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本当の主人公  作者: 正さん
三章
27/87

27話「014132751112411285」







「……行くで…。」

晶が 前髪と服装と呼吸を整え、一息置いてからインターホンを押した。


「ねえ晶、なんでそんなに緊張してるの?」

全部分かってるけど、なんとなーくからかいたくてそう尋ねてみると、下唇を噛み、少し潤んだ瞳で玄関の扉をじっと見つめた。


「…仕方ないやろ。」

…まぁ、そりゃあ緊張するか。


すると、直ぐにベージュ色の髪をした綺麗な女の人が顔を出した。

「はい…あ…えっと…?」

「…あ…さ…皐月…さん」

と、智明のお母さんの顔を見た瞬間、聞いたことのないくらい萎縮した声で名前を呼んだ。

…良かったね、やっと会えたじゃん。



「…君、確か…」

「はい、晶です…。」

「そっか……おっきくなったね」



「…ねえ、朱里さん。」

「ん?」

ぎこちない感じでボソボソと喋る二人を見ていると、龍馬君が優しく私の肩を叩き質問をしてきた。

「もしかして…智明のお母さんと晶さんって知り合いなの?」

あー、そっか、当然知らないよね。


「うん、というか…晶のお母さんと智明のお母さんが知り合いだったんだよ。」

と説明すると、小さく「あー」と声を出し頷いた。

「そうなんだ…」


…うん、そう。

知り合い「だった」んだ。

昔はずっと一緒にいたらしいけど、ある事があって、皐月さんや晶とも会えなくなっちゃったんだよね。



……私も会ってみたかったな、晶のお母さん。



なんて考えていると、智明のお母さんの背後から見覚えのある黒い髪の女の子が顔を出し、恐らく龍馬君に向かってこう言い放った。


「あ、ウジ虫野郎だ」

「げっ……華奈…ちゃん…」

う…ウジ虫野郎…?智明の妹口悪いな…。

龍馬君もちょっと落ち込んでるし…。

しかし 「げっ…」と言われたのが嫌だったのか、華奈ちゃんも少し眉にしわを寄せ、むすっと拗ねたような顔をした。


あぁ…どうしよう、めっちゃ可愛い…妹にしたい…。


その時、晶が「華奈」という名前に反応し、拗ねた顔をしている華奈ちゃんをじっと見つめた。


「華奈…?」

「そうだけど…あんたは?」

「晶、高2や、華奈は?」

「中3」

「来年高校か、よーく顔覚えとくわ」

「よく覚えときな、私はすぐ忘れてやるけど」

「そうか、可愛い奴やな」

「あんたもな」


…えっと…?初対面だよね…?なんで気持ち悪い感じで打ち解けてんの…?








「…龍…?朱里…?」

その時、私達が今日までずっと聞きたかった声が、二人の後ろから聞こえた。

男らしいんだけど低いわけじゃなくて、でもお腹の底まで響きそうな、






私の、大好きな声。


「…智明…」







すると、智明と私の声を聞いた皐月さんが、智明と私達を見比べてから、少し楽しそうに

「あー!そっか、智明のお友達か!分かった!さ、入って入って!」

と言いながら強引に私の手を引いた。

「え、あ、ちょっ…」

「いいからいいから!」

ど、どうしよう…入ってもいいけど…こういう時の礼儀とか分かんないし…。


「晶…助けて…」

小声で晶に助けを求めると、晶が嬉しそうに

「良いやん、お邪魔させて貰おうや!…お菓子貰えるみたいやし…な?」

と言いながら皐月さんの方へ歩み寄り、にっこりと微笑みかけた。


「ちょっ…晶…!」

いくらお母さんが知り合いだったからってそんな事言っちゃ迷惑だよ…。

なんて考えていると、皐月さんが嬉しそうに大声で笑い

「ははは!あぁ、そのがめつい感じあいつそっくり!良いよ良いよ!龍君も、ほら、入りな?」

と言いながら、私達のやりとりを見守っていた龍馬君も家に招き入れた。

…晶に関わる人達ってみんな晶に甘いなぁ…。

まぁ…私も甘くしちゃう一人なんだけど…。













「今お菓子と飲み物持ってくるからね」

「はい、ありがとうございます」

皐月さんの案内で智明の部屋に入り、そっと中を見渡してみると、家具が木目のもので統一されてて、部屋の中央の方にある本棚の中も、漫画や小説が1巻から順番に並べ、左から右へ、本の大きさが揃うように整理されていた。


わー…清潔にしてるなぁ…私の部屋と交換してほしい…。

見習わなきゃ…。

帰ったら部屋掃除しようかな?

…帰りたくないなぁ。


なんて考えながら部屋を見ていると、智明が私の肩を叩き、少し耳を赤く染めながらこう言った。

「……あんま部屋見んなよ、恥ずかしいだろ。」

「え、あ…ごめん……」

そっか、そうだよね、恥ずかしいよね…。

何も考えずに入っちゃったけど…ここ…智明の部屋だもんね…。


…智明の部屋か…。

……智明の…。


……ダメだ、また考え込んじゃった…。

「おい、だから見過ぎだって」

と言いながら少し照れ臭そうに笑っている智明の隣に座り、横目でチラッと顔を見てみると、よからぬ考えが頭を過った。


…もし、もしもさ。

晶と龍馬君がリビングに行って、私と智明が二人きりになったら…何か、起きちゃったりするのかな。

いや、流石に付き合ってないのにそんな事…。

じゃあもし私が告白したら…?智明が頷いたら?気を利かせた二人が「ごゆっくり!」なんて言って帰っちゃったら?


あああ本当何考えてるんだろ私……誰か私の顔面一発殴って……。


心の中で自分を責めていると、ふと私の向かいに座った晶と目が合った。

……あっ…。


色々察した時には遅く、私の心を読んでいた晶が、まるで海外映画のヴィランのように口角を上げにんまりと笑った。



…殺す。

「お待たせ、みんなオレンジジュースで良かった?」

晶を睨みつけ、心の中で脅したその時、ちょうど良いタイミングで皐月さんが飲み物やお菓子を持ってきてくれた。


「はい!ありがとうございます…!」

飲み物を私達の前に置く皐月さんにお礼を言うと、嬉しそうに数回頷き、晶の顔をちらりと見て、何故か見せつける様に数回瞬きをした。


…何かの合図かな…?モールス信号とか?でも初対面なのに何で合図があるんだろ…。


不審に思った私は晶へ視線を移動させてみると、合図を受け取ったのか、晶が皐月さんを見て一回頷いた。

…何を伝えたんだろ…

7回らい瞬きをしたから…確か昔覚えたんだけど…んー…。

……ダメだ、思い出せない…。

…まあいいか…晶の事を詮索する気なんて無いし…プライバシーに踏み込み過ぎたら迷惑しちゃうよね。

気にしないでおこう。

……よし。



皐月さんが部屋から出たのと同時に、少し気まずそうに俯いている智明に


「智明…なんかすごい髪伸びたね」

と言いながら髪を撫でてみると、少し顔を上げ、照れ臭そうに笑った。

「そうか?…久しぶりに下ろしてるとこ見たからじゃないか?」

「ふふ、そうかも」


本当、かっこ悪いけど…見るたびに惚れ直してしまう。

…なんでこんなにかっこいいんだろ、鼻も高いし……俳優とかいけるんじゃ………あっ。


向かい側から送られてくる強烈な視線を感じ、大急ぎで智明の髪から手を離す。

…しまった…晶が心読めるってこと忘れてた…。

……なんで学習しないんだろう…私…。



すると、案の定晶がおどけた話し方で冷やかし始めた。

「おぉ?いいねんで?もっといちゃついても…な?」

「そうだよ…ほら…僕達がお邪魔ならどっか行くしさ…?」

「やめてよ…もう…龍馬君まで…。」

本当私何してんだ…馬鹿みたい…。


耐えられなくなって熱くなった頬を両手で覆い隠すと、隣から大好きな声が聞こえ、指の隙間からそっと智明を見てみると、私の大好きな笑顔で優しく微笑んでいた。

「おい、耳まで真っ赤じゃねえか…そんなに俺と会いたかったのか?」

「……当たり前でしょ」


本当…智明どこでこんな事覚えたんだろ…。

大袈裟なくらい大きく深呼吸をして冷静になろうとすると、晶がいつもより少し低めの声でそっと話し始めた。


「智明、楽しいムードの時に申し訳ないんやけど…」

あぁー、もう本題に入るのかな…。

と思っていると、目の前に置かれたスナック菓子を指差し、小さな声でこう呟いた。

「…これ…食べていいよな…?」


…晶のこういうとこ好きだな。

分かるよ、初めて来るところは緊張しちゃうもんね…。

「…おう、食っていいぞ」

智明がそう言うと、嬉しそうに小さい欠片を口に運んだ。








「そこで彩ちゃんが私の地雷持ち出してさ…。」

「二人って本当に仲良しなんだよね…?」

「なぁ、」

4人で智明のお母さんが持ってきてくれたお菓子を食べながら雑談していると、突然晶がこんなことを口にした。


「あー…話ぶった切ってごめんな…智明さ、もしかして罪悪感とか抱いちゃってる?」

「……え?」

「今ふと思ったんや、もしそうなら…お前優しすぎるなって。」

…どうしたんだろ。

もしかして、話してる間ずっと智明の心読んでたのかな…?


晶から智明へ視線を移動させると、智明がちらっと私の顔を見てから、聞いたことの無いくらいか細い声でぽつぽつと話し始めた。


「…佐江、抵抗しなかったんだ。」

「…え?」

「俺が何発殴ろうが…逃げようとも、やり返そうともしなかった。」

そう言ってから、下唇をぎゅっと噛み締め大きく息を吐いた。


…智明…。


「…佐江を殴っている間…自分が自分じゃ無くなっていくような…そんな気がしたんだ。」



智明の部屋が静寂に包まれたその時、さっきまで黙り込んでいた龍馬君が口を開いた。

「…智明さ、もしかして「俺が100%悪い事にすればみんな傷付かなくて済む」とでも思ってんの?」

「…!」

えっ…龍馬君…こんな事言える子だったんだ…。

正直甘く見てたな…ただの気が弱い子だと思ってた。


「そんな事したからって三人の怪我の治りが早くなるわけじゃ無いんだし…正直時間の無駄だと思う。」

…怪我をした人に佐江も含めちゃう所、優しい龍馬君らしいな。

「…うん。」

「正直、あれ以外にもいい方法があったはずだし、智明のやったことは100%許されるわけじゃないよ。」

「…うん。」

「でもさ?…今はそれが分かってるだけで十分だと思うんだ。」

「…うん。」

「…大丈夫だよ、智明は智明なんだから。」

「…ありがとな。」

「んーん…あんまり気にしないで、」


…龍馬君が智明の幼馴染で良かった。

もし私が幼馴染だったら…多分、いや、きっとこんな言葉掛けられない。

私じゃなくて、晶でも、彩ちゃんでも、明人君でも…きっと。


少し照れくさそうに笑う二人を見ていると、晶も嬉しかったのか、少し高めの声で楽しそうに話し始めた。


「せやで智明、それにさ


















佐江を裏で操ってたんはうちなんやし、そんなに考え込む必要無いんやで。」


「…は?」


晶…今…何て…。

晶が突然発した言葉のせいで、晶以外の全員の思考が停止し、さっきまでの賑やかな雰囲気が一瞬で変化した。


…佐江を裏で操ってたって…晶が私と自分を襲わせて、智明に佐江を…?でも何のために…。

晶の顔を呆然と眺めていると、これから最近出来た友達の自慢話をする時のように、明るい表情で話し始めた。


「佐江の本名はイ・パラ、韓国と日本のハーフの子やねん。」


…理解が追い付かない、なんで私はパラの存在を知らなかったの…?

どうやって隠してた…?

なんであんな事件を起こしたの…?

なんて、必死で脳味噌を回転させていると、晶がみんなの心を読んでいるのか、数回ゆっくりと頷いてから、さっきよりも優しい表情でこう言葉を続けた。



「パラは最近日本に来たばっかの…かわいいかわいいうちの部下や。」





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