晶さん
晶さんと知り合ったのは、私がまだこの国に、そしてこの社会の仕組みに慣れていない時だった
周りの環境が肌に合わなくて、自分の体が怖くて不快で、いつも感じる視線が気持ち悪くて隅で震えていたのを覚えている。
年上だらけで、心の許せる相手がいない上に、体が変で怖かった。
そんなとき、晶さんに声をかけられた。
「あんた新入りやんな、名前は?」
言ってる言葉の意味が分からなかった。
殺すぞ、とかそういう嫌な事を言われてるのかと思って、それなら今すぐ死んでやるって思って刃物を握った。
「ああ、違う違う…えっと…。」
すると、刃物を持った私に怯えた晶さんが慌てながら携帯を取り出し、何か文字を打ってからそれを見せてくれた。
そこには晶さんが私に伝えたかった言葉が、韓国語で、私の分かる言葉でこう書いてあった。
「この言葉で大丈夫?」と。
何度も頷くと、嬉しそうに頷いてから、私の名前と、私の生まれた日、誕生日、年齢を聞いてくれた。
私も晶さんの持ってる携帯に話しかけて、翻訳して貰って、そうやって会話した。
楽しかった。
でもそれを見てた人達はよく思わなかったみたいで、こんな奴に近付くな、とか色んな事を言われていた。
言ってる言葉の意味は分からなかったけど、晶さんが激怒しているのを見て「この人達が言ってる言葉は悪い言葉なんだ」と理解する事は出来た。
腹が立った。
晶さんより3ヶ月くらいは早く産まれてるから、私が守らなきゃって思った。
でも晶さんはそれを拒否した。
その後で信じられない言葉を口にしたんだ
その時の私に感謝したい。
その時の私が晶さんの携帯を手に取って、マイク機能をオンにしてなかったら今頃晶さんに付いて行ってる自分が居なかったから。
マイクをオンにして、晶さんが話す文章が韓国語に翻訳されていった。
「年功序列式?性別?知らん、私がヒョンだ。」と映し出された。
その瞬間、付いて行こうと決めた。
この人の為に生きようと決めた。




