17話「全部嘘に決まってるだろ」
ゴールデンウィークが終わり、学校が始まった。
6人で遊んだ時、ゴールデンウィーク中には彩さんを遊びに誘うって約束したけど…なんだか誘いにくくて誘えなかったな…。
…予定が合う日があったらちゃんと誘おう、ちゃんと。
と、考え事をしながら教室の扉を開こうと手を伸ばした時、ふと明人君のことを思い出し、伸ばした手がビクリと震えた。
…明人君、僕の事…あんなに好きだったんだ。
なんだか、ちょっと…会うの気まずいな…。
押し倒されたし……キスもしちゃったし…。
…智明のお腹…思いっきり殴ってたし…。
…なんか…明人君だけじゃなくて…みんなと会いたくないな…。
………帰ろうかな…。
…ダメだ、そんな事考えちゃダメ。
大丈夫。僕なら平気だよ、大丈夫。
手をぎゅっと握りしめてから、覚悟を決め扉を開くと、僕の目の前にクラスメイトが沢山集まっていた。
厳密には僕の前じゃなくて明人君の周りに、だけど。
自分の席に荷物を置いてから、明人君の席を見てみると、クラスメイト(ほぼ女の子)が集まっている中心に、めんどくさそうに頬杖をついている明人君がいた。
制服のボタンを何個か開けて…面倒臭そうに頬杖をついてない方の手で毛先をいじってる。
…へぇ…明人君…前髪分ける事にしたんだ…。
…やっぱりかっこいいな、明人君。
髪の毛で隠してた時から分かってたけど、鼻がすらっと高くて目もぱっちりしてるし…ここからでも分かるくらい睫毛が長くて…。
なんだか、あんなにかっこいい人が友達なんてちょっと嬉しいな。
あの集まってる人達は明人君がかっこいいって事を今の今まで知らなかったんだよね…?
本当人生損してるなぁ…知ってて良かった…。
なんて事を考えながら授業の準備をしていると、明人君をいじめていた女の子が明人君へ話しかけている声が聞こえた。
…懲りないなぁ、あの子。
でも、今の僕には力があるんだ…もし何か余計な事をしたらこの僕が…!
…まぁ、そんな勇気があれば…の話だけど。
なんて思いながら明人君と女の子の方へ視線を移動させると、明人君をいじめていた女の子が明人君の頭をぽふぽふ叩きながら
「えー何?イメチェン?意外とかっこよかった系のキャラ狙ってんの?浮いてるしそこまで変わってないよ根暗君??」
と意地悪を言っていた。
いや変わってるでしょ…めっちゃかっこいいじゃん…。
「おい!お前らまた何してんだ!」
するとその時、智明が怒りながら教室に入り、女の子に注意した途端、明人君が
「ベタベタ触んじゃねえよ、下衆が感染るだろこのクソデブスが。」
と言いながら女の子の手を払いのけ、ギロリと睨みつけた。
あ…明人君…?
まさか明人君…仕返しする気…?
2人の事を止めに行こうと立ち上がった瞬間、女の子が何かを決心したのか、明人君の胸ぐらを掴み、
「…何言ってんの?下衆はあんたでしょ?智明に守ってもらわなきゃ生きてけない癖にさ!」
と言い、明人君を扉へ叩きつけた。
ちょっと、あれは流石にやりすぎじゃないの…。
注意の為に大声を張り上げようと喉に力を入れた瞬間、明人君の低い声が、静かになったクラスに響いた。
「…智明智明うるせえな…お前こそ守ってもらわなきゃ生きてけねえんだろ?」
…あ……明人…君…?
明人君の行動に驚き、立ち上がったまま動けずにいると、明人君が女の子の全てを否定するようにふっ、と笑い、女の子の前髪をぎゅっと掴んだ。
「ちょっと!痛いんだけど…!」
女の子は痛みで少し顔を歪ませ、ギロリと明人君を睨みつけた。
しかし、明人君は手を離さず
「僕はこの倍痛かった。」
「はぁ!?」
「いいやこの際痛みなんかどうでもいい…お前は大切な事を忘れてんだよ。」
と言いながら女の子にぐっと顔を近付けた。
「…僕を助けたのは智明だけじゃない、龍馬さんもだ。」
「なにそれ…龍馬!?それの何が関係あんの…!」
女の子が明人君の手を掴み、爪を立てて無理矢理手を髪の毛から剥がそうとする。
しかし、明人君は少し痛そうな顔をしてから
「関係しかねえんだよ…お前は智明に夢中で大切なことを見逃してんだ!お前は龍馬さんが僕を助けてくれたっていう僕の中での最高の思い出をぶっ壊そうとしてんだよ!」
と言い放ち、女の子の髪から手を離してから、女の子を黒板の前に突き飛ばした。
そして、黒板の前に座り込む女の子の前に立ち、少し乱れた前髪を整えながら女の子を見下した。
すると、さっきまで明人君に喧嘩を売っていた女の子が、明人君の纏う雰囲気に萎縮したのか、ぐっと黙り込み、今にも泣き出しそうな表情をした。
「おい明人、それ以上はやめろ。」
その時、智明が明人君の肩を掴み、女の子から無理やり遠ざけた。
すると、明人君は智明をギロリと睨んでから軽く舌打ちをし、智明の隣を通る時小さくこう呟いた。
「…お前、邪魔する事しか脳がねえくせによく一軍になれたな…それもその作り上げたキャラのおかげか?」
「……!!」
「僕と同類のクセに僕に同情すんじゃねえよ、社会のゴミが。」
「…池崎、お前…どこまで知ってる?」
「全部。」
僕は、二人が話している言葉の意味が分からないまま、その場に立ち尽くすことしかできなかった。
…こんな時、アリスなら…どうしてたんだろう。
………明人君……。
お昼休み。
智明を誘おうにも誘えず、食堂に一人で向かっていると、後ろからこっちに走ってくる足音が聞こえた。
「龍馬さん…!ちょっと待ってください…!」
…あれ、この声はもしかして明人君?
ど、どういう対応すれば良いんだ…?
とりあえず普通に「明人君!」とか言えばいい?どうしようどうしようどうしようあぁ足音が近づいてる!えぇいままよ!!
目をぎゅっと瞑りながら、思い切って振り向き瞼を開けると、そこには誰もいなかった。
……気のせい…?
不思議に思いながら、身体の向きを戻すと、
「よっ!龍馬くん!学食いこ?」
「うわぁ!!!」
目の前には、ニコニコと微笑む晶さんが居た。
……さっきの声は…モノマネだったのかな。
晶さんは器用だなぁ…。
…それより…今僕が会いにくい人ナンバー3に入る人に話しかけられてしまった…気まずい…。
晶さんにバレないよう、ズボンで手汗を吹き、トークの話題を考えるために窓へ視線を移動させると、気まずい雰囲気を察したのか、晶さんの方から話しかけてくれた。
「龍馬君、明人の事びっくりしたやろ。」
明人君の事か…ここは正直に答えた方がいいよね。
「うん…びっくりしたよ…晶さんは明人君の事知ってたの?」
と尋ねると、晶さんが数回頷いてから耳を疑うような事を呟いた。
「うん、てか…あの大人しいキャラで龍馬くんに接触しろって言ったのうちやしな。」
「へぇ……えっ!?」
……てことは…晶さんと明人君は昔からの知り合い…なのかな?
「昔からの知り合いちゃうよ、高校入ったらなんかストーキング行為してる奴がいたから注意した事が始まり!」
わ…ナチュラルに僕の心読んだ…怖い…。
何とか焦ってるってバレないように話を続けなきゃ…。
「…ストーキング行為って?僕の事を?」
と尋ねると、どこか嬉しそうに、恐らく高校一年生の頃の明人君の真似をし始めた。
「そうそう、校門でこーやって爪先立ちして覗いててん!デヘデヘ笑いながらな?正直気持ち悪かったわ…。」
「あはは…。」
…明人君デヘデヘ笑ってたんだ…ちょっと想像出来ないな…。
一回明人君のそういう格好悪い姿も見てみたいけど…一生無理だろうな。
なんて考えながら、晶さんの物真似を見ていると、晶さんが少し残念そうに眉をひそめた。
「しかし…ちょっと長めの片思いやなぁ…青春やわ…羨ましい。」
しかし、どこか誇らしそうに自分の胸を撫で下ろす晶さん。
……明人君と晶さん…本当に仲良しなんだな…。
それにしても…長い片想いか。
僕には一生縁のない事だと思ってたからちょっと複雑だな…。
…一年間…か。
…あれ?じゃあ…あの良い雰囲気だったのは友達だからってこと…?
もしかしたら、明人君のサポートをしたように…晶さんにも好きな人が居てお互いサポートし合ってたり…?
…聞いてもいいかな?いいよね。
「…晶さんは、好きな人とかいないの?」
恐る恐る尋ねてみると、少しだけ目を見開き、
「………好きな人…?」
と、確かめるように一文字ずつ声に出して悩み始めた。
「気になる人でもいいよ!いない?」
首を傾げながらもう一度こう尋ねてみると、少し困ったような表情をし、僕から顔を背けた。
…居ないのかな…?恋話とか苦手な子だったか…?
だとしたら申し訳ない事したな…智明と一緒にいるせいで感覚バグっちゃった…。
と思い、晶さんの顔を覗き込むと
額から汗を流し、焦った表情で、ぽそぽそと呟いていた。
「…好きな人…?好きな人……好き…な人…。」
「…晶さん……?」
名前を呼ぶと、そっと僕を見て
「……居ないよ。」
と、恐る恐るつぶやいた。
「…そうなんだ…」
……もしかして、居ないって…。




