40話「能力とテスト」
「やからそこは分かんねんって!うちが聞いてんのはここじゃなくて!!」
「出来てねぇから教えてんだろ!?」
「分かるんやって!!今日はちょーっと調子悪いだけや!!」
…右隣で智明と晶さんが喧嘩してる…。
左隣では…。
「姉さん、分からないなら分からないって教師に聞けばいいじゃん。」
「プライドが…。」
「聞くことが留年するより恥ずかしいこと?」
明人君が彩さんにお説教してる…正論すぎて何も言えない…。
「…集中できないね…。」
「だ…だね…。」
「えーっと…り…龍馬君は知識を理解してはいるから、計算間違いさえなくせば高得点いけると思うよ…。」
そんな二組に挟まれてる僕と朱里さん…。
喧嘩の声がうるさすぎて全然集中出来ないんだけど…文句を言うわけにはいかないよね…。
いや言ったほうがいいのかな?
言った方がいいよね?だってここ僕の家だし…。
でも大きい机が無くて引っ越しの時の段ボール使わせてるしな…。
なんてうじうじ悩んでいた時、晶さんがぐっと伸びをしながらこんな事を言い出した。
「なぁ、もう2時間はやってるやん…。」
「2時間しか、ね。」
「休憩して雑談タイムしようや…質問募集するから…。」
「晶ちゃん何?その配信者みたいなワード。」
「それも弱小配信者。」
「困ったら「質問とかあります?」言うねんな、あぁいう人達。」
「配信者への偏見と悪口が止まらないね…。」
「アドバイスや。」
「厄介なファンだ。」
「こういう人ってファンチって言うんだよね。」
「俺そういう人嫌いだわ。」
「ファンチも智明の事嫌いやし!」
「は!?俺のほうが嫌いだし!!」
「張り合わないの。」
不毛な会話が始まった…こうなったら終わりだぞ…。
「ね、ねぇ…あのさ、みんなもう集中力限界でしょ?ちょっとだけ休憩した方がいいんじゃないかな?15分くらい…。」
集中力が切れたのか、妙にピリピリしているみんなにそう言ってみると、納得してくれたのか教科書を閉じた。
「確かに龍馬君の言う通りかも…頭に入らなきゃ意味ないもんね。」
さすが朱里さん…!勉強できる人の言葉は説得力あるな…。
「分かった!今…ちょうど14時34分だから…。」
「ちょうど?」
「14時49分までだね。」
彩さんも賛同してくれた…!嬉しいな…。
そういえば…僕の家にみんなを招いたはいいけど、来てすぐにお勉強会が始まったから飲み物とか出し忘れてたな…。
「みんなごめん…飲み物出してなかったね、何がいい?」
と言いながら立ち上がると、何故かみんなも立ち上がり、「申し訳ないから手伝うよ」と言ってくれた。
「うちの飲み物の準備手伝うわ。」
「あ、ありがとう…じゃあ…冷蔵庫に色々あるから…。」
「龍馬君、コップってどこにある?」
「あ…そこの棚の中…。」
「龍馬さん何飲みますか?」
「こ…コーヒー…。」
…だめだ、僕こういう指示出したりどう動くか考えるの苦手だ…。
どうしよう…みんなを動かしておいて僕だけ棒立ちって…。
なんて一人で悩んでいると、そんな僕に気が付いた朱里さんがこう話しかけてくれた。
「…ねぇ龍馬君、どのコップ使えばいいか教えてくれない?」
「えっと…ここに並んでるやつは全部使っていいよ。」
と言いながら食器の入った棚を指差すと、朱里さんがその中からコップを何個か取り出し、台所の調理台へ並べた。
「分かった!…1、2、3、4、5…5個しかないね。」
「あ…本当だ…ごめんね…お茶碗使って…?」
「気にしないで、一人暮らしだもん!仕方ないよ!晶―!!コップ無いから晶のお茶碗でいい?」
「いいよいいよ!ごめんな…今度来る時はマイコップ持ってくるわ!」
「え、また来るの…?」
「来るで!毎日のように来てやるわ!!!!」
優しいなぁ…正直寂しいから本当に毎日来てほしい…。
「……。」
「?どうしたの?朱里さん…。」
「…何でもないよ。」
…?
「ねえ明人…明人っていつお勉強してるの?」
「…姉さんは僕が部屋に帰った後何してると思ってた?」
「絵を描いてるか…マスをかいてるかと…。」
「彩ちゃんいとこに低レベルな下ネタ言わないの。」
「…正解…。」
「明人君も下ネタに乗っからないの。」
不毛な会話だな…下品なお話だけどかわいくてずっと聞いてたくなるな…。
彩さんと明人君の会話を聞きながらコーヒーを飲んでいると、彩さんが突然「あ」と声を上げてから、晶さんにこう尋ねた。
「ねぇねぇ晶ちゃん、雑談タイム用の質問まだ受け付けてる…?」
「?うん、受け付けてるで?どしたん?」
「今ちょっと思い出したんだけどさ、能力ってあるじゃん?それの目覚める条件って何だっけ?」
能力が目覚める条件か…あれ?そういえばなんだっけな…?
確か5月くらいに聞いた覚えがあるんだけど…。
「教えたげるわ!龍馬と明人にとっては復習やな、トラウマと恐怖症と嫉妬やで。」
あぁ、そうだった…最近聞いたはずなのに忘れちゃってたな…。
「それが条件なのか…じゃあ俺もなんか上手いことやったら力手に入れられるのか?」
「うん、多分やけど…思春期真っ只中の今やないと目覚めへんと思う。」
「思春期…?どういうこと?」
「なんかな、自分の体やったりアイデンティティ?的なものを守るために目覚めたんちゃうかっていう説が、能力者ちゃん達の間で広まってるんよ。」
へぇ…自分の事を守る為に…か。
でも僕は能力に関係することで大したトラウマないのにな…。
でも彩さんが「龍馬君の能力の特徴は悪夢を怖がらなくなることかもね」って言ってたから…そういう、力を使うことで起きる副作用だったりするのかな?
…いや、待てよ?
そういえば僕あの夢を怖がった事…一回も無いかもしれない…。
じゃあ何で僕は力を手に入れたんだろう…。
………。
「…龍馬君?」
「……へ?」
「大丈夫…?なんか…苦しそうな顔してるけど…。」
「…え?あ、だ、大丈夫だよ…。」
しまった…考え込んでた…朱里さんを心配させちゃった…申し訳ないな…。
考えをリセットするために、氷が溶けて薄くなったコーヒーを喉に流し込んでいると、明人君が、何か気になることがあったのか、晶さんにこんな質問をした。
「なぁ晶、質問なんだけどさ、能力者って大体何人くらいいるんだ?」
「いい質問やなあっきー!うちらが住んでる地域だけやったら…大体20人くらいかな?」
確かに良い質問だ…。
20人か…僕が思ってたよりもたくさんいるんだ…なんか勝手に9人くらいかと思ってた…。
「100人に一人くらい?」
「大体それくらいかもな…でもうちらの通ってる学校だけで…1、2、3、4……大体8人は確認できてるから…なんというか、うちらの学校にだけ偏ってるというか…。」
「偏ってんの?」
「んー、そうやけどそうじゃないというか…。」
「シュレディンガーの能力者?」
「そうだよ!龍馬君合ってる!」
「何言うてんねん…あのな?その、なんて言うか…確認できてるだけやから、もしかしたら50人くらい居るかもしれへん。」
「50人はやばいな。」
「正確な数字は分からないのか。」
「やって隠してる子もいるしクッソ地味な能力の子もいるんよ!やから全部は把握しきれへんねん!」
「クッソ地味な能力ってどんなの…?」
「消しカスきれいにまとめられる。」
「…それって能力?」
「やろ!?地味やろ!?地味すぎて分からんねんって!!」
「僕絵描くときとか机散らかしちゃうからその力欲しい。」
「それは分かる。」
能力にも色々あるんだな…僕もその能力欲しい…。
でも…地味な能力…か…消しカスの子と比べたら僕の能力は派手なほうなのかな?
なんて考えていると、晶さんがため息を付きこう呟いた。
「……でもな、例外は勿論あるんやけど…能力って使いすぎると副作用があるんよ…でも能力自体がトラウマの原因になることもあって…。」
これも前言ってた覚えがあるな。
確か晶さんは力を使いすぎて自分が誰か分からなくなったんだっけ…。
僕の力にも副作用があるのかな?
でも能力自体がトラウマの原因って…?
どういうことなんだろ…。
「ねぇ晶さん…能力自体がトラウマの原因になるってどういうこと…?」
どうしても気になり、晶さんにそう訪ねると、眉間に皺を寄せながらも丁寧にこう答えてくれた。
「その…刃物恐怖症の子が……体の一部が刃物になる力を手に入れちゃって生き辛くなったって聞いた事があって…。」
体が刃物に…?
一番怖いものが自分の体の一部になるなんて…。
……その子大丈夫なのかな…。
「その子が今どうしてるかは分からへんけどな、大体能力は20代後半くらいになると消えるらしいから…何とかそこまでは耐えてほしいな…。」
あぁ、この力もいつか消えちゃうんだ…。
でもトラウマを乗り越える為に目覚める、とか…思春期特有の物だって聞いたら…消えるっていうことはむしろ良いことなのかもって思っちゃうな。
トラウマを克服できた、というか…自分の弱さを受け入れられて、もう力に頼らずに生きていけるようになった、みたいな、そんな感じがする。
でも僕のトラウマって何だろう…?
晶さんの話を聞く限り、トラウマがそのまま身体に現れたり、トラウマを克服する何かが力になったりする…って聞いたけど…本当に心当たりがないんだよな…。
あぁ…何も思い出せない…。
「…なあ、お前らってさ…それぞれどんな能力持ってんだ?」
一人でうんうん唸りながら悩んでいると、智明がこんな事を言った。
「能力について何か気になることがあったの?」
彩さんがそんな智明の顔を覗き込みそう訪ねる。
すると、智明が彩さんの顔をじっと見つめこう言った。
「気になる事っていうか…トラウマ、とか聞いたらさ…ちょっと不安になっちゃって。」
「…智明。」
「それに…使いすぎたら副作用出るんだろ?だったら、使いすぎてしまった時に俺とか明人とかが止められたらいいなって思って…。」
…優しいな…本当。
「確かにそうか…どんな能力なのか知っておきたいんだけど…聞いてもいい?」
明人君も智明に同意し、何度も頷いた。
「ありがとうね二人とも…私は人の限界が分かる能力を持ってる…それは体力もだし、精神的な限界も分かるんだ。」
最初に答えたのは朱里さんだった。
「デメリットは自分の限界に無頓着になる事だよ。」
人の限界が分かる能力…デメリットは自分の限界に無頓着になる…。
…待って、朱里さんも能力持ってたの?知らなかったんだけど…。
「限界に達するとアラームが聞こえて…例えば…。」
「次は彩さん言ってくれるかな。」
「え?あ…わ、私は人の悪夢を操る…力…デメリットは…夢と現実の区別がつかなくなる事…。」
「晶さんは?」
「……人の真似をする能力、デメリットは自分が誰か分からんくなる。」
「僕は夢に出てきたものを再現できる能力…デメリットはまだ分からない。」
「勉強お疲れ様!明日も集まれたら集まろうね!」
「勿論!」
「…ねぇ、晶さ…勉強できないのに能力の事は誰よりも詳しいんだね。」
「んー、能力をうち自身が体験してるから頭に入ってくんのかな?」
「じゃあ勉強も体で体験してみればいいんじゃない?」
「分かった!じゃあうちも江戸時代のお百姓さんみたいに一揆を起こせばいいんやな?」
「やめろ、何に不満もってんだよ。」
「同性同士でも結婚させろ!っていう抗議。」
「あーやばい賛同しかけた危ない。」




