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勇者はやがて魔王となる  作者: ねむネコさん
最初で最後で二度目の旅
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最初で最後で二度目の出会い

暗がりの森の中を俺は一人彷徨っていた。

目的はない──否、彷徨うこと自体が目的と言えるのであろう。

俺は今、国の騎士に追われている。理由は単純だ。俺は──国王を殺した。

国の騎士が血眼になって俺を探すのには十分すぎる理由だった。

この森は、『ルーシーの森』と言う名の森だ。

『ルーシーの森』という名の由来は、かつて荒野だったこの広大な敷地を、ルーシーという少女が一瞬にして森に変えたというからだ。果たしてそんなことができるのかと誰もが思うだろうが、この国──アイオーンには、ルーシーと名のついた地名が各地にある。『ルーシーの砂漠』や、『ルーシーの川』、さらには『ルーシーの山』など、本当に様々な例がある。この国の国民なら誰もが考えたであろうルーシーの正体、神の使いだったという説もあれば、莫大な力を持った魔女だったという説もある。しかし、後者はあまり現実的ではない。俺も国のトップレベルの魔女は何度も見てきたことがあるが、一瞬にして、山や森、川などを作り出せるほどの実力者を見たことがない。国民の間では、前者──ルーシーが神の使いだったという説が一番濃厚だと考えられているらしい。

しかし、一部の研究者はこう言う。そもそも、それらは本当にルーシーによって作られたのかと。ルーシーという名のついた地名は、はるか昔の資料にも書かれていて、その存在自体を否定するような意見はこれまで出たことがなかった。しかし、最近になって、この様な意見が出始めたのは、魔女は決して人類に恩恵を与えないからだ。魔女は何百年、あるいは何千年前から存在しているが、ルーシー以外に人類に恩恵をもたらしたとされる魔女は一人もいない。ここまで聞くと、ではやはりルーシーは神の使いでは?と思う人も少なくないと思う。しかし、これもまた少し厄介なのである。なぜならこの国で神として崇められている存在──アイテールは、魔術を使って、この大陸を生み出したとされているからである。そこから導き出される結論は、神はもともと魔女であり、神自体の力はなかったということ。つまり、アイテールは、厳密には神ではないのだ。しかし、神とはあくまで人間の概念の範疇である。まあ、噛み砕いて説明すると、アイテールは、人間からは神として崇められているが、その存在自体は神ではないということだ。ならば必然的に神の使いというのは、言い換えれば魔女の使いということである。魔女の使い──それは間違いなく、他の魔女だろう。魔女は古くから、魔女だけで生きてきた。勿論、女だけでは魔女は一代で途絶えてしまうので、10年に一度、人間の男を無作為に連れ去るそうだが。ここで一つの疑問が生まれる。それならば魔女の血はだんだんと薄まって行き、最終的には殆ど人間に近いのでは?という疑問だ。しかしその答えは残念ながら否だ。魔女の血はたとえどんなに少量でも、その力自体は弱まらないのだ。もしも、魔女の力が弱まっていたとしたら、人間は魔女に少しは対抗できていただろう。話を戻そう。魔女の使いが魔女であったとするなら、ルーシーもまた、魔女である。しかし、ルーシーは人類に恩恵を与えた。この話は矛盾しているのである。そこで、一部の研究者たちはルーシーと名のつく地名は、ただ単に無作為につけられた。あるいはその土地の管理者の名前、そして、確率はかなり低いが他の何者かが作ったのではないかと。そう仮定したのである。

しかし、そうするとかなり奇怪である。なぜなら、この『ルーシーの森』物凄く迷いやすい。俺がルーシーの昔話を思い出していたうちに10分、その前から彷徨っていた時間も合わせるとかれこれ40分近く歩いているのだが、全く出口に着く気配がない。

これは、本当に魔女にしか作れない森なのではないか……いや、先に言っておくが、俺が方向音痴なだけではないぞ。ほんとに。

「おっと、これで3周目か」

視線の先には、およそ40分まえにこの森に入った時に括り付けたハンカチが括り付けられていた。

「さて、本格的に困ったな……」

確かに、この森は隠れるのにはうってつけだが、いつまでもこの森にいるわけにはいかない。何か脱出手段を考えなくては。

そう考えていた時だった。

俺はある異変に気付いた。

「あの湖はなんだ?」

そこには、これまでなかったはずの湖があった。まだ木々の隙間から見える程度だが、かなり広く、さらに水も透き通っているとみた。

「これはラッキーだな」

俺は木々の隙間をかき分けて、その湖の前へと出た。

「あっ」

俺はその時、思わず素頓狂な声を出してしまった。俺の視線の先には、裸の人影があった。後ろを向いていて、顔は見えないが、銀髪の女の子のようだ。珍しいな。

彼女は、俺の声──あるいは邪な視線に気づいたのか、こちらに振り返る。

彼女の手には小さなタオルが持たれていて、肝心なところは見えなかった。これは、いたいな。

俺が角度を変えたら見えるのではとか、いっそタオル離してもらおうかとか、最低の思考回路を巡らせていると、彼女の口から思わぬ単語が出てきた。

「かける?」

「え?」

俺は本日二度目の素頓狂な声を出してしまった。

まあ今回は仕方ない、名も知らない半裸の美少女に、いきなり名前を呼ばれたら、それは驚くに決まっている。

「か、かけるなの?」

なおも彼女は俺の名前を呼び続ける。

あっ、そういえば自己紹介すんの忘れてたな、俺の名前は龍崎翔、よろしくな。

ってあれ?俺今誰に自己紹介したんだ?いや、そんなことはどうでもいい。今は前の少女に集中しよう。

「えっと〜ごめん、俺君のこと知らないんだけど……どちら様?」

すると、目の前の少女は、少し考えた後、ハッと何かに気付くと、とんでもない爆弾発言をした。

「あっ、そっか、かけるはまだ私のことわかんないのか〜、じゃあ自己紹介するねっ、私はかけるの未来の恋人、セーラです!よろしくね!」

うん、なるほど。さっぱりわからん。

俺が呆気にとられていると、彼女はバシャバシャと水を跳ねながらこっちへ走ってきた。

そして、俺の胸元に抱きついてきた。

「えへへ〜」

あっやばい、めちゃくちゃ可愛い。

っていうかいろんなものが当たってるんですけど⁉︎

俺は急いで彼女から離れると、状況を確認した。

「えっと〜君──じゃなくてセーラは下着はどんなの履いてるの?」

あっやべ。質問思いっきり間違えた。

「えっとね〜今日の下着は──」

「あーーーごめんごめん今のなし!」

まさか本当に言おうとするとは……ちょっと聞いてみたい気もしたが。

「え〜そう?別にかけるにならいいのに〜」

「あのさ、俺はセーラのこと知らないんだよね、それにさっき俺のことを未来の恋人とか言ってたけど、君は未来から来たの?」

「うん!そうだよっかけるを救いに来た!」

「俺を……救いに?」

「うん、かけるはこれからとても大変なことになっちゃって、死んじゃうの、でもそれを私が食い止めに来たから安心して、かけるは私についてくればいいから」

そういうと、彼女は着替えてくる〜と言い、岩場にかけてあった着替えの方へと駆けていく。しばらくして戻ってくると、セーラはよし!と気合いをいれ、俺の手をとった。

「ちょっ」

「大丈夫大丈夫、私、出口知ってるからっ」

俺は彼女が何者なのかもわからないまま、彼女に手を引かれた。

俺は正直、彼女を信頼できてはいなかった。

しかし、俺はなぜかその手を離せなかった。

その手がなぜか、昔から知っているような懐かしい感触だったからだ。

そして、彼女にされるがままにされて来た末、出口らしき光が見えた。

そして、たどり着いたのは──俺を追っている国の騎士が100人近く集まった、捜索本部と思われる場所だった──

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