ダメだよな。
3.MP マジックポイント、マジックパワー、マナポイント――呼び方は色々あるが、
ファンタジーものによくある、魔法を使うための魔力量。
の3つしか思い浮かばない。
やっぱり、世界観を考えると……3だろうなぁ。
やっべぇ~、俺ってば、魔法使えちゃう?
おらぁ、ワクワクしてきたぞ!!
あれっ、表示が変わっている。
『MP:所謂、精神力の
こと。使うと疲労し、
使い続けると気絶す↓』
って、そうか!
俺が今使っているのって、電子辞書だった。
そうだよね、わからない言葉を調べる事ができるんだから、使えって事だ。
そして、下矢印があるから、まだ説明が続くのかな?
『る。休憩すると回復。
魔力とは全く関係ない
↑』
…………最後の、一文。
わざわざ、止めを刺さなくてもいいじゃないか。
しかも「魔力とは関係ない」で済むのに、「全く」を入れている所に若干の悪意を感じる。
いや、流石にそれは、深読みしすぎか?
でも、地球の神のする事だからなぁ~……
いや、悪い方に考えてはダメだ。
プラス思考、プラス思考。
そうだよ、この電子辞書を使うとMPを消費する事が判っただけでも良い事じゃないか。
そうなると、今まで無視してきた右上に表示されている
『■■■■■■■■■■』
これって、MPの残量なのかな?
電池の残量的な……
このまま使い続けると減っていくみたいな~
その確認にも丁度良い。
よし、写真を表示するぞ!
おおっ!
表示された!!
お見せできないのが残念だ。
想像していたものより、なかなか綺麗な画像だ。
『アオミドリゴケ
日の当たらない、湿っ
た場所を好む。 ↓』
なるほどぉ~、隣に解説が表示されるわけだ。
便利っちゃ~、便利なんだけど、これだと俺の目的には違うんだよなぁ~
どうせなら、実際に見た草を参照して、その草の名前・効能などを表示してくれるといいのに。
と考えていたからなのか、
『カスタマイズを行いま
すか? ※MPを消費
します。 』
えっ、自分で思っておいて何だけど…できるの?
どれどれ、おっ、凄ぇ!
かなり細かく設定できるぞ。
これをこうして、あれはあーやって、こっちはこんな感じで……
これはいらないから省いて、ここは同時に表示できるようにして…
…………………………………………
…………………………………………
10分後
…………………………………………
…………………………………………
20分後
…………………………………………
…………………………………………
30分後
…………………………………………
よし、とりあえずこれでいいだろう。
いやぁ~楽しかった。
こういうの大好物です。
では、設定を保存して、再起動。
『□□□■■■■■■■』
やはり、MPの残量表示でよかったみたいだ。
MPが減っている。
どの位まで使っても大丈夫なのだろうか?
あまり使いすぎるとダメだろうが、あと■4つぐらいなら大丈夫か?
危険かな?
でも、この機能を使わないと薬草の採取など無理だし……
採取できないとお金が手に入らないし……
よし、半分まで。
あと2個■が□に変わったら、一旦使用を止めることにする。
本音を言えば、カスタマイズした使い勝手を試したかった。
その気持ちがかなり強かったことは否定できない。
でも、この判断をしていなかったら、俺の第2の人生もかなり違うものになっていただろう。
結果的にこの選択は正しかった………な~んて後で言えたらカッコイイんだけどね。
冗談でそんな事を考えていた。
それがフラグだと知らずに………
さて、ちゃんと機能するかなぁ~
近くに生えている草を見てみる。
…………
反応がない。
この草は、条件に合致しないようだ。
また別の草を見てみる。
『ザッケルン草 通称ザッソウ
世界中に自生。
ポーション・傷薬の原料になる。 ↓ 』
よっしゃぁ~!
うまくいったぁ~!!
俺がカスタマイズした内容は、最初に植物のジャンルを設定する。
例えば「キノコ」と設定すれば、キノコのみの検索を行う。
今回は「薬草」と設定………しようとしたのだが、ちょっと思いついた事があったので変更した。
「換金できる植物」と。
ちょっと条件設定としてはどうかと思ったが、うまくいったようだ。
そして、写真は表示させずに、実物と写真を比較し同一と認められる時に説明のみを表示させる。
こうすると、写真を表示しないので、MP消費が増えない………といいいなぁと思い設定。
残量表示が『□□□■■■■■■■』のままなので、効果があるのかもしれないが、
起動してそんなに時間が経過していないので、まだ結果は保留だな。
あとは、地味だけど、1行に表示できる文字数を増やした。
これで、一度に見る事ができる情報量が増えた。
本当は行数も増やしたかったけれど、そっちはちょっと難しいようなので今回は諦めた。
でも、いつかは増やしてやるぜ!
よし、これで歩きながら、目ぼしい草などを採取しつつ進める。
この時は、興奮していて全く疑問に思わなかった。
後で冷静になって思った。
これって、既に「電子辞書」の範疇を超えているんじゃねって。
まあ、便利だからいっか。