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本当の主人公  作者: 正さん
二章
15/87

15話「弱いもの(笑)」



5月2日、水曜日。


明人君がいじめられていた日から、ちょうど一週間が経った。

あの日から一週間しか経ってないからか、毎日のようにあの日を思い出しては、何故かとてつもなく不安になってしまうんだ。


また明人君がいじめられてしまうんじゃないか、とか。

今度は僕までもがターゲットになるんじゃないか、って。

まぁ…最近はいじめられないって明人君が言ってたし…今のところは安心しても大丈夫なのかな。


なんて事を考えながら、ざあざあと激しく降っている雨を見ていると、靴箱から僕の方へ走って来るような足音が聞こえた。


少し気になって後ろを振り向くと、体力が無いのか、僕から少し離れたところで呼吸を整えている明人君がいた。


「明人君…、どうしたの?忘れ物?」

傘の柄に充てていた手をそっと離し、明人君に恐る恐る話しかけると、こっちに少し近寄ってから話し始めた。


「ごほっ…あ…あの…明日…暇ですか?」

「明日…暇だけど、どうしたの?」

と尋ねると、「良かった、」と小さく呟いてから

「…この前の、お礼をしたいんです…だから…その……」

と、湿気で少し髪が広がるのか、自分の後頭部を撫で、僕の顔色を伺いながら、恐る恐るこう言葉を続けた。



「…僕の家、来てくれませんか…?」









次の日、明人君に家の住所を教えてもらい、携帯の地図を見ながら家へ向かう。

まさかゴールデンウィーク初日に明人君と会えるなんて思わなかった…。


「……ここ…かな?」

地図と辺りの景色を注意深く見ていると、大きなマンションの前で、僕を待っている明人君を見つけた。


「龍馬さん…!」

僕に気付くと、まるで飼い主を見つけた子犬のようにパタパタと駆け寄ってくる明人君。


「明人君、お待たせ!」と言うと首を振り小さな声でこう言ってくれた。

「全然…待ってませんよ…!」

…優しいなぁ、明人君。






「今度僕の家来る?大したおもてなしはできないけど…。」

「え…い、良いんですか…?」

「勿論!」

明人君と二人で軽い雑談をしながらマンションのエレベーターに乗っていると、ふと智明のことを思い出した。

「そういえば明人君、智明の事は呼ばなくていいの?」

と言うと、忘れていたのか、携帯を取り出して智明にメッセージを送り始めた。


ま…まさか忘れてたとは…。

いつもは僕が忘れられてる側なのに…ちょっと新鮮だな…。

すると、明人君が何かを察したような顔で

「…龍馬さんに言ってもらうまで智明の事忘れてました…。」

と、まるで一つ一つの単語を確かめるようにゆっくりと呟いた。

…明人君って結構ドジなところあるんだなぁ…。



「じゃあ言わないほうがよかったかな…?明人君のお礼独り占め出来たかも…。」

エレベーターから降り、そう言いながら、わざとらしく口角を上げて笑ってみると、少しだけ戸惑った後、クスクスと笑ってくれた。


…本当に可愛いな、明人君。





「…あ…ここです…ちょっと待ってくださいね…。」

明人君が、エレベータから少しだけ離れた位置にある黒い扉の前に立ち止まり、ポケットから取り出したカギをカギ穴に差し込んで、ゆっくりと扉を開けた。

306号室なんだ…またお邪魔する時があるかもしれないし覚えとこ…。


「お邪魔します…!」と言いながら靴を脱ぎ中に入ると、中は思ったよりも静かで、少し違和感を感じた。


「…一人暮らしなの?」

と聞いてみると、首を横に振り小さな声で答えてくれた。

「いや…姉さんと住んでます…今日は大事な予定があるみたいで、朝から留守にしてますけど…。」

姉さん……?彩さんと一緒に住んでるんだ…。

なんか、ちょっと…羨ましいかも…なんて。

…いや、ダメだ、何考えてんだ僕…。

なんかちょっと変態チックになっちゃったし…冷静になろう、深呼吸深呼吸。


「龍馬さん…?どうかしましたか?」

「ん?何でもないよ、心配しないで。」

「そ…そうですか…?」

「大丈夫大丈夫。」

「あ…ならいいんですけど…部屋…こっちです…。」


明人君に案内され、玄関を入ってすぐの場所にある部屋の中に入る。


明人君の部屋は黒と白で統一されてて、タンスの上とか色んなところにアニメのグッズやポスター、それと綺麗な風景の写真が飾ってある。

センスいいなぁ…


タンスの隣にある本棚には、漫画や小説が1巻から丁寧に並べてあり、明人君の綺麗好きな性格が出ていて…でもよく見ると、漫画と小説で隠すように…BL本と思わしき者が並べてあった。

上手だなぁ、明人君…。


部屋の隅にあるベッドには、枕元にクッションやペンギンさんのぬいぐるみが並べてある。

…このペンギンさんお気に入りなのかな、かわいい…。


部屋をきょろきょろと見渡していると、明人君が何かに気付いたような表情をしてからこう言った。

「あ…ここ…座ってください…。」

「ご…ごめんね…明人君…ありがとう…。」

…座る場所に悩んでた事バレちゃった…。


明人君が指を刺した場所へ腰を下すと、明人君が何かに気付いたように小さく声を上げ、小さな声で

「あ…そうだ…飲み物、持って来ますね…。」

と呟いてからニッコリと微笑み、部屋から出て行った。


…そんなに気を使わなくていいのに…いや、普通使っちゃうか…。


…なんか…落ち着かないな……どうしよ…。

にしても…明人君の部屋って整頓されてるな…僕の部屋とは大違い…。

なんて思いながら明人君の部屋をまた見渡していると、目の前の机の下にある引き出しが少し開いていた。


…机の中に引き出しがあるならここに本隠せばいいのに。


と思いながら引き出しの中をそっと見てみると、中にノート3冊と写真が入った分厚いファイルが入っていた。

ノートにはそれぞれ番号と日付けが振ってあり、ファイルにも同じく番号が書いてある。



「……なんだろ…これ…」


明人君への罪悪感より、好奇心の方が勝ってしまい、適当にノートのページを開く。








後でノートを見たことを心から後悔するとは知らずに。





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