第1話 テンプレって何?
昔から、よく当たっていたと思う。
10円のガム。
ガソガソ君のアイス。
授業中、先生に指名される。
お年玉つき年賀状。
鳥の糞。
ホームランボールが頭に命中。
コンサートのチケット。
懸賞。
生牡蠣。
テストのヤマ。
裁判員。
宝くじ(残念ながら1等や前後賞ではない。でも100万円が3回は中々だと思う)
中には当たって欲しくないものも多々あるが、
よくよく当たる人生…………だった。
そう、現在進行形ではなく、
過去形だ。
昔から、冗談交じりではよく言っていた。
俺が死ぬ時は、何らかの乗り物に当たって死ぬんだ!
ってね。
まさか、本当になるなんて…
しかも、このタイミングかよ!
せっかく、起業の目処がたち、
やっと独立できると思った、このタイミングで!
少し時間を遡ってみよう。
その日俺は、事務所として借りた部屋に荷物を運び込む途中だった。
机や椅子などは、部屋に備え付けの物を使えは良かったので、
ノートパソコンや、事務用品など細々したものをスーツケースに詰め込み、
2~3日は泊り込むつもりだったので、洗面用具や着替えの入ったボストンバッグを持ち、
喜び勇んで、『俺の』事務所に向っていた。
横断歩道を渡っている時、俺の携帯が鳴る。
直訳すると、神父となるテーマ曲が流れる。
錫木先輩からだ、これは出ないと後がうるさいな。
ここで、電話して車に轢かれると想像した?
さすがに、これだけ当たる人生を送ってきたので、その辺は注意している。
横断歩道を渡りきった先にコンビニがあるので、
急いでそこに向かい、車が入ってこれないポジションで、電話に出る。
いつもの様に無駄話が多かったので、内容を要約すると、
必要な書類が提出されていないので、急いで送れという内容であった。
なぜ、コレだけの事を伝えるだけなのに、20分も話さなければならないのだろう?
幸い、ファクシミリで送れば大丈夫らしいので、目の前のコンビニで送ってしまうことにする。
万が一、送るのを忘れたりしたら大変だからな。
店内に入り、ちょっとした買い物をすませて、マルチコピー機の前に行き、
取り出した書類をセットした時だった。
突然、目の前のガラスをブチ破り、軽トラが突っ込んできた!
よける暇もなかった。
気がついた時には死んでいた。
あれ、何か変な文だな。
死んでいるのだから、気がつくことはない。
気がついたのなら、生きている?
いかんな、日頃から
「いや~、気がついたら、寝ちゃっててさぁ~」
などと言う輩に
「気がついたのなら、起きているのだろう。
正確に表現するなら、気がついたら、朝になっていて、
どうやら途中で寝てしまったようなのだ。
とでも言うべきだろう!」
などと言っていた俺が、こんな表現を使ってしまうとは……
どうやら、自分では冷静なつもりでいたのだが、やはり動揺していたらしい。
何せ、死ぬのは初めてなのだ、しょうがないだろう。
「いや、いや、オタクの世界で、死ぬのが初めてじゃない人はいないからね。
蘇生の魔法とか無いンだから」
唐突に、俺の後ろから声がかけられる。
あれっ、俺以外に誰かいたのか?
さっきは誰もいなかったと思うのだが……
やはり、かなり動揺しているようだ。
「いや、いや、かなり落ち着いている方だと思うよ、オタク。
ほとんどの人は、自分が死んだ事を理解できないし、
この、周りに何もない環境にパニックになる人も多いね」
そうなのか、そう言われると、
結構冷静に対処していたな、やるじゃん俺!
「自画自賛も構わンが、オタクの場合、
相当苦しンでから死んだンで、
その辺の記憶を消して、
死んだ事だけを記憶に残したからかもね」
えっ、俺ってばそんなに苦しんで死んだのか?
え~と、う~ん、………駄目だ、思いだせん!
「え~とねぇ、突っ込んできた軽トラ?
それとコピー機?とアイスが入っている冷凍庫?
それらの下敷きになって、身体の色々な所が、
潰れているものの、即死する程ではなくて、生き延びていた。
生存者がいるから救助しようとするものの、
オタクの上に載っている物が重くてどかせなくって、
いろいろと試行錯誤した結果、やっとどかした時には、
オタクは死んでいた、みたいなぁ」
ま、マジかよ。
それって、死ぬほど痛かったんじゃぁ……
「死ぬほど痛いっていうか、実際死んじゃったンだけどね。
オタク。
何なら、その記憶を戻そうか?」
い、いや、いい。
いらない。
そんな記憶、燃えないゴミの日にでも出しちゃって。
「くくっ、じゃあ、そうさせて貰うよ。
リサイクルも難しそうだしね。
いやぁ~、オタク面白いね」
いやぁ~それ程でも……あるかもとか思っちゃったりなんて……
あれっ!
俺さっきから、一言も喋ってないのに何でコミュニケーションとれてるの!
おかしくない!
っていうか、そもそも、この人(?)誰?
って、そうじゃなくて、人(?)に名前を尋ねる時は、まず自分からだ。
よし、まずは自己紹介だ。
「いや、大丈夫だよ。
オタクの事は知っているよ。
そうだね、ますは事故照会からだ。
名前は田中十一朗 86才 無職」
あれ、声の感じからはもっと若い人(?)だと思ったら、結構いっているんだな。
でも、何か自己紹介の言い方がおかしかったような……
「原因は、ブレーキとアクセルの踏み間違いだね。
最近増えているようだね。
田中さんの子供達は早く免許を返納するように言っていたンだけどね。
ワシは大丈夫と頑なに拒否していたンだよ。
さすがに、この事故で免許を返納して、2度と運転はしないと誓ったようだよ」
いや、それ遅すぎ!
でも、そうか、軽トラの運転手は生きていたのか……良かった…のかな?
まあ、保険は入っているだろうから、金銭的な事は大丈夫かな。
しかし、この辺田舎だから、車なしでの生活不便だろうなぁ…
って、あんたが田中さんじゃなかったんかい!
「いやぁ、オタク、ナイス突っ込み!
ここで失うには勿体無い逸材…かも?
ちなみに、田中さんは奇跡的に、軽症ですんだよ」
そっか、大きな怪我とかしなくて良かったよ。
これからの人生がどれだけあるかは知らないが、俺の分も長生きしてくれよ。
「ああ、それなら大丈夫。
予定が変わって、彼は111歳で大往生を遂げるよ。
本来のオタクの残り寿命の50年の半分の25年をもらってね」
へっ!
それって、どういうこと?
「本来であれば、田中さんはこの事故で死ぬはずだった。
このコンビニで事故を起こし、誰かに怪我を負わせることもなく、
86年の人生の幕を降ろす……はずだった。
本当なら、このコンビニの事故に巻き込まれる人はいなかった。
そう、死ぬのはたった一人と決まっていた。
なのに、オタクが先にここで死ぬことになってしまった。
ここで二人目が死んでしまっては、色々と困った事になるンだよね。
そんな訳で、急遽田中さんは死なない事になって、
オタクの残り寿命の半分を貰う事になったって事だね」
ちょっ、ちょっと、待てよ!
それなら、予定通り田中さんが亡くなって、俺が奇跡的に助かるでもいいじゃないか?
むしろ、そうなるべきだろう?
「って言っても、あの時あの場所で一人が死ぬのは決まっていたンだよ。
そこに、オタクが田中さんよりも、先に死亡フラグを立てちゃうから……
そもそも、あの場所には誰もいない筈だったのに、
何で、オタクあそこに居たの?
え~と、ふむ、ふむ、ああっ、あ~、あれがこうなって、
それがあれに影響して、それでこうなってしまったのかぁ~
………まぁ、たまぁ~にこういう事もあるンだよ。
確率はかなり低いけど。
オタクに判り易く言うと、宝くじの1等前後賞を当てるぐらいの確率かな」
………やっぱり当たって死ぬのか。
どうせなら、宝くじの一等前後賞の方がよかったな。
「あれっ、テンプレだとここで、
ふざけるなー!!!
とか、
生き返らせろ!!
とか叫んだりして、暴れだすンじゃないの?」
どこのテンプレだよ。
まぁ、そんな気持ちも無くはないんだけど、
あんたの最後の、宝くじの例えで、何となく納得してしまったよ。
はぁ~~~ぅ。
「オタク、本~当に面白いね。
う~ん、よし。
ワンチャンあげよう」
ワンちゃん?
「そう、わんわんって、
かわいい子犬がいいかな、それてとも強いドーベルマンとかがいいかな?
って違うよ!」
遂に、一人(?)ボケツッコミまでやりだしたよ。
「それは違うよ、
オタクがボケたから、
ノリツッコミってやつだね」
あれっ
俺がボケてたの?
……ワンちゃん
……………ワンチャン、
あ~~~~!
ワンチャンスか!
「くくく。
ボケはボケでも天然ボケかい。
ウン。
オタク、やっぱりいいよ」
うわぁ~、
穴があったら入りたい。
メチャクチャ恥ずかしい。
「残念ながら、穴はないから。
あるのは、ワンチャン。
で、どうする?」
どうするも何も、
ワンチャンって何?
内容が判らないと、返事もできないよ。
「…そこは、返事もできないようじゃないのかい?」
…………。
……………………。
………………………………。
「それで、ワンチャンの内容だけど」
無かった事にしやがった~!!!
「ヲヒ、ヲヒ、
オタクが内容を知りたいというから、説明するのに、
聞く気がないのかい?」
そりゃあ、
聞く?
聞かない?
と問われれば、聞くしかない。
「ぷっふぅ~。
ぶははは。
そう、か、
そう返してくるか。
いやぁ、ホント、オタク面白いよ
あれっ、
ひょっとして、オタクはラッパーか!
と突っ込むところだったのかな?」
ん?
ラッパー?
何の事?
「くっくっくっ。
これまた、天然かい!
決めた!
オタクに選択肢はあげない。
強制にする」
あれっ、俺ってばこの人(?)を怒らせちゃった?
「大丈夫。
怒ってないよ。
むしろ、逆。
気に入ったよ」
じゃあ、何で選択肢を取り除く?
しかも強制。
「強制にする事によって、
少しばかりサポートができるようになるンだよ」
はぁ、サポート?
そもそも、俺どうなるの?
「アレエ、モウ、コンナ、ジカンダ。
ゴメンネ、ジカンガ、ナイカラ、
カンケツニ。
オタクはこれから、別世界で人生をやり直す事になる。
まあ、オタクがよく読んだネット小説みたいなもンだ。
チートは無いけどね。
ああ、でも強制にしたので、
会話、読み書きはできるようになっているから、
ある意味それはチートだね。
うわぁ、オタク、ラッキー!
まあ、それ以外は死亡直前のオタクの能力値のままだから。
変な期待はしちゃ駄目だよ。
アア、モウ、ホントウニ、ジカンガ……」
突然、片言になったと思ったら、
(やたらと早口ではあるが)元のように流暢に喋りだし、
説明をしたと思ったら、また片言に戻り、
何も喋らなくなった。
あれっ、気配も消えているな。
それに、俺のいし・き・・も………………