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名の知らぬ色

作者: 赤月

 夢を歌おう。明日を嘆こう。どうせ今日はもうすぐ終わる。

 燃え尽きそうな赤に憎しみを。全てを飲み込みそうな藍に寂しさを。

 終りかけの世界にありとあらゆる憎悪を語るのだ。爽やかな青は何も知らない。何も知ろうとしない。柔らかな光を浴びせかけ、無邪気な無表情で陰陽を生み出す。相手の影を無理やり知らされる。引きつった笑みを見た。歪んだ目で刺された。苛々した気分で退屈な時間を過ごした。

 薄暗い赤は全てを遠ざけてくれる。無条件になんでも突っぱねる。僕の怒りも懇願も、全部無視する。身勝手に世界を否定し、一人で勝手にどっかへ去っていく。そんな赤が、愛しくも腹立たしい。

 なにもかも蹴り飛ばし、心の闇を知りながら、憂鬱な藍に呑まれてゆく。

 今日も一人、夕暮れの道を歩いた。

(名の知らぬ色 夕焼けの赤―)


 朧月が波に揺蕩っている。その仄かな黄色と水のさざめきが少し僕のこころを揺らした。ひんやりとした風が僕をそっと放っておいてくれる。防波堤の周りには誰もいない。

 昼間は暑くて敵わない。あちこちから熱風を吹き付けられ倒れそうになる。はるか彼方の太陽から、地面のアスファルトから、室外機から、人の群れから。暑さに弱い僕は毎日吐きそうになる。頭ものぼせてしまう。視線で焼かれてしまう。

 潮風の香りが心地よい波音と共にやってきた。顔をあげ遠く地平線を眺めて目を細める。遠くを見れるのがなんだか素敵に感じた。間に障害物が一つもない。

 手持ち無沙汰の両手で靴紐をいじり、ぼんやり頭で知り合いとの会話を再生した。ずっと考えていた相手の意図は浮かばなかった。何かが降り積もっていく。

 波が浜辺にあった砂、貝をさらっていく。後には慣らされた砂地が残った。月明かりが砂つぶをキラキラ光らせる。ひとつひとつさりげなく個性を表しているようで、魅入られた。

 膝に顔を埋め、ただぼぅっと耳で目の前に広がる海を感じていた。

 涼しい夏の夜のこと。

(名の知らぬ色 夜の海の青―)


 僕の理想の部屋を紹介しよう。

まず、床に壁、天井、日常で触れるもの全て質のいい天然素材を使う。これが最低条件だね。生き物は常に自然の中にいるのが理さ。安物の加工品なんて論外だ。薬品臭い塗料の匂いに頭がくらくらする。使うのは最高級の木だ。

僕は明るい賑やかな部屋よりもふわふわしてない落ち着いた部屋のが好きなので、暗い茶色の木材を中心に配置していく。といっても真っ黒にすると重すぎるため壁と天井はクリーム色に、床を濃い茶色のフローリングにする。黒と白のコントラストが映えるね。あぁまぁまぁ大きめの出窓が一つ。洒落た形のね。カーテンはどうしようかな、無地の床に合わせた色のがいいかな。

そんな八畳ほどの部屋にまずベッド。窓がある方と反対側の壁際に置いて、その横のベッドサイドテーブルにはホテルとかによく置いている丸い傘の間接照明。オレンジ色で仄かに照らすやつね。本が好きだから寝る前に読む本と目覚まし時計も欠かせないね。ベッドの横、部屋奥の壁際に本棚、結構な量が入るのがぐっど。本好きには必須家具だ。部屋の中心には丸いカーペットを敷き、四角い木のダークカラーのテーブル、同じ材質の椅子。椅子はクッションが付いてて肘掛、背中を伸ばせたら最高だね。テーブルの上にはおそらく僕の仕事道具であるペンと書類が散らばってるな。ドアの位置に立った時にあまり見えない左手側にクローゼット等の生活感のあるアイテムを置いたら、ベッドサイドに置いてるような間接照明をテーブルやら家具の横やらいくつか置き、深いオレンジの照明を壁にあてたらムーディな部屋の出来上がり。

夜遅く、仕事から帰ったら自室のドアを開け、全ての間接照明をつける。手前から順につけるとセンスのいい落ち着く部屋が徐々に浮かんでくる。どかっと椅子に座って持って帰ってきた仕事をあらかた片付けたら音楽プレイヤーで曲を流し、好きな本の世界に浸るのだ。外で荒波に揉まれ、疲れ果てた身体が、ゆっくりじんわりほぐされていく。上司にきついことを言われた、同僚に出し抜かれた。そんなことは一切関係ない、そこでは僕のことを誰も否定しない、黙って受け入れてくれる。

暖かく包み込んでくれる部屋。それが理想。

(名の知らぬ色 暖かい色―)




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