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沢田
死にたいと思った。
そう思ったのはアコースティックギターの音がやけに喧しくて。
流れている歌声が汚く聴こえた時だった。
そういう風に聴いてしまう僕の、私の心というか、俺の耳というか、まぁ、全てが汚いんだろうけど。
どうせ金を稼ぐ為に作ったんだろうとか、思ってしまう自分が、自分の何もかもが汚くて。
指の先を水で濯いでも、二の腕に爪を立てて洗っても、痛いだけで綺麗になるわけがなくて。
今すぐに死んでしまいたかった。
洗面器に満ちた水に、頭を沈めてしまいたかった。
水が溢れる音が聞こえたのは、そのすぐ後だった。
薄い鉄の匂いがした気がする。
喉の奥が乾いて、渇いて。
酸素でも、水でもない何かを渇望している事に気付いた。
存在価値なんて大袈裟なものじゃなくて
ただ、ただ
ただ
居場所が欲しかった。
アコースティックギターの曲。
イントロがまた流れてる。
なんかリピートにしてる。
嫌いなはずなのに。
汚いはずなのに。
自分の心の汚さが
露呈するから嫌だって
思って
思ってたのに
思ってたのに
本当、綺麗な声だな。
そっか。
私達、もう話せないんだね。
2024年XX月XX日 沢田




