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本当の主人公  作者: 正さん
四章
32/87

32話 お前らと一緒なら






「龍馬さん私服すごくかっこいいです…!」

「明人君もかっこいいよ!」

「龍馬さんほどじゃありませんよ…。」

「謙遜しな」「俺抜きでイチャイチャすんな」


5月27日、日曜日。

明人君と智明、そして僕の3人でいつものショッピングモールに集まって遊ぶ事になった。

本当は二人に買い物に付き合って貰うつもりだったんだけど、どうせなら気分転換に遊ぼうって話になったんだよね。


…にしても。


「…僕達、遊ぶって話になったら毎回ここ来てるよね。」

僕の目の前で小さな言い争いをしている二人にそう言ってみると、僕の方を見てから顔を見合わせ

「…言われてみればそうですね…。」

と言ってくれた。


「うん…必ずと言って良いほどここだもんね…。」

最後に、僕達他に行くところないのかな、と付け加えると、智明が遠くの方にある山を指差しこう言った。

「仕方ねえだろ、田舎なんだから。」

…うん、確かに…そうだよね。


…まぁ、僕は…みんなと一緒なら…どこでだって良いんだけど。

……って、何考えてんだろ…。


照れを必死で隠す為に下唇をぎゅっと強く噛み締めると、明人君が何かを察したのか、少しだけ微笑みながらこう言ってくれた。


「…僕、龍馬さんと一緒ならどこでも楽しいですよ、例え下水道でも。」

「明人君…!うん、僕も楽しいよ…!下水道は嫌だけど!」


明人君は優しいなぁ…。

でも…この優しさが僕にしか向けられてないってのが…ちょっと照れ臭いんだけど。

なんて、変な事を考えながら優しく微笑んでくれている明人君へ微笑み返すと、何かを察したのか、智明が照れくさそうにこう呟いた。



「…まぁ、俺も…お前らと一緒ならどこでも良いけど…。」

「龍馬さん見てください僕おでこにニキビ出来たんです。」

「うわ、本当だ!結構おっきいね!」

「聞けよ!!!!!!!!!」





_ _ _






5月27日、日曜日。

今日は晶と彩ちゃんと私の3人で遊ぶ事にした。


彩ちゃんに私の能力の事を話すために。

彩ちゃんと晶の仲を深めるために。

なんていうのはただの言い訳で、本当はただの私のわがままなんだけど。


でも、今日は女の子として最高の日にしたいなって思ったから、無茶を言って晶にめいっぱいのオシャレをさせてあげたんだよね。


晶はスタイルがいいから服を選ぶの楽しかったなぁ…。

最初はヘアアイロンを怖がって逃げていた晶も、髪をセットしてあげたら喜んで鏡の前から動かなかったっけ…。


「…朱里、どこ行くん?」

…ダメだ、考え込んでた。

「いつものとこだよ。」

不思議そうに私の顔を見る晶にそう伝えると、目をまん丸にしてから嬉しそうに数回頷いた。



3人で来たのは、ショッピングモールの二階部分にある抹茶専門のカフェ。

そこは、店の外にも中にも鏡が沢山置かれていて、少しだけ不思議な雰囲気を纏っているんだ。


あまり賑わってはいないものの、個人的に大好きなお店。

抹茶はそこまで好きじゃないけど、ここのはサッパリしてて飲みやすくて大好きなんだよね…。

まぁ、本当は抹茶なんかどうでもよくて…晶と初めて出掛けた時に来た思い出の場所だから大好きなんだ。


店員さんに注文しながら鞄の中のお財布を取り出そうとすると、晶が店の奥にあるテーブル席を指差しこう言った。

「うちが払うから二人はあそこの席取っといて。」

…晶…。

本当男前だね、晶がモテる理由分かった気がするな…。


「後で返すね…ありがとう…。」

申し訳無さそうに頭を下げる彩ちゃんの手を引いてテーブル席に向かうと、彩ちゃんが小さな声でこう尋ねてきた。


「…朱里ちゃんって晶ちゃんと昔からの知り合いだったの?」

…そっか、彩ちゃんは知らないんだっけ…。

「そうだよ、幼馴染みたいな感じ。」


『どうしてあの日初対面のフリをしてたの?』

『知り合いなら言ってくれれば良かったのに』

なんて質問が来る事を覚悟し、頭の中で複数の返答パターンを考えていると、彩ちゃんが私の期待を裏切るような言葉を口にした。


「へぇー…私幼馴染とか居ないから羨ましいなぁ…。」

…彩ちゃん…。

もしかして色々察してくれたのかな…。

だとしたら優しいなぁ、本当に…。

……よし、ちょっと寒いかもしれないけど…言ってみよう。


「…じゃあさ、私達も幼馴染になろうよ!」

「え?」

「ちょっと強引だけど…今からおばあちゃんになるまでずっと一緒に居たら、私達立派な幼馴染じゃない?」

…って、何言ってんだろ私…。


「忘れて」と言おうと口を開くと、彩ちゃんが見た事のないくらいキラキラとした瞳で私を見つめ、何回も頷いてくれた。


「うん!いいね!いいねそれ!じゃあ私達は今日から幼馴染だ!」

「ふふ、だね!」

…彩ちゃんは本当に可愛いなぁ。


「じゃあ今日が私達の幼馴染記念日だね!」

「うん!私カレンダーに書くよ!」

「私も!約束ね!」

なんて言いながら彩ちゃんと小指を絡めると、胸の奥がじんわりと暖かくなった。


…幼馴染…か。

一応晶と私も幼馴染なのに…幼馴染らしい事何もしてくれないからなぁ…。

……まぁ、そういうとこも好きなんだけど…ね。


なんて考えていた時、番号札を持った晶が私の隣に座り、笑顔でこう尋ねてきた。

「お待たせ、何話してんの?幼馴染ちゃん。」

…き、聞こえてたのか。

なら説明する手間は省けたね。


彩ちゃんの方へ視線を移動させ数回頷くと、彩ちゃんが晶の方へ顔を向けこう言った。

「晶ちゃん!私達幼馴染なんだ!」

「そうだよ!幼馴染!」


最初は怪訝な表情をしていた晶も、私達の笑顔に吊られたのか、嬉しそうににっこりと微笑んでくれた。

「ふふ、そうなんや、かわいいな。」


…おかしいな。

いつもの晶だったら

『ちゃうで!うちら3人が幼馴染や!!』

とか言いそうなのに…。


…あぁ、なるほどね、晶はいつ死んでも良いって思ってるんだ。

強いなぁ、本当に。

……まぁ、私は今の晶の強さが欲しいとは思えないけど。


何て考えながら晶の横顔を見ていると、晶が彩ちゃんに見えないように私の足を人差し指で数回突いた。

あぁ…そうだ、私の能力の事言わなきゃいけないんだった。


「彩ちゃん、言いたい事があるんだけど…。」

7番と書かれた番号札を見つめている彩ちゃんに向けてそう言うと、番号札から目を離し、私の目をじっと見つめた。


「…私の、私達の…能力について。」

そう言った瞬間、彩ちゃんが目を閉じてこう呟いた。


「…うん、知ってるよ。」


耳を疑った。

彩ちゃんが知るわけないって、

彩ちゃんに知られるわけないって信じてたから。


すると、私が焦っているのに気付いたのか、彩ちゃんがゆっくりと目を開き

「…どんな能力?」

と、首を傾げながら、にっこりと微笑みこう尋ねてきた。


…背中に一筋の汗が伝い、喉が勝手にキュッと音を立てて締まる。

何で、普通の会話なのに…こんなに怯えてるんだろう、私。


…よし、大丈夫。

数回咳払いをし、私に向かって微笑んでいる彩ちゃんに自分の能力の説明をする事にした。


「私が持ってるのは、人の限界が分かる能力で…デメリットは…「自分の限界に無頓着になる…だよね?」


……何で…知って…。

デメリットは晶にすら話した事ないのに…何で…。


隣に座っている晶の方を見てみると、晶も私と同じように目を見開いて、少し震えていた。


そんな晶の太ももに小指で『心読んでみたら?』とメッセージを書くと、3回ゆっくりと瞬きをしてから1回だけ咳をした。


…分かった、読まないんだね。


「…彩ちゃん、ほんまに知ってるんやな?」

と言いながら、さっきまで彩ちゃんがじっと見ていた番号札を手に取り、店員さんに見えやすい位置、即ち、彩ちゃんから最も離れた位置に置く晶。


すると、晶の思惑通り、彩ちゃんが姿勢を正し、晶の方をじっと見つめた。

…彩ちゃんは、何で私の能力を知ってるんだろう。

もしかして、転校生と関係があったり…。

いや、晶を狙ったあの企業と…?

なんて事を考えていると、彩ちゃんが注意深そうにあたりを見てから、ゆっくりと頷いた。


「…もちろん知ってるよ、でも…お願いだから…理由は聞かないで。」

「……どうして?」

少しだけ震えた声でそう呟く彩ちゃんにこう尋ねると、下唇をぐっと噛み締めてから顔を上げ、

「絶対話すから…話せるようになる日まで待っててくれたら嬉しいな。」

と言いながら、態とらしく微笑んだ。

…彩ちゃん。


…分かったよ、彩ちゃんがそんなに苦しそうにするなら…幼馴染として黙っていられないね。

「…分かった、私達幼馴染だもん!言うこと聞くよ。」

と言いながら、泣きそうな瞳で微笑む彩ちゃんに向けて精一杯の笑顔を向けると、少しだけ鼻をすすってからこう答えてくれた。


「朱里ちゃん……ありがと、流石ソウルメイト。」

「あはは、なんかその言い方明くんみたい!」

『流石いとこだね!』と最後に付け加えると、彩ちゃんがいつも通り可愛い笑顔で笑ってくれた。


「朱里が言うならうちも待つよ。」

「晶ちゃん…ありがとう。」

「その代わり言う言う詐欺は無しやからな?」

「…分かってるよ、絶対に言うから…待ってて。」

「お待たせ致しました…アイス抹茶ラテをご注文のお客様は…。」






_ _ _






「雑貨屋行こうぜ雑貨屋!!」

と言いながら、大はしゃぎで雑貨屋さんを指差す智明。

…元気だなぁ。

智明が犬だったらきっと今尻尾振ってるよ。


ショッピングモールに到着した僕達が最初に向かったのは服屋さんだった。

でも明人君と智明のお気に召す服は無く(僕のお気に入りの服は沢山あった)、何件も何件も回った挙句二人が喧嘩をし始めてアクセサリーの一つも買えなかったんだよね。


…今回で学んだよ。

この二人を一緒にしたらダメだね、絶対喧嘩するもん。

そりゃあ二人の服のタイプが違う事も僕に着て欲しい服が違う事も分かるよ?

でも店先で喧嘩しちゃダメだよ、みんなの迷惑になっちゃうし…。


…よし、今度喧嘩したら僕がちゃんと叱らないと。


「勝手に行ってろ、龍馬さんどこ行きます?」

あぁ。

「おい!!!!!!!!」

「声デカイぞ迷惑だろ。」

あぁ

「お前がどっか行こうとするからだろ!!??」

あぁぁあ

「うっわ人のせいにすんの?最低だな。」

「おい!!!!!!!!」


…まだ喧嘩してるよ、懲りないなぁ。

仕方ない、僕が何とかしなきゃ…二人の飼い主として…ね。

「明人君、入ろう?僕からのお願いだから…ね?」


明人君の肩を撫でながら精一杯の優しい声でお願いしてみると、下唇をぎゅっと噛み、少しだけ頬を染めながらゆっくりと頷いてくれた。

「……はい。」


良い子だね、明人君は良い子。

問題は…あの金髪バカだな。


雑貨屋に入り、何処かへ向かうゴールデンレトリバーを追いかけると、僕達が付いて行けてないことに気付いたのか、小さな声で「すまん」と謝ってくれた。


なんだ、躾いらないじゃん。

ゴールデンレトリバーは賢いなぁ。


「智明そんなにあのキャラ好きだったっけ?…えっと…ポニー…なんとか?」

智明が探しているキャラクターの名前を当てようと挑戦してみると、智明が少し笑いながら

「ポニーなんとかってなんだよ…ポピーラビットな、妹が最近気に入ってんだよ。」

と、説明してくれた。



「あー、ポピーラビットか、あの5色くらいあるやつ!」

「6色な」

「あの目玉でかいやつでしょ?」

「それはアイズラビット、あのアニメグロいから嫌いなんだよ」

「アイズラビット?なんだそれ、性病持ちの兎か?」

「そりゃあエイ…お…!」



僕らと話している途中で、智明がポピーラビットを見つけたのか、少しだけ柔らかい表情をしてからカラフルなマスコットが並べてある棚に向かった。


「あったのか?」

嬉しそうにニヤニヤと笑う智明に明人君がこう尋ねると、満点の笑顔で

「おう!これ可愛くて好きなんだよ…」

と言いながらオレンジ色のウサギを手に取った。

…ん?さっき妹が好きって…。

…あー、なるほど。


すると、智明が僕達のにやけた顔を見て、自分が言ってしまった事に気付いたのか、突然大きく息を吸い込み、小さな声でこう呟いた。


「…さっき言ったことは無かった事にしてくれ。」

「……分かった。」

「明人、お前結構素直なんだな。」

「龍馬さん弱みゲットですね。」

「だね!」

「…怒鳴られたいか?」

「怒鳴れるもんなら怒鳴ってみろよ。」

「なんだよその上から目線。」


さっきと同じように喧嘩しながらも、クスクスと笑い会う二人を見ながら、僕も智明の持っているポピーラビットを手に取ってみる。


…六色か。

智明と明人君と僕。

彩さんと朱里さんと晶さんの6人に一色ずつでぴったりだ…。

…これお揃いで買おうって言ったらみんな困っちゃうかな。

みんなの部屋に置いて、会えない時とか寂しい時にそれを見てみんなの顔を思い出すんだ。



……いや、そんなのみんな困っちゃうだろうな、やめとこう。

久しぶりに智明以外の友達が出来たからって調子に乗っちゃダメだよね。


と思いながら棚に青色の兎を戻すと、僕の隣に見覚えのある女の人が現れた。


綺麗な人だなぁ…。鼻が高くて肌が真っ白で、でも誰かに似てるんだよなぁ、誰だっけ…。

あれ、なんかデジャヴ…。


「あ」

「あ」

「あ」

「あ」

「あ」

「あ」




20XX年5月27日 日曜日


灰色の猫ちゃんと一緒に遊ぶ夢を見た…めちゃくちゃかわいかった…!

智明の家の近くに住んでた、猫を沢山飼ってるおばあちゃんのとこに行ったら灰色でピンクの首輪をした猫が擦り寄ってきたっけ…。

可愛くてずっと撫でてたらおばちゃんが「その子は不思議な子だから」みたいな事を言って猫のお菓子を食べさせてた。

かわいくてずっとそばにいたかったけど、夢の中の僕にはなんか急ぎの用事があったみたいですぐに離れなきゃいけなかったっけ…悲しかったな…。


あのおばあちゃん元気かなあ…。




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