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本当の主人公  作者: 正さん
三章
18/87

18話「すみません、俺、何してんすかね」



5月9日




授業が終わり、家に帰ろうと廊下を歩いていると、男子トイレの方からでかい笑い声が聞こえてきた。


…?

そいつらの笑い声が妙に引っかかり、トイレ付近の壁に背を預け、話をそっと聞いてみる事にした。

いつもだったらこんな事しないのに…何だ?少し前に見た刑事ドラマに影響されちまったのか?俺。

あの主人公かっこよかったもんなぁ…。


…よし、影響を受けるなら隅々までやってやろう。

俺はあの刑事ドラマにゲスト出演した俳優、沢田智明だ。

俺が出演した回は伝説としてファンやマニアの間で語り継がれるんだ…。

さて…ホシの動きはどうだ…?




「佐江先輩マジクズっすねぇ!」

「俺はクズじゃねえよ…ただあの女が見る目ねえだけだ。」



何だ、不良の自慢話か…つまんねぇ。

まぁ何事も無い方が良いんだけどな?

「出番がないのが一番良いんだけどな」って主人公の親友…まぁ俺にとっての龍馬が言ってたもんな。

龍馬、お前が正しいよ!!

まぁ龍馬はあいつほどタフじゃないけど、心の奥底にはマグマみたいな男気を隠し持ってるからな!!


と思い、立ち去ろうと離れた途端、また不良達が話し始めた。

「でもあいつ元ヤンだって聞いたから集団送ってみてもピンピンしてやがる…ありゃもうバケモンだな。」


…ただのクズだな、こいつ…。

でも、この声どっかで聞いたことあんな…。

…なんか…普通に喋ったら…

良いとこの坊ちゃんみたいな爽やかな声になりそうだ。

気のせいか…?…気のせいだな。


背を向け、今度こそ帰ろうとすると、

ある名前が聞こえて、身体が固まってしまった。


「智明なんかに片思いしてっからこんなことになんだよ、あのバカ女。」


…なんで…今…俺の名前が……?


「智明のどこが良いのかねぇ、ただの金髪バカなのに」


頭の整理が追いつかない。

まさか、トイレにいる奴って、もしかして。


すごく、嫌な予感がする。




「あいつのダチの晶っていんだろ?あいつボコしといたし、あとは時間の問題だな!」

「まじすか!」

「おうよ!」














…俺…何してんだろ。















「私はお前が好きなのかもしれない」


____の口から発された言葉に、口に含んだコーラが喉に引っかかり、噎せてしまった。

「ゴホッ!……は…?お前……何言ってんの…?」


左手で口を押さえ、右手で鞄を漁ってティッシュとハンカチを取り出す。


____は、そんな__を見て、ゲラゲラ笑い

「嘘に決まってるだろ!」と、目尻に溜まった涙を人差し指で拭いながら言った。


「おい…____、笑いすぎ。」

いつもより低い声で____の名前を呼ぶと、数回頷き、嬉しそうに

「ごめんごめん、でも…そんな反応するってことは…?」

と言った。

「んなわけあるか」

「だよねー!」


……なんか、こいつといたら…ずっと振り回されてるような気がする。


こいつの言動に困り果てていると、そいつはニヤニヤと笑い、自分の髪を撫でながら質問をしてきた。


「__、私茶髪似合う?」


話を変えるタイミングが唐突すぎる…

ん?あー…そういえば、こいつ…一昨日髪染めたんだっけ。


地毛は茶寄りの黒だったからそんなに変化はないけど……。

いざ言われてみれば、茶が濃くなってる気がする。


……こいつには…正直に、感想を言った方がいいかな。

「似合うけど」

「けど?」

「黒の方が____らしくて好きだった」

というと、嬉しそうに数回頷き、こう言った。


「そっか…なら」

「なら?」


「__が卒業したら、黒に戻して会いに行くよ。」



言い終わった後、にんまりと微笑み、自分のドリンクのストローを、嬉しそうに噛んだ。

……なんだ、それ。

「勝手な事言ってあいつら困らせんなよ?」

「せっかく手に入れた立場なんだから、利用させてもらうよ?」

「……はいはい」


……これじゃどっちが年上か分かんないな。


……こいつなら、


こいつなら、信じられるかもしれない。


なんて、



……あぁ、コーラって…こんな味だっけ。


…____。


__は、お前を愛せるようになりたいよ。

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