41話「発芽」
20XX年6月13日、月曜日。
みんなの家や学校、ファミレスに集まり勉強会をし始めてから大体4日くらいが経過した。
今日は先生に許可を取ってから、みんなで空いている教室に集まって勉強をすることになったんだ。
前よりも理解できる範囲が増えて喜んだり、朱里さんが作ってくれたミニテストを解いたりしてたらあっという間に時間が経って休憩タイムになったっけ?
休憩中にみんなと好きな漫画の話や能力の話をしていると、晶さんが突然立ち上がり「せや!!わしみんなに会わせたい子がいるんや!!!!」と言い残し、どこかへ行ってしまった。
「智明…晶さんどこ行ったと思う…?」
「わからん…まさかあいつ…帰ったとか…?」
「晶はそういう小さい嫌がらせはしないよ。」
「「「「……。」」」」
「…た、…多分ね、多分、長い事一緒に居るけど全部を理解してる訳じゃ無いから…。」
…晶さんが出ていってからもう10分は経つよ…?
もう15分の休憩時間が終わったからほんのちょっとだけ勉強進めちゃってるけど…。
晶さんが僕達に会わせたい子ってそんなに遠くに住んでる子なの?
それとも何かに手間取ってる?それとも…みんなの言う通り…帰っちゃった…?
なんてことを考えながらシャーペンをぎゅっと握りしめていると、急いだのか、肩で息をしている晶さんが現れた。
「はぁ!ご!ごめん!あのさ!思ったより手間取っちゃった!待たせてごめんな!」
…いや、この場合は「現れた」より「帰ってきた」の方がいいのかな?
「もー!遅いよ晶!で、会わせたい子って?」
立ち上がり、呼吸を整えている晶さんの背中を優しく撫でる朱里さん。
すると、晶さんが朱里さんへ向けてにっこり微笑みこう答えた。
「ごめんな…あの…ちょっと…あ、会わせたい子…めちゃくちゃ緊張してるっぽくてさ…もじもじして全然動こうとせえへんねん…。」
あ…そうなんだ…緊張しちゃったんだ…かわいい…。
どんな子なんだろ…力の話をしてた時に思い出したから、やっぱり能力関係の子なのかな?
なんて考えていると、何か連絡が来たのか、晶さんが手に持っていた携帯の画面を見てからこう言った。
「あー…ごめん、まだ緊張してるみたいやからもうちょっとだけ待ってくれる…?」
まだダメか…どんだけ緊張してんの…かわいい…。
「いいけど…僕らに会わせたい子ってどんな人なの?」
信じられないくらい早いスピードで文字を打つ晶さんにそう訪ねると、携帯の電源を切り、腕を組ながらこう答えてくれた。
「能力者なんやけどな?なかなかに特殊な力持ってて、みんなの支えになれるんじゃないかなって。」
やっぱり能力関係の子だ…でも待って?特殊な能力…?
「…あ、もういけるってメッセージ来たわ…じゃあ呼ぶからくれぐれも丁重に扱うんやで、うちの可愛い部下なんやから。」
…だめだ、滅茶苦茶に緊張してきた。
この壁挟んだとこに…もう一人能力者がいるのか…。
「……ど、どんな奴だと思う?」
「知らねえよ、男か女かも分からないし判断出来ない。」
「今握手会レベルで手汗かいてるわ。」
「ほんとだ、ベタベタしててキモいね。」
「私のちいちゃいハートがボロボロに砕け散ったよ朱里ちゃん。」
みんなも同じくらい緊張してる…いや女の子二人は平気そうだな…。
「やば、チャック開けっぱなしだった、晶見て。」
「見せんな!!」
いや緊張してんの智明と僕だけだわ…。
…ん?待って?可愛い部下って言った?
「ゴホン!!えっとな…うちが紹介したかったのは…特殊な能力を持ったうちの可愛い部下、佐江拓也こと…パラや。」
晶さんに手を引かれて現れたのは、智明がぼこぼこに殴っていた黒髪の男の子だった。
「…佐江…。」
「…佐江拓也、本名はイ・パラ…去年の冬から日本に来た…日本と韓国の混血の…人間。」
前見た時より痩せたのか、それとも殴られ腫れた顔しか覚えていないからか、前会った時よりも遥かに綺麗で、切れ長の目が印象的な美少年だな、と思った。
「韓国から来たの…?日本語上手だね。」
なんて事を考えていると、彩さんが晶さんをチラチラ見ているパラ君へこう訪ねた。
「一応、それなりには話せるつもり。」
「へぇ、すごいね…!」
「……ありがとう…。」
褒められたのが嬉しかったのかニヤニヤしているパラ君へ
「なぁ、そろそろ能力の話…。」
と言いながら晶さんが背中を軽くトントンとすると、パラ君が何回も頷き、能力のお話をし始めた。
「僕…俺?私?」
「一番言いやすいのでいいよ。」
「…うちは…。」
「あはは!うちの真似か!」
「うん…うちは…その、力が出る人が分かる。」
「これ明人知りたいんちゃう?ほら、前力に目覚めたい言うてたやろ?」
へぇ…能力が、出る人が分かるんだ。
「うちはどうやったら出るか、とか…どういう力が芽生えるかとかが…簡単なところだけだけどなんとなくは分かる。」
すごい能力だな…
「やからそれで閃いたんやけどさ?誰がどういう力を持ってるか分かるシジャクと組み合わせたらなかなか良いコンビになりそうちゃう?」
「あー…確かに…。」
あんまり会いたくはないけど…確かに、パラ君がいつ力が芽生えるかが分かって…シジャクさんがその人を見て詳しく分析したら能力者の数を把握しやすいかもしれないね。
「なぁパラ、僕の能力いつ出る?正確に分かんの?」
すると、さっきまで静かに黙り込んでいた明人君が身を乗り出し、パラ君へこう訪ねた。
「…んーと、上手く行けば…出ると思う。」
「どう上手くすればいい?」
「あ…出るのは、出るけど………あー…日本語が分からない…なんだっけ。」
「難しいって言いたい?」
「もっと…きつい言い方…。」
「なんていう単語?」
「과혹.」
「過酷?」
「それだ、なんか…過酷な…感じ。」
わ、晶さん韓国語分かるんだ…すごい…。
でも…力を目覚めさせる為には過酷な道を歩まなくちゃいけない…なんて…ちょっと可哀想だな。
「どうやったら力が芽生えやすくなる?」
「本当に詳しく…何時何分…くらいを知る為には仲良しにならなきゃいけない。」
「仲良しに?」
「そう、マブダチにならなきゃ。」
「表現がちょっと古いな…。」
「うちのせいやで。」
「そういうことあんま自分で言うなよ…分かった、パラよろしく。」
「발아.」
「え?」
「발아.」
「バラ?」
「발아.」
「パ……お前のために韓国語勉強するわ。」
「いつでも教える。」




