25話「忘れてくれへん?」
…晶さん困ってるな…。
確かに知り合って間もないやつに「なんで腐ったの?」って聞かれても少し困惑するに決まってる。
僕なら多分
『な…なんでだろう……?忘れちゃった…あはは…』
みたいな事を言ってはぐらかしちゃうよ…。
あーどうしよう…。
「晶さん…あの…」
質問を取り消そうとすると、僕が慌てているのがそんなに面白かったのか、晶さんがクスクスと笑いだした。
「ふふふ…そんな慌てんでいいのに」
「で…でも」
「そんな気使わんでええよ、うちは全然大丈夫やから」
と言いながら、僕の肩をポンポンと優しく叩いた。
…晶さんは優しいな。
「…晶さんかっこいいね」
「今更気付いたんや、遅れてるな」
「そういうのいいからさっさと話して」
「!?…な…なんでうちが腐女子になったか…やんな?」
晶さんのボケをぶった切ると、目を見開いてから僕の質問を繰り返し、数回頷いてからこう答えてくれた。
「まぁ、一番は朱里が勧めてきたおかげやねんけどさ…それだけじゃなくて、ちっちゃい頃から男に囲まれた生活してて自然とな…。」
「そうなんだ…」
男に囲まれた生活…?兄弟がいっぱい居るのかな?
だとしたら…晶さんは絶対良いお姉さんだろうなぁ。
なんて呑気なことを考えていると、晶さんが少し震えた声で、こう呟いた。
「龍馬結構頭いいからさ…朱里から聞いた事合わせたら…色々察せるやろ?」
…朱里さんから聞いた事…か。
あのメモの事かな。
『大きな声じゃ言えないんだけど、
晶とは昔からの仲なんだ
だまっててごめんね
私もまだ死にたくないんだ』
…だっけ。
男に囲まれた生活で…2人は命に関わるような危ない事に関わってるって事?
…
……まさか、ね。
いや、もし本当に僕の勘が当たってたら、あの日晶さんが怖いお兄さんから逃げた理由も分かる。
…本当に、友達にならないほうがよかったかも…。
すると、晶さんが突然、僕の考えてることを察したのか、あの日の帰り道と同じように低い声でこう呟いた。
「やからさ、うちはうちらしく生きようと思うんよ、今までもこれからも…ずっとな。」
晶さんがそう呟いた瞬間、僕の首に何かひんやりした物が触れた。
それが晶さんの手だと気付いた時には遅くて、力強く首の後ろをがっしりと掴まれていた。
「何…してるの…?」
晶さんの行動が理解出来なくて、固まっていると、少しだけ僕の首に爪を立て、晶さんがまるで僕を脅しているかのようにこう呟いた。
脅しているように、というか…本当に脅しているんだろうけど。
「なぁ…さっきの事ぜーんぶ忘れてくれへんかな?松田。」
「…え?…忘れるって、どういう意味…?」
「そのままの意味や。」
そんな平然と言われても…。
「黙っててくれ」って言われると思ったのに…なんで…?
これも晶さんの考えなんだろうけど…。
晶さんのしている行動が理解出来なくて固まっていると、晶さんが僕の恐怖心に気付いたのか、僕の耳に優しくこう囁いた。
「…怖いの?」
…怖いに決まってるじゃん…。
さっきまで普通にしてたのに、突然脅されたりしたら…。
そっと頷くと、晶さんが少し焦った様子で言葉を続けた。
「そっか、怖がらせてごめんな、うちもこんなことしたくないねんけど…」
と言いながら、僕の首を掴んでいた手を移動させ、
そっと、僕を優しく抱きしめた。
「ちょっ…!晶さん…!?」
さっきまで僕を脅してたのに、なんでいきなり…。
「…何?」
「は…離れて…」
と言い、晶さんの右腕を掴んで無理矢理剥がそうとすると、右腕を離し、左腕だけでさっきよりも強く僕を抱きしめた。
「……いやや、離れへん」
なにそれ…。
あーもう…どうしよう…。
身動きが取れなくて固まっていると、晶さんが楽しそうにくすりと笑ってから、僕をからかうようにこう言ってきた。
「…龍馬君って結構ウブやな…」
「…そうかな…」
僕がウブというか…晶さんがいろいろ慣れてるだけなんじゃ…。
「誰が尻軽やねん。」
「そ、そこまでは言ってないよ!」
またナチュラルに心読まれた…。
…そういえば晶さん、前に心読める子と知り合いだったって言ってたけど、その子の能力をコピーしてたのかな?
だからナチュラルに心読めるんだ…。
「察しいいやん、部下に欲しいわ。」
…ほら、言ったそばから。
なんかもう慣れちゃったよ。
「部下…?」
晶さんにそう問い返すと、呆れたように言葉を続けた。
「そう部下、日給三万でどうや?うちの手作りやけどしっかりご飯食べれるし…龍馬君に似合う洋服も買ってあげるよ?それに能力についても調べ尽くしてあげる。」
これは…勧誘されてるんだよね?
本気なのか冗談なのか分からないよ…。
「うちは仕事の話じゃ冗談言わん主義やねん、分かるな?」
また心読まれちゃった…
どうしよう…本気なんだ……。
下唇を噛んで必死に頭を働かせていると、晶さんが僕から腕を離し、さっきよりも優しくこう尋ねてきた。
「…うちに気い使ってるんやったら日給は出さへんし、仕事も簡単な事しかさせへんけど…それでも嫌かな?」
え…?そこまでしてでも僕が必要なの…?
晶さんの考えてることは分かんないや…。
…でも、少しでも晶さんの役に立てるなら…。
「簡単な仕事って、例えば…?」
興味本位でこう尋ねてみると、晶さんが嬉しそうに話し始めた。
「興味持ってくれたん?んーせやなぁ…簡単な仕事やから…計算とか書類の整理とかかな?無償やからそんなおっきい仕事任せられへんし…うち片付け苦手やからそういう存在がいたら助かるなぁー…あ、でも智明には内緒やで?」
と、腕を組み、楽しそうに数回頷きながら説明をしてくれる晶さん。
書類整理か…いい社会勉強になりそうだし、それくらいなら…助けになれそうかも。
と考えていると、晶さんがまた僕の心を読んで、勝手に返事をした。
「助けになってくれるん?ありがとう!!嬉しいよ!!」
…最初はちょっと怖かったけど、慣れたらそうでもないかも。
「んーん、こちらこそありがとうね」
とお礼を言うと、嬉しそうに「うん」と返事をした。
「あーでもほんまに無償ってのは気が引けるなぁ…朝ごはん作りに行ってあげよか?」
いや…女の子にそんな事させるわけには
「必要ないよ」
「でも…。」
「んーん、少ししか手伝えないからしてもらう資格無い。」
と答えると、晶さんが目を輝かせ僕の手をきゅっと握った。
「そんなん気にせんでいいのに…でもありがとうな?」
……こんなに喜んでくれるんだ…。
「んーん、こちらこそありがとう」
晶さんに向かってお礼を言うと、首を傾げ、僕を不思議そうに見つめた。
「晶さんの助けになれて嬉しいよ」
と言って微笑みかけると、目を少し見開き、突然頭を抱えた。
「あー!!!やっぱ無理!賃金は無理でも朝食は出させてくれ!!毎朝家行って作ってあげるからさ!!」
「毎朝!?いや、女の子にそんな事させるわけには…」
晶さんに朝から迷惑をかけるわけにはいかない…。
……あれ、さっき…何話してたっけ?
「いいから気にせんといて?うち料理あんまりできひんけどさ
龍馬君がいっつも食べてるインスタントの焼きそばよか栄養あるもん作れるよ。」
「…え?今何て…」
晶さんが言った言葉を確認しようとした途端、晶さんが僕の背後に回り込み、僕の背中に硬い金属の塊のようなものを押し当てた。
「ちょっ…晶さん…何して…」
僕の背後にいる晶さんにそう尋ねると、さっきと同じ声のトーンで、僕の背中に押し当てている金属について、こう質問してきた。
「これ、なんやとおもう?…チャカっていうんやけど…龍馬君にはちょっと難しいかな?」
…チャカ…?
晶さんが呟いた三文字の意味が分からなくて固まっていると、大きく息を吐き、僕の耳にこう囁いた。
「分からんのなら…今ここで音鳴らして教えたるけど?」
「…え?」
音を鳴らすって…。
「全然頭働いてないやん…かわいいなぁ…明人が夢中になるわけや…。」
と言いながら、背中から金属を離し、手に持っている金属の塊を僕に見せつけた。
「通報してもいいよ?…でも、こっちにも策がないわけじゃない、どういう意味か分かるな?」
やんわりと僕を脅す晶さんの手には、
拳銃が握られていた。
「…っ!?」
に…偽物だよね…?
本物を持ち歩くわけないもんね…晶さんがそんな事するわけ…。
「本物なわけない」と、自分に言い聞かせていると、晶さんが少しだけ笑い、
「いやぁ?これは本物のチャカやで?…持ってるだけでゾクゾクするな…もしかしてうちアブノーマルな趣味あんのか…?」
と言い、また僕の背中に拳銃を突き付けた。
…ど…どうしよう…。
「な…何がしたいの…?」
さっきまで仕事の話してたはずなのになんで僕に拳銃を突きつけるんだろ…。
もしかして仕事の話は冗談だったとか…?でも冗談を言う理由は?
……晶さんは、なんで僕を何回も脅すんだろう。
なんで僕を脅すたびに優しく接すんだろう。
…これが終わったらまた優しく接してくるのかな?
…中途半端だな…僕を脅して言いなりにしたいならさっさと足くらい撃てばいいのに。
弱虫が。
背中に押し当てられている拳銃をぎゅっと握り、少しだけ動じている晶さんにこう問いかける。
「晶さん…彩さんとは最近どう?相変わらず仲良し?」
「…あぁ、仲良しや。」
「そうなんだ、良かったね、彩さんは晶さんに出来た初めての『普通の』友達だもんね?」
僕がそう言った瞬間、晶さんが大きく息を吸い込んだ。
「…やからどうした。」
…釣れた。
よし、晶さんを見習って…僕も脅してみようかな。
呼吸する暇も与えずに。
「2人が異常だって事彩さんは知らないんだよね?女の子三人で彩さんだけ仲間外れなんだ。」
「…は?」
「あー!だからあの時不良に絡まれている彩さんを守ってたんだ!」
「…」
「そうすれば恩を感じた彩さんは晶さんから離れなくなるかもしれないもんね?」
「…やめろ、そんなんじゃない、ただうちは」
「彩さんはかわいそうだな、普通の女の子だったのに普通じゃない友達に利用されてさ?」
「…黙れよ。」
「彩さんだけは唯一普通だったのにさ?
…同情しちゃうよ。」
と言った瞬間、晶さんが僕から拳銃を離し、無理やり僕を振り向かせ、胸倉を掴み本棚に押さえつけた。
「彩の事も朱里の事も何も知らんくせに知ったような口聞くなや…脳天ぶち抜くぞ。」
…へぇ
「…やれよ、玩具で人が死ぬとは思えないけど。」
しっかり目を見つめてそう言いながら、僕の胸倉をつかむ手をそっと握ると、晶さんが下唇をぐっと噛み締め、僕から乱暴に手を離した。
「…玩具やっていつ気付いた?」
…やっぱり。
「普通に考えて、晶さんが銃を仕入れられるとは思えなかったから。」
と言うと、晶さんが数回頷き僕にこう尋ねた。
「……もし本物やったらどうしてた?」
「だとしても…晶さんは僕の事撃てないでしょ?」
少し首をかしげてこう言うと、晶さんが
「…まぁな、うちは弱虫やから…」
と呟き、少し悲しそうに笑った。
ちょうどその時、レジ袋を持った朱里さんが僕ら二人に話しかけてきた。
「ごめんね、人がすごい並んでてさ…。」
と、少し申し訳なさそうに眉を下げる朱里さんに「気にしないで」と言うと、少し泣きそうな顔で「ありがとね」とお礼を言ってきた。
…気のせいかもしれないけど、晶さんと朱里さん…表情の作り方が似てる気がするな。
昔からずっと一緒に居るから似たのかな・
だったら僕と智明も側から見たら似てたりするのかな?
なんて考えていると、晶さんが
「…うち本買ってくるから外で待っててくれへんかな?」
と言いながら、僕の選んだ本ともう一冊違う本を手に取った。
「分かった、待ってるよ。」
「龍馬君行こっか」
「うん」
「龍馬君」
本屋さんから出た瞬間、朱里さんが僕の名前を少し低い声で呼んだ。
「?」
隣の朱里さんへ視線を移動させると、僕が朱里さんを見た事が分かったのか、朱里さんも僕の方を向き、こう質問してきた。
「晶に何した?」
「…え?」
「晶になんか変な事吹き込んだでしょ?」
…何で…知ってるの…?
「知ってるとかじゃないんだよ、ずっと一緒に居たから分かるの、晶はさ、嫌な思いをした時と、事を早く済ませたいときは焦って口数が少なくなるんだよ。」




