76話「사투리」
「龍馬さん、あの」
事の経緯を大体理解して、適切なアドバイスをくれている朱里に勧められ、龍馬さんと二人で話すことにした僕。
龍馬さんは振り返り、優しく微笑んでから小さくこう返事してくれた。
「どうしたの?」
周りに誰もいないことを確認してから、あの日の事を話す。
「…あの、夜の事、覚えてますか?」
龍馬さんは、少しの間黙ってからゆっくり頷いた。
「うん、覚えてるよ」
「それ…二人だけの、秘密ってことにしませんか」
そう言いながら龍馬さんの手を握ると、僕の目をじっと見つめてから
「明人君はそれでいいの?」と尋ねてくれた。
「はい、あれは…駄目な事だったから…」
「明人君は、それで、良いの?」
優しい龍馬さんの声。
少し悩んでから僕は頷いた。抱きしめてくれる龍馬さん。
「……気休めにしかならないかもしれないけど」
「はい…」
「…好き、だったよ、明人君の事」
だった、という言葉が、痛々しく、胸を、締め付けた。
僕から離れていく龍馬さんを、引き寄せて…頬に軽くキスをした。
「じゃあ、これで、全部、真っ白って…事に、しましょう」
ぐっと悲しそうな顔をしてから、もう一度、僕を抱きしめてくれる龍馬さん。
「…明人君、僕のお父さんと会いたい?」
「…いえ、もう、いいんです。」
本当に、これで。
「パラパラパラパラパラパラパラパラ」
『しつこい、今普通に用事あったのに抜け出して電話してるんだから早く要件言って』
「ありがと、あのさ、三年に上がるタイミングで…言いたくて」
『何を?』
「好きに生きろって」
『…マジか』
「嫌だった?」
『いや…なん…か、嬉しくて』
「そっか、じゃ」
『明人、あの』
「?」
『…学長賞と推薦おめでと』
「うん、ありがと」




