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本当の主人公  作者: 正さん
四章
33/87

33話 良かったよ



俺のアホみたいな嘘がバレた所までは良かった。

龍馬がブルーのポピーラビット、通称めこのんを手に取ったところも良かった。

ちなみにこのメコノンの名前の由来は青いポピーであるメコノプシスから取られているんだ。

花言葉は底しれぬ魅力を…


「な、な、なんで三人がここに〜〜!?」

「え!?明人君どうしたの!?」

「なんかこういうテンションの方が盛り上がるかなって思って…。」

「なるほど!う、うわぁああ!み、みんなおしゃれしてるぅぅう!!??」


…割り込むなよ、俺が真剣に語ってんのに。


コホン、話を戻そう。

問題はここからだったんだ。

バカ2人の会話にツッコミを入れようと、オレンジのポピーラビット、通称ながみん(名前の由来はナガミヒナゲシ)を棚に戻し、女の子達の方を向いた時。

敗北を知ったんだ。


沢田智明、16歳にして、2度も敗北を味わってしまったんだ。

こいつには敵わないと、こいつには勝てないと思い知ったんだ。


ふわふわと揺れるポニーテールが、薄いピンクの唇が、シンプルな色でまとめたファッションが。

レトロな店内が

オレンジ色の照明が

この世の全てがお前の為に存在しているかのような、そんな人物が俺の目の前に現れたんだ。


そいつの、そいつの名は…。


「ポピーラビットじゃん!智明ながみん派なんだ…!私はちあとんが好きだなぁ…。」

…雅…朱里…。


…本当…なんでこんなに可愛いんだこいつ…。


「……智明?」

しまった…黙り込んじまった…。

うん、ちあとんだ。

ピンク色のポピーラビットで…作った本人も何で「ちあとん」にしたのか分かってないちあとんだ。

でもこんな事言っちまったら知識でマウント取ってるみたいになるよな…。

でもバカだとは思われたくないし、知識が0だったら話も合わせられない…よし。

ここはバカだと思われない、かつ知識でマウントを取らないベストな回答を返すんだ、頑張れ俺、いけるぞ沢田智明。


「ちあとんか…薄ピンクで可愛いよな!」

いや見たまんまじゃねえか。

完璧にバカだと思われたわ…くそ…。

頭の中で自分を責め続けていると、朱里がちあとんを手に取り

「うん!薄ピンク可愛いよね!」

って言いながら優しく微笑みやがった。


…本当に可愛いな、こいつ。

見れば見るほど可愛くて、会うたびに好きになる。

…なんて…ラブコメ脳すぎるか…?

でも事実だしなぁ…なんて能天気な事を考えていると、突然彩ちゃんが口を開いた。


「そういえば…二人って付き合ってるんだっけ?」

「…え?」

…つ…付き合ってる…か…どうか…だと?


もし「付き合ってない」って言って

「へぇ、付き合わないの?」って言われたら俺はどうすればいい?

変に濁したらどうせ揶揄うネタになって更に付き合い難くなる…。

え?付き合いにくくなる?え?

というか好きだってバレてる時点で俺らはどうもできないんじゃ…。

…こういう場合って…なんて答えれば良いんだ…。


俺と同じく悩んでいるであろう朱里の方へそっと視線を移動させると、口パクで何かを伝えてきた。

…なんて言ってんだ?

和菓子にパセリ?輪っかに撒き餌?

なんだ…?微塵もわかんねぇぞ…?


すると、朱里が俺の表情を見て悩んでいる事を察したのか、指で自分の鎖骨の辺りをつんつんと突いた。

…あぁ!!「私に任せて」って言いたかったのか!!!

そうだった、俺唇の動き読み取るの苦手だったわ。

昔龍と他の友達でイヤホンガンガンゲームしたっけ…確かボロッボロに負けて龍にブチ切れられたんだよな…。

何だよ輪っかに撒き餌って、馬鹿じゃねえの…。

恥ずかし…穴があったら入っちまいてぇ…。


「なぁ、ここに6人集まってたら他の人らの邪魔にならへん?」


頭を抱え、何も思いつかないショックで今にも叫んでしまいそうになっていた時、晶が小さな声でこう言い、彩ちゃんが申し訳なさそうに頭を下げた。

「そっか…ここで話しちゃったら邪魔になるね…移動しよっか。」


あ…晶…!!??

俺が絶対に勝てない人間その3…晶…。

お前の事をスーパーダーリンと呼ぶんだな…危うく惚れちまうとこだったぜ…。

心を読む能力って本当に優秀なんだな…天才だ…。


視線で晶に「ありがとう」と伝えていると、晶が俺の心を読んだのか、少しだけ照れ臭そうに眉を八の字に曲げながら俺達5人を急かし始めた。


「あー…、なあみんな、このかわいいうさちゃん買うん?買わへんの?出来るだけ早く決めや?」


…うさちゃん?うさちゃんだと?

晶みたいなキャラだと普通「このよう分からん兎」か「このポピーなんとか」って言う筈なのに「このかわいいうさちゃん」だと?

本当に完璧だな、こりゃあモテるわけだ。


…で、何だっけ?晶さっきなんて言ってたっけ?









「なあ、うちタピオカ飲みたい。」

雑貨屋で各自欲しい物を買った後、どこに行こうかと話しながら何となくフードコートに向かっていた時、突然晶がそう発言した。


さっきまで「うちこういう雑貨屋さんとかあんまり行った事無いから…」と言いながら照れ臭そうにピアスを見ていた晶が。

ピアッサーを見て「耳に針刺すんか…痛そうやな…智明耳穴開けるとき痛かった…?」と震えていた晶が突然わがままを言ったんだ。


そんな晶のわがままを聞かないわけにはいかないと決めた晶親衛隊の俺、朱里、彩ちゃん、龍馬、隠れファンの明人、そして親衛隊リーダー、自分大好き晶の為に、フードコートの隅にあるタピオカ屋へ向かう事にした。



「ミルクティーが定番だよね…。」

「変わり種行きたい気もするけど…。」

「うちコーラにしよっかな…紅茶酔うし…。」


…お…女の子三人がくっついて店の前に置いてあるチラシ見ながらお話してる…。

めちゃくちゃ真剣に話し合ってるし…超かわいい…。


「お前らは何にするんだ?俺はミルクティーにしよっかなって思ってるけど…。」

女の子達の後ろでメニューを手に取り、穴が開くほどじっくり見ている龍と明人にそう話しかけると、龍がどこか嬉しそうにメニューを指差しながらこう言った。


「僕アイスコーヒーにしようかなって思ったんだけど、明人君が言うには甘い飲み物の方が美味しいらしくて悩んでるんだ…。」

甘い飲み物か…明人詳しいな…しょっちゅう飲んでんのかな…。

「そっか…他何があるんだっけ?」

と問いかけながら龍が見ているメニューを覗き込むと、ふと、隣から激しい憎悪が入り混じった視線を感じた。


「…あー…明人は何にするんだ…?」

俺ら2人を羨ましそうに睨んでいる明人にそう問いかけると、少し戸惑ってからりんごジュースを指差した。


りんごジュース…?こいつマジで可愛いな…小動物かよ…。

またもや負けを確信し、今にも泣きだしそうなくらい打ちのめされた俺は、明人や晶を見習ってギャップ萌え作戦を決行することにした。


「俺ブラックコーヒーにするわ!」

「智明コーヒー飲めないでしょ。」

「…コーラにします。」





「タピオカとか五億年ぶりに飲んだわー!」

「五億年?智明って恐竜だっけ?」

「智明君って恐竜だったんだ…。」

「SNSに載せたらバズるかな?」

「絶滅しろよ、生き残んな。」

「おい明人、全国の恐竜ファンと動物愛護団体に土下座しろ。」


なんて、注文したタピオカを持ち、フードコートにある4人掛けの席へ移動しながら話していると、突然龍馬が眉間に皺を寄せ、手に持ったタピオカドリンクをまじまじと見始めた。


「…???」

「…?どした、頼んだのと違ったか?」

「いや…?別に普通…だと思うけど。」

「だと思うけどってなんだ。」

「…いや、何でもないよ、気のせいだった。」


と言いながらも、まだ気になるところがあるのか、椅子に腰掛けてから、ストローで中身をゆっくりかき混ぜる龍馬。

「…なぁ、まじで大丈夫か?これ交換してやろうか?」

「いや…?」

何度もドリンクやストローを見てもまだ違和感を感じるのか、俺達みんなの顔を見て恐る恐るこう呟いた。



「……ねぇ、明人君もりんごジュースだよね?味変じゃない?」

「え…あぁ…変じゃないと思いますけど…え?りんごジュース?」

「実は僕も明人君と同じりんごジュースにしたんだけど…一口だけ飲ませてくれない?」

「フゴッ……!!」

「おいコラりんごジュース飛んだんやけど!朱里から借りた服汚すなやこのクソ間抜けが!」







「その漫画の受けはマジでエロいから注意して。」

「受け優位?」

「うん。」

「買う。」

「ちなみに聞くけど…受けはツンデレ?スパダリ?」

「年下わんこ。」

「解釈違いや!!!!」

「なんで!?わんこ受け可愛いじゃん!!!!」

「わんこは攻めやろ!!!!年下わんこは総攻めや!!!!」

「晶ちゃんどんだけ年下攻め好きなの!?」

「あんたらが雑食すぎんねん!!!!」


…声のボリューム下げてくれねえかな。

携帯で用語を検索しようとしている龍馬を止めてからバカ三人に向かって

「純粋な疑問なんだけどさ、お母さん的な立ち位置にいる人はお前ら的には攻めなのか?それとも受け?」

と尋ねてみると、三人が顔を見合わせぼそぼそと何かを相談し始めた。


「…私的には…総攻めかなぁ。」

「あ、彩ちゃんも?私も総攻めだな…晶は?」

「…襲い受け。」

「え、なにそれエッロ…。」

「やってることはショタおになんだけど精神的な立ち位置はおにショタなBL見たい。」

「わかる。」

「それ。」

「俺尻で抱くタイプの受けが好き。」

「分かる。」

「分かる。」

「分かる。」

「な。」



…ダメだ、一緒になって盛り上がってしまった。

どうか話を逸らさないと…めっちゃ見られてる気がする…。

無難に「次どこ行こうか」って声かけりゃいいか。

でも今言ったらちょっと嫌な雰囲気になるかも…。

なんて一人で悩んでいると、何かを察したのか、明人が俺の顔をじっと見つめてから通路を指さし、晶にこう話しかけた。


「…なぁ、さっきあそこ通ったじゃん、あそこに晶の好きなゲームのグッズ売ってた。」

「え、マジ?行きたい。」

「行こ。」


…明人。

…ダメだ、ときめいてしまった。好きかも。


「え、それなんてゲーム?最近リリースされた?」

「うん、なんか結構暗い雰囲気のゲームで…初めて主人公を好きになったからグッズいっぱいあってさ…今までの推し全然グッズ無いから新鮮でうれしい。」

「あ、そういえばスクショ投稿してたね!」

「あー…僕も脇役とか主人公の敵側を好きになりやすいから気持ちめっちゃ分かる…。」

「そうなんや…あれ?ラフは?」

「僕の今まで好きになったキャラを考えるとラフが珍しいケースなんだよね…。」

「そうなんや…!」


…龍馬がいっぱい話してる。

こいつ結構人当たり良いし友達も多いはずなのに俺としか居ないから…なんか龍馬が自分から話しかけてんの見たらめっちゃくちゃ嬉しくなるな…。


「…そろそろ行こうか、みんなもう飲み終わった?」

「ちょっと待ってくれ、明人がまだタピオカに手こずってる。」

「…イライラしてきた。」

「うちみたいに氷も全部かみ砕いて食えばええねん。」

「そんなバカみたいな事したくないんだよ。」

「は?」

「智明と一緒に行く、先行ってて。」

「…は?」







「…。」

「…。」


…気まずい。

何か分かんないけどキスした後くらい気まずい。


「…な、なぁ、さっきは…ありがとうな…。」

「ん。」


…クールだな…。

マジでかっこいい、惚れそう。


「…あー、あのさ、明人ってBL好きだったよな…どんな受けが好き…?」

「……クールで無知な同い年。」

「あー…いいな…。」

「前戯を擽り合いだと思ってるくらいが好き。」

「…すごい性癖してんな、分かるけど。」

「それよりさ、智明もBL好きだったんだ。」

「まぁな…あの。」

「…。」

「…朱里が…BL好きだから…話が合えばいいなって思って。」

「……へぇ。」


……ん?いや俺何言ってんだ?

明人全然興味なさそうじゃん…明人の好きなもの知れてだけでいいじゃん…マジで俺何言ってんの…?言う必要なかっただろ…。

今…なんか…ここで全裸になれば忘れてくれるかな。


「なぁ。」

自分の言った事をどうにかなかったことにしようと色々考えていると、明人がストローで氷を突きながら話しかけてきた。

「う…うん?どうした?」

「……聞きたいんだけどさ、男もよく恋バナとかすんの?」


…恋バナ?


「え?あー…俺の場合ラブコメ大好きだから…俺だったらいっぱいするけど…今まではどうだった?分からないのか?」

「姉さんの知り合いとか……中学…じゃなくて…その、昔入ってた美術部の人達とばっか話してたから…。」

「女友達が多かったのか…。」

「……うん。」


へぇ…明人昔美術部だったのか。

……でもさっき何を言いかけたんだ?中学の時に美術部だった…?なんでそれを隠す必要が…。


「だから……初めてだから分からない。」

「初めて?」

「…男友達今まで出来たことないから。」

「…今は?俺の事友達だと思ってくれてるのか?」

「……違う、思ってない、思ってるわけじゃない。」

「はは、そっか。」

「違うから。」

「分かった分かった…そろそろ俺らも行こうか?」

最後の一粒に苦戦している明人にそう言うと、眉に皺を寄せてからドリンクの上に貼ってあるビニールを破き始めた。

『確かにそっちの方が吸いやすいよな!』

と言おうとした瞬間、明人がこんな言葉を口にした。


「何で僕と仲良くできるんだ?」

「ん?」

「………僕はお前を殴ったし…未遂だけど、お前の親友を犯したんだぞ?なのに…何で?」

…何で、か。

何でだっけな?何となく…なんて言っちまったら困らせちまうだろうし…正直に答えるか。


首根っこを掻いてから、明人の質問への返答を口に出す。


「それはな、お前が龍馬の友達だからだ。」

「…は?」

「あのな?龍馬の友達は幼馴染である俺の友達だ、友達が非行に走ったんなら信じて正しい道に引き戻してやるのが友達だろ。」


…って、なんか…痛かったか?



「……それ、龍馬さんも同じ事言ってた。」


「…!」


「お前が休んでる時…こっそり「貴方を襲った僕とどうして仲良く出来るんですか」って聞いてみたら「明人君が友達だからだよ」って。」


「……そうなのか。」


「…お前は、これでも友達だって言えるのか?」


「…これでも…って?」


「あの、クラスで言っただろ、あの…「ゴミ」って」


「うん」


「…あれがもしも大嘘だったら、僕の事、友達だって思えないんじゃないか?」


「…どういう意味だ?」


「……だから、何が言いたいかっていうと」


「……」


「…良かったよ、お前がゴミだって知れて。」




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