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本当の主人公  作者: 正さん
三章
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28話「ずっと見てたから」



「ん…まず、何であんな事件を起こしたか…やんな?朱里。」

晶が、自分の前に置かれているオレンジジュースを一口飲んでから、私の頭の中にある一番大きな疑問を口にした。

「…うん。」

喉から声を絞り出し、ゆっくりと頷くと、晶も私の真似をし、ゆっくりと頷いた。

しかし、視線を私から、私の隣に座っている智明に移し、わざとらしいくらい優しい声色で質問を投げかける。


「最初っから説明してもいいんやけどその前に…智明?」

「…ん?」

「なんか…最近龍馬について違和感感じひん?」

「え…僕…?」

龍馬君…?龍馬君が何でこの件に関係して…。


少し気になって龍馬君へ視線を移動させると、慌てているのか瞳を泳がせ、ボソボソと何かを呟きながら浅い呼吸を繰り返していた。

…成る程、能力の事がバレちゃったらダメだって思ってるんだね。

「…龍馬君、大丈夫だよ。」

と言うと、安心したのかゆっくりと頷き、真っ直ぐな瞳で智明を見つめた。


すると、その瞳に答えるように、智明が数回頷き、優しい口調で龍馬君に向かって話し始めた。


「…龍、俺が気付かないと思ってたのか?お前とずっと一緒に居たんだから少しの変化くらい気付くに決まってるだろ。」

「……智明…。」



少し寂しそうに名前を呼ぶ龍馬君を見て、軽く下唇を噛んでから、

「…重要な所を掻い摘んででいいから教えてくれないか、俺も詳しくは聞かないし詮索もしないから…頼む。」

と言いながら晶に向かって少し頭を下げた。

…掻い摘んで…か、晶なら上手く説明してくれそうだけど…。

なんて考えていると、龍馬君が軽く首を横に振り、手で自分の両目を覆った。


「掻い摘んでは説明出来ないから単刀直入に言うね…これを見たら信じてもらえると思うから。」

と言いながら、右目だけ手を剥がした。

「…隠しててごめんね、僕は能力者なんだ…僕だけじゃなくて…晶さんと彩さんも。」



申し訳なさそうにそう呟く龍馬君の目が、まるでアニメに出てくるモンスターのように黄色く光っていた。






その瞳を見た瞬間、クラスメイトが話していた噂が脳裏を過った。

「…あの噂って龍馬君の事だったんだ…」

私がそう呟いた瞬間、龍馬君と智明が同じタイミングで私を見、晶が少し身を乗り出し解説をし始めた。


「本当はうちも掻い摘んで話すつもりやったんやけど…仕方ないか。」



晶の話によると、1ヶ月前に龍馬君が自分の能力を使って、さっきと同じように目を光らせ、晶と彩ちゃんに絡んでいた不良を追い払ったらしい。

すると、根に持った不良がその噂を広め、少しだけ目の事が話題になったんだ。


だけど、その不良の話を信じる人は少なかった。

当たり前だけどね。


でも、信じた人は少なからず居たんだ。

晶が言うにはそれが問題だった。


何故かと言うと…信じた人達の中に、影響力のある人、即ち「一軍」が居たらしい。


不良よりも遥かに影響力のある人達のせいで噂がぐんぐん広まって、二、三人なら簡単に対処できたのに、噂を広める奴の数が二桁になってしまったんだ。

そんな時になんとか噂を揉み消そうと思い付いたのが、同い年で晶に尽くしてくれるパラを利用する事だったらしい。


今年の春から高校に通う事になったパラに、晶が「この日のこの時間に告白しろ」と命令した。

そしてそのすぐ後、晶が賄賂を渡し、懐柔した不良を使い、私をリンチした。


だけど私は不良を返り討ちにしちゃったから、次の案として、晶が自ら不良達の元へボコボコにされに行った…らしい。

そして、パラには手筈通り自慢話をしろと命令し、智明の暴力事件を起こした。


そのおかげで、目が光ったなんていう不確かな噂よりも、目撃者の多い暴力事件の方が早く広まり、龍馬君の瞳の噂が揉み消されたらしい。





「…これが真実や、マジやで、嘘じゃない。一ミリも隠し事のない純度100%や、マジやで、信じてな。」

「そこまで言われると逆に嘘っぽく聞こえるな…。」

…辻褄の合わないところはないし…変にねじ曲がったことを言ってるわけじゃない…。

なら…うん、話は多分本当なんだろうな…。


「…なぁ、野暮な質問かも知れねえけど…聞いてもいいか。」

その時、ずっと俯きながら話を聞いていた智明がやっと口を開いた。

「何や、言うてみ?」

智明が質問をしてくれるのが嬉しかったのか、晶が少しだけ瞳を輝かせ、身を乗り出した。



だけど、智明の質問内容を聞いた途端、顔色をガラリと変え、ぐっと黙り込んでしまった。


「…そうまでして龍馬の噂を消そうとした理由は何だ?」










「…狙われるんだよ、変な奴らに」


黙り込んでしまった晶の代わりに、私が説明をする事にした。

「詳しい事は後で説明するけど…晶と私は昔からの知り合いなんだ。」


私の話を聞き、下唇を噛みしめる晶、泣きそうな顔で真剣に話を聞く龍馬君、驚いて目を丸くする智明へ順番に視線を移動させながら、言葉を続ける。


「中学生の頃ね、晶の能力を見せてもらったんだけど…その時…変なスーツを着た男が遠くから晶の写真を…」

「…やめて。」

私が詳しく説明しようとしたその時、晶が聞いたことのないくらい震えた声でぼそりとこう呟いた。


「……あ…ごめん…私…」

しまった、私何やってんだ…晶の傷口を抉るような事言って…私が晶の一番の理解者なんて自惚れてその癖に晶のトラウマを…。

…ごめん、本当にごめん…晶…。


すると、その時智明が私と晶を交互に見てから、そっと口を開いた。

「…すまん、俺が聞かなきゃ良かった…」

…あぁ、智明にまで気を遣わせて…私本当何してんだ…。

心の中で自分を責め続けていると、晶が私と智明の心を読んだのか、申し訳なさそうにこう呟いた。


「智明は悪くないよ、ただうちが考えすぎちゃうだけやから…あと、うちだけじゃなくて…朱里も。」

…晶…。

私が晶の助けになれたら良かったのに…。

…色々ごめんね、晶。




「…どうしても隠したいことがあるのならさ、言わないほうがいいんだよ。」

晶の言葉の後、しばらく続いた沈黙を破ったのは、龍馬君だった。

「えっ…」

龍馬君の言った言葉に驚いたのか、晶が少し顔を上げた。

「だって、それが原因で喧嘩なんかしちゃったら元も子もないでしょ?」

と、言い終わってから、龍馬君が晶に向かって優しく微笑んだ。

…龍馬君……。

君って心の底までいい子だな…幸せになってほしい…。


「…龍馬の言う通りだな、俺にだって…どうしても隠したい事くらいある。」

龍馬君の言葉に続けるように、智明がこう言うと、晶が少し不審な顔をした。

「……ほんまに?」

「あぁ、いくら友達だからって全部話す必要はねえんだぞ。」

「そうだよ晶さん、だからあんまり気負わないで。」


晶が優しい二人の言葉を聞き、少し嬉しそうに口角を上げてから、表情をガラリと変え、

「……二人に…謝りたい事がある。」

と、自分の能力についての事を少しずつ話し始めた。


「2年になった瞬間、まぁ…心を読む能力を手に入れた瞬間…から、みんなの心を読むようになった。それが癖になって、心を読まへんかったら誰とも話せへんようになっちゃったんよ。」


…晶…。

「優しい人とか、うちの事を好きって言ってくれる人たちの本心を知ってしまうわけやから…人間不信になったり、怖くなって死のうとした事が何回もあった。」

手をぎゅっと握りしめながら悔しそうに呟き、少しだけ瞳に涙を溜めた。


すると、晶が私の顔を見て自分の涙に気付いたのか、下唇を軽く噛み、人差し指で涙を拭った。

「…ごめんな、こんな暗い話して…」

「いいぞ、気にすんな。」

と言いながら、智明が少しだけ晶に近付き、肩を優しく撫でた。

すると、晶が智明の方をチラリと見てから



「ありがとう、その…さ…やから…何が言いたいかって言うと…話したくない事とか…人に知られたくないような秘密、うちにだって山程あるのに…みんなの心読んで…全部知ろうとして…ごめん。」



元々少し曲がっていた背中をさらに曲げ、聞いているこっちも泣いてしまいそうなくらいの弱々しい声で謝罪の言葉を口にした。





「…誰にも言わないって約束してくれるなら、いい。」

次に静寂を破ったのは、龍馬君ではなく智明だった。

少し俯いていた顔を上げ、目を丸くする晶の瞳を真っ直ぐ見つめた。

すると、智明の瞳を見た晶が少しだけ悔しそうにボソリと独り言を呟いた。


「…勝てへんな、やっぱり。」

「…?何か言ったか?」

「何でもない、約束な!」

「おう、破ったらしっぺな」

「ちょっと待ってや罰軽すぎん?」

「じゃあ首ちょんぱはどう?」

「罰重っ」



…本当…何て言うか…晶って周りの雰囲気を全部持っていくよね。

私がしたら「情処不安定」とか「気分屋」って言われてしまいそうな事でも、晶だったら「仕方ない」って思われちゃいそう。

まぁ、現に私がそう思ってるんだけどさ。


それに、晶の普段の明るい言動と声色のおかげで「素は明るくて優しい人なんだ」って印象が消えないから、どんなサイコ発言をしても「根は優しい人」って印象は絶対に消えないんだよね。


…本当、怖くなる。

……尊敬してるんだけどね。



なんて考えながら、氷が溶け、少し薄くなったオレンジジュースを飲み、スナック菓子を1つ摘んで口に運ぶ。



…本当はオレンジジュースなんて大嫌いだし、氷の入った飲み物も嫌い。

今の時期、氷なんてすぐ溶けて飲み物が薄くなるし、身体を冷やしたら太りやすくなる。

お菓子だって、添加物が沢山入ってるしほぼ油の塊だ。

カロリーだってバカにならない。

本当は一口も食べたくないし飲みたくもないけど…。

……偽んなきゃ、生きてけないもんね。


拒絶する身体にそう言い聞かせ、ゆっくり咀嚼してから、ゆっくりと胃に流し込む。



…帰ったらすぐトイレ行こう。

胃に何か入ってんのが本当に気持ち悪い。


すると、晶が私の顔をチラリと見てから二人にこう話しかけた。


「あと、お詫びの印にもう1つだけ秘密を教える…何でも好きなこと聞いて。」

「なら…お前はどんな能力なんだ?」

「…ただモノマネが上手くなるだけや。」

「ほぉ、かっこいいじゃねえか」




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