19話「今頃」
廊下がざわざわと賑わっている。
いつもの比じゃないくらい。
「…?」
なんか…嫌な予感がするな…。
関わらない方がいいと思ったけれど、恐怖心よりも好奇心の方が勝ってしまい、廊下に出てみる事にした。
そして、目の前にいた、ひそひそと話している同じクラスの男の子二人に話しかけてみる。
「ねえ…何があったの?」
「あー、なんか女の事で揉めてるみたい。」
…女の事…?浮気とかそんな感じの話かな?
僕には関係ない話だろうな。
でも…こういうゴシップとか三角関係は智明の大好物だから…教えたら喜んでくれるかな…。
なんて呑気な事を思いつき、
「誰と誰が揉めてるとか…分かる?」
と尋ねてみると、隣の子と目を合わせ少し複雑な表情をした。
「…智明さん、確か…幼馴染だったよね…?」
「……えっ…?」
すると、この子の隣にいた子が、僕の肩を叩き耳にそっと囁いた。
「なんか…いきなり殴りかかったらしいんすよ…親の仇か!ってくらいボッコボコにしてて…」
…あいつ何してんの。
智明の女の話…多分朱里さんの事で何か揉めてるんでしょ?
賢い智明なら…もっとうまいこと出来たはずじゃないの…?
「…教えてくれてありがとう、君、名前は?」
と尋ねると、僕を真っ直ぐ見つめて、自己紹介してくれた。
「澁澤環、こいつは丸岳徹。」
…しぶさわたまきとまるおかてつ…
アニメに出てきそうなくらいかっこいい名前だな…。
…僕も人のこと言えないくらい名前かっこいいけど。
……なんて、言ってる場合じゃない。
ふざけるな、松田龍馬。
すると、徹くんが人混みの方を指差して
「俺ちょっと保健室行って色々貰ってきますね!」
と言いながら、環くんと僕にお辞儀をして保健室に走っていった。
「…環くんは智明と仲良いの?」
と尋ねると、首を振りこう答えた。
「…いや?名前しか知らないよ。」
「…そっか…」
…名前しか…か。
じゃあ…智明に対して悪い印象持っちゃうよね…。
……ちょっと、悲しいな。
根はいい奴なのに。
環くんの隣に立ち、環君の顔を横目で見てみると……顔つきというか…雰囲気が、どことなく智明に似てるような……。
その時、ざわざわ声がいきなり静かになった。
…何だろ。
行こうとすると、環くんが僕の肩を掴みこう言った。
「…今の智明さんを見たらきっと後悔する。」
…後悔……?
……智明が今、どんだけ血を浴びてようが、傷だらけになってようが
「…そんなんで後悔するくらいなら、今頃友達じゃなくなってるよ。」
と言ってから、環くんの手をぽんぽんと叩くと、
「……なら、良いんです」
ふんわりと笑って、人混みの方を指差した。
…環君…やっぱり智明に似てる。
似てるのを理由に何か余計な事を言われたりしないかな…。
余計なお世話だろうけど…損はしないよね…。
「環君も…色々気をつけてね。」
と言いながら環君に向けて手を振ると、手を振り返しながら優しく微笑んでくれた。
「うん、ありがとね……松田君。」
松田君…?
松田じゃなくて龍馬でいいのに…って、僕若干智明化してない…?
…智明…、待ってて。
ぐっと体の中心のあたりに力を入れ、人混みをかき分けながら中心にいる智明を見つけに行く。
…不思議だな、クラス表を見に行くときはこんな勇気なんて出なかったのに。
よし、もうすぐ中心だ…智明の金髪が見
「…………!」
名前を呼ぼうとしても、声が出なかった。
智明は、黒髪の男の子の胸ぐらを掴み、
幼馴染の僕でさえも見たことないくらい怖い顔をしていた。
「と……むぐっ…!」
また名前を呼ぼうとすると、口を塞がれ、無理やり智明から遠ざけられてしまった。
「…今あいつの名前呼んだらお前がターゲットになんぞ。」
…晶さん。
「すまん、苦しかったよな。」
「…晶さん……智明…何があったの?」
僕の口を塞いだ事を謝りながら、僕腕を掴み、どこかへ連れて行く晶さんを見ると、腕や脚、よく見たら首のあたりにも包帯が巻かれていた。
「……怪我してるの…?」
「せやで……智明はな、うちのせいであんな荒れてるんや。」
……晶さんのせいって…?
「晶さん…それどういう意味…?」
と、早歩きで歩いている晶さんに尋ねたその時、廊下にいる環くんと目が合った。
環くんは、晶さんを見た瞬間目を見開き、
「…晶……?」と小さな声で呟いていた。
……知り合い…?




