86/87
ただの初恋の話
バイトの帰り道、薄暗くなった街を歩いていた時、憧れのあの人を見つけた。
あの人は、長めの髪をざっくりと纏め、パーカーの紐をいじりながら煙を吐いていた。
彼女の、街灯に照らされる姿が美しくて見惚れていると、火を消し、小さな声で私に「好きにしていいよ」と伝えた。
それから、関係が始まった。
彼女は、まるで、蛇のような、そんな女だった。
どこか私に似ているような、そんな存在だった。
彼女を見ていると、胸の奥から苛立ちに似た熱い感情がふつふつと溢れるのを感じながらも、彼女特有の下手な笑顔に惹かれていた自分を否定しなかったんだ。
出来なかったんだ。
愛していたから。
今思えば、初恋だったのかもしれない。
これが、私の人生において、初めての恋だったのかもしれない。




