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アリスの憂鬱

親友の創作キャラを使わせてもらっているので転載、自作発言は禁じさせてもらいます

ガチャガチャとうるさいティーカップ。

 それを囲むのは俺と三月うさぎと眠りネズミに帽子屋。

「今日のお茶会は右回りでしたね。私はティーポットの前に座りますから三月うさぎさんは私の隣に、その隣にはアリス、私のもう片方の隣には眠りネズミが座ってください」

 茶髪のすまし顔が癖になっている帽子屋はそう言って円形のテーブルの俺達が決めた『真ん中』と呼んでいるティーポットの前に椅子に座った。

 帽子屋の左には三月うさぎ、右には眠りネズミ、そして前には俺が座る。この座り方も俺達が決めたルールだ。

 ティーポットの前に座る人は今日の指揮者、紅茶を注ぎ今日の話題を決める。

 帽子屋は俺達が席につくと小さいその顔には似合わない使い古した様子の大きいシルクハットを危なっかしく揺らしながら紅茶を注いでいく。帽子が揺れるたびに落ちないようにと片手でその帽子を手で抑えるところを見るとどうして外して注がないのかが疑問になる。

 大切な人からもらったものか、それとも自分で初めて作った帽子か、不格好なその帽子は長年使われているように見えるがそれでもボロボロになっていないのは帽子屋がそれを大切に使っているからなのだろう。

 これで女なら俺的に完璧だと思うのだが生憎意外にも帽子屋さんは大胆で突発的に行動することも多いことから今の性別の方が似合っていると思う。

「…さん、……ア、スさん…!アリスさん!!」

「は、はい!!?」

 ふと声をかけられたことに気づき意識を思考から現実へと戻せば目の前には帽子屋の顔があった。

 帽子屋は怪訝そうな顔をしながらも俺が声に反応を示すとにこっと微笑み「砂糖はいくついれますか?」と俺に角砂糖の入った瓶を渡してくれる。

 甘いものはそこまで好きじゃないがさすがに何度も名前を呼ばれて要らないなんてことは言えず四角いざらざらな砂糖を2個ぼちゃぼちゃと音を立てさせながら紅茶に落とした。かき混ぜてもいないのにカップの中でぐるぐる回る紅茶は生温い熱で紅茶色に侵食された白い砂糖を跡形もなく溶かしていった。

「…あ、もういいです」

 ふと自分が砂糖の瓶を手にしていたことを思い出し帽子屋に渡すと帽子屋はにこっと先程と同じような笑みを浮かべ「ありがとうございます」と丁寧に瓶を受け取ってくれた。

「相変わらずお前はぼーっとしてるな」

 隣に座っていた三月うさぎは俺の方を見ないでそう言い紅茶を飲んだ。

 ミルクティー色の髪の毛に白いうさぎの耳はお菓子を連想させるようで可愛らしく感じられるが生憎三月うさぎは目つきも口調も悪く態度も酷いためその可愛らしさがすっぽり抜けてしまっている。

 もう片方の隣を見ると眠りネズミはすよすよと心地よさそうな寝息をたてて目を瞑り眠っていた。帽子屋は慣れた様子で眠りネズミの紅茶を注ぎその頭を軽く撫でては目を細めている。

 眠りネズミはハーフアップにした少し長めの黒髪が崩れるのも気にしていない様子で規則正しく上下する背中は熟睡していることをさしていた。普段から起きることのない眠りネズミはお茶会が始まる時間、ここに来るまでと家に帰るまでしか起きないらしくそれ以外で起きているところを目にしたことはなかった。

 お茶会に集まるメンバーは全員男だと言うのに自分の周りを見回せば綺麗な顔立ちの野郎どもが呑気に紅茶を飲んでお菓子を食べて訳の分からない話題で話し合う。きっと知らない人がこの光景を見たら何人かは眠りネズミとかのことを女と勘違いするのだろう。

 その中に混ざっている俺の顔は平々凡々、いわゆる普通だ。周りと見比べても冴えない顔。正直このお茶会は俺にとっては少しだけ億劫だった。

 森の中で行われるお茶会。周りはみんな綺麗な男たち。好きでもない甘いお菓子と紅茶に意味のわからない話。

 毎日やるこの行動に呆れるようにため息をつくとパン、と辺りに響くような手を叩く音がした。

 顔を上げると帽子屋さんは椅子に座りにこりと微笑んだまま俺たちを見て「お茶会の準備が整いましたよ」と口を開いた。

 それが合図かのように眠りネズミはむくり

と起き上がり未だ眠そうにふわぁ、と大きな欠伸をした。

 帽子屋はカチャリと音を鳴らしてティーカップを持ち上げた。それに釣られるように眠りネズミ、三月うさぎ、俺もティーカップを持ち持ち上げた。

「今日という日に、アリスとその友人とティーパーティーを開けることに」

「「「「乾杯」」」」

 声合わせその言葉を発せばお茶会の始まり、カチャーンとカップ同士がぶつかる音が響きこおばしい焼き菓子の匂いがただよう。

 お茶会で話す話題は毎回その日の指揮者が決めることになっている。帽子屋を見ると帽子屋は目を伏せて静かに紅茶の水面を見つめていた。この人はいつも何を考えているか分からない。思考を読み取るように帽子屋を、じっと見つめる。その伏せた瞳から覗く真紅は白い肌に映えるような色をしていて、明るい昼間であっても淡い光を零しているような気がする。

 ふと俺の視線に気づいたのか帽子屋は顔を上げて俺の方を見た。カッチリと音が鳴るように目が合えば逸らすことができず何か喋らないと、と口を開こうとするがその前に帽子屋がにこっと先程とは違う静かな微笑みを浮かべ口を開いた。

「それでは今日の話題はアリスの疑問にしましょうか」

 予想外の話題に食べようと摘んでいたクッキーをポトリとテーブルに落とすと帽子屋は俺に笑いかけた。

「さぁアリス、先程私を見て考えていた疑問を教えてください」

「あ…えっと…。大したことじゃないので…」

 その言葉に対する返答も思いつかずそう答えると帽子屋はにこりと微笑んだまま答える。

「あなたに拒否権はありません。今この場でのルールは私です。答えれないなんて言わせませんよ。…あ、嘘も御法度ですからね?」

 帽子屋は逃がしませんよ、と言うような強い口調と視線が俺を捉え逃がそうとはしてくれなかった。

「……帽子屋が帽子をどうして外さないのがきになって」

 仕方なく小さな声でもごもごと答えると、帽子屋は安心したようにふっ、と目を細めて答えた。

「アリスは空を飛ぶ愛しい鳥を捕まえられますか?」

「…は?」

 その回答は俺の質問に沿っていない上に質問を質問で返されたことに思わず酷い対応をしてしまったが帽子屋はその笑みを崩さずに三月うさぎや眠りネズミの方を向き「おふたりはどう思いますか?」と問いかけた。

「そんなの銃で撃ち落として羽をもげばいいだろ」

「三月うさぎさんは暴力的ですね。僕は網で捕まえて鳥籠に鍵をかけてしまえばいいと思いますが?」

 2人はそれぞれ別の考え方で答え、それをお菓子で行動を示した。

 三月うさぎは少し小さなシュークリームをフォークで刺し両端の皮を軽く剥がしてみせ、眠りネズミは同じ種類のシュークリームをティーカップの受け皿に置き、使っていないティーカップで隠すようにシュークリームにティーカップを被せた。

 三月うさぎのシュークリームから毒々しいほど赤いクリームが中からどろりとこぼれ、眠りネズミの方は中が見えずほんとうに中にシュークリームがあるのか不安になってしまいそうだった。

「そんなふうにしてたらいつ鳥が死んでも分からないな。見えもしない相手を愛でるのは心底気持ち悪い」

「今はこんなティーカップに閉じ込めていますが本当は綺麗な鳥籠にいれて傷つかない世界でずっと愛でてあげますよ。どこかの乱暴者よりはずっとマシだと思いますけど?」

「誰か乱暴者だ。網で簡単に捕まえれるほど簡単じゃないだろ。それに鍵が壊れてたらすぐ逃げる。それなら羽をもいで飛べなくしたほうが確実だ」

 物騒な話だ。しかし、こんな物騒な話もこれが初めてってわけじゃない。

 毎回毎回、指揮者が変わる度に話題も変わる。最初は愉快な内容も次第にエスカレートをして気づくと物騒な話へと変わっていく。

 帽子屋はその様子に満足気に微笑み俺の方を見てまた口を開いた。

「アリスはどうしますか?空を飛ぶ愛しい鳥を捕まえるために」

 帽子屋のその問いかけに俺は少し考え込んだ。

 確かに好きなものを自分のところに大切に取っておくのは大切だとは想うが…この問ではその大切なものが『生き物』だ。さすがに生きてるものを自分の勝手で閉じ込めるのはどうかと思う。

 回答を頭の中でまとめた俺は帽子屋の方を見て答えた。

「…俺はあんまり捕まえたくないな。鳥はやっぱり自由に飛びたいだろうし俺だったら多分上手く世話ができなくてすぐ殺しちゃいそうだから」

 いつの間にか三月うさぎと眠りネズミは口論をやめていたらしく俺の答えを聞いて頷いたり少し首を傾げたりしていた。

「あ、俺ちょっと用事思い出したんで行きますね!」

 気まずい沈黙から逃げるように慌てて立ち上がるとガチャンとティーカップが倒れ紅茶が零れる。

 その紅茶に少し気を取られながらもこれ以上居たらいけない気がして俺はお茶会から背を向け森の中へ入っていった。

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